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「週休3日制」で従業員満足度世界一を目指す飲食企業 導入した背景とその効果とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
飲食業の構造的改革を推進するMostfun代表の大崎拓実氏(筆者撮影)

「週休2日制」が一般的な中、「週休3日制」を導入して「日本の従業員満足度世界一」をフィロソフィー(私たちの理念)としている飲食企業がMostfun(本社/横浜市港北区、代表/大崎拓実)である。代表の大崎氏(32歳)が起業したのは2020年11月、2022年3月に会社を設立し、2023年9月末現在9店舗となっている。同社の事業はコロナ禍の真っただ中で始まり、業容を拡大し続けているが、この原動力となるのは「週休3日制」と「日本の従業員満足度世界一」にあるようだ。

「週休3日制」とは、1週間に3日間の休みを設ける制度のこと。一般的には1週間に2日間(例:土日)の休日を上限としている企業が多い中で、さらに1日を増やした制度が週休3日制だ。これを導入する目的は、ワークライフバランスの改善や生産性の向上。また、従業員のモチベーション向上や離職率の低下、さらには企業のアピール向上も目的の一つとされている。なお日本政府の『経済財政運営と改革の基本方針2021年』によると、多様な働き方の実現に向けた働き方改善の一環として、週休3日制の促進を各企業に促している(一部『すべらない転職』より)。

ではまず、Mostfunの大崎氏は、いかにして「週休3日制」を導入することになったのかを紹介しよう。

川崎の「もつ焼き じんべえ」の従業員のユニフォームにはMostfunのフィロソフィーである「日本の従業員満足度世界一」の文言がプリントされている。その言葉通り表情がみな活き活きとしている(筆者撮影)
川崎の「もつ焼き じんべえ」の従業員のユニフォームにはMostfunのフィロソフィーである「日本の従業員満足度世界一」の文言がプリントされている。その言葉通り表情がみな活き活きとしている(筆者撮影)

コロナ禍で「飲食業の起業」を決断

大崎氏は横浜の出身で、大学生の当時からキャッチを行い、知人と一緒に飲食業を立ち上げてキャッチから事業を進めて飲食店の展開を行っていった。この会社には21歳から27歳まで在籍したが、7店舗になっている段階で、従業員満足が著しく低くなっていることを痛感していた。具体的には、給料が低い、休みが少ない。これを自分で改善しようと考えたが、当時の状況では構造的に無理だと判断した。

これらを改善するためには一から取り組む必要があると考えて、立ち上げた飲食業で支援をしていただいた人事コンサルティング会社に転職した。「この会社に入ってコンサルティングの仕事をすると、いろいろな会社の労務の状況が分かる。自分たちがやっていたことはおかしなことなのか、明らかに見えてくるのではないか」(大崎氏)と考え、業務に励んだ。

しかしながら「みな同じことで悩んでいる」という現実に直面した。社員にとって給料が低い、休日が少ない。会社は求人費にお金をかけ続けている。飲食業のほぼ全体がこのような状況にあった。そこで自らその解決策を模索していき「働いている人の満足度を上げると、アルバイトを紹介してくれたり、アルバイトから社員になりたいと思ってくれる、といった仕組みが出来上がっていくのではないか」と考えるようになった。

大崎氏がこの会社に勤務したのは約1年間。退社した理由は「コロナ禍」がポイントとなった。「コロナ禍になって、人事コルサルティングでご支援している会社様が撤退傾向になって、これから物件がどんどん出てくると考えたから。『ここで、自分が飲食業をやらないといつやるんだ』という気分になった」という。そこで、飲食業の展開に踏み込むことを決断した。

営業する店舗は展開に瞬発力を付けるために「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)と「新時代」のFCに加盟した。この二つのブランドは、コロナ禍にあって唯一勢いよく展開していたチェーンである。同社の業容は現在「ときわ亭」3店舗FC、「新時代」3店舗FC、「もつしげ」1店舗FC、「すし酒場 さんじ」1店舗直営、「もつ焼き じんべえ」1店舗ステルスFCとなっている。展開をする過程で、業態転換を行ってきていて、今年の2月に「すし酒場 さんじ」をオープンしてからは、自社ブランドを育成する狙いで業態開発のエキスパートを招へいして、独自の店舗展開を進めようとしている。

今年の2月、新横浜の飲食店街にオープンしたMostfun初の直営店「すし酒場 さんじ」は広い間口の中止効果が高く、新規客が入店しやすい雰囲気を醸し出している(筆者撮影)
今年の2月、新横浜の飲食店街にオープンしたMostfun初の直営店「すし酒場 さんじ」は広い間口の中止効果が高く、新規客が入店しやすい雰囲気を醸し出している(筆者撮影)

アルバイトが社員になりたい環境

大崎氏が、Mostfunを立ち上げて、最初に手掛けたことは「週休3日制」であった。その狙いについてこう語る。

「私が最初に考えたことは『30歳以下の人材を重点的に採用したい』ということ。その理由は、会社が文化形成をするためには、同じような考え方をする人たちを集めて仕事をした方が、精度が高くて速いと考えたから」

「30歳以下の人材を集めようと考えたときに『体力があるが、休みが欲しい』という人がたくさんいる。そこで1日の労働時間を増やして、休みを週3日にして、1カ月の労働時間は同じで休みが多い方が歓ばれるのではないか。そこで1店舗目から、1日10.5時間労働で月休が12日の制度をきちんと行っていこうと考えた」

週3日の休日を社員はどのように過ごすのだろうか。大崎氏はこう語る。

「それは、勉強という自己投資であり、副業をしている人も。このように1日の労働時間が長く、休日が多い方が、個人の能力アップに大いに役立つ」

この例え話として、野球の話題を二つ言及してくれたことがとても分かりやすかった。

「週休3日制を受け入れてくれるのは、野球に例えると草野球を楽しむような人たちです。飲食業は甲子園を目指す人たちだけでいいのでしょうか。過度な厳しさや、つらいことばかりで結局人が集まらないじゃないですか。甲子園を目指すことは、ものすごい人気業界がやることであって、不人気業界がやることじゃないのです」

「また、全員が甲子園を目指しているとしましょう。例えば、強豪校の横浜高校の選手は週5日横浜高校で練習するのではなく、うち1日は大阪桐蔭で練習した方が、環境が変わることで刺激になりめちゃくちゃ自分のためになるはずです。週休3日制はこのような素晴らしい体験ができるきっかけをもたらします」

このような働く環境ができたことになって、社員にとっては「自分の会社はいい会社」というムードが定着するようになった。さらに別の会社で働く友人などから、自分の職場について愚痴を聞かされたら「だったら、うちで働きなよ」と勧めることになる。さらに、社員が活き活きと働いている様子を見て、アルバイトが社員になりたいと思うようになる。このような仕組みを同社では「カンテラ制度」と呼んでいる。

「カンテラ」とは、スペインにおけるサッカーの下部組織・ジュニアチームのことで、幼少期から自らの組織で世界レベルの選手を育成している。これを企業に置き換えて、アルバイトが社員になりたいと思う会社にしていくことによって、最終的に人材不足を解消していくと大崎氏は考えている。こうして、求人費は限りなく無くなっていく。

「すし酒場 さんじ」の上階にある「新時代」は、営業時間中延々とこのような繁盛風景が展開されている(筆者撮影)
「すし酒場 さんじ」の上階にある「新時代」は、営業時間中延々とこのような繁盛風景が展開されている(筆者撮影)

同じ人間性の文化が醸成されている

大崎氏の飲食業に対する持論はこうだ。

「飲食業での『やりがい』や『楽しさ』とは、ここで働く本人がお客様と接して、感謝される場面があったりすることで得られることなのです。しかしながら、労働環境が整っていないために働く人を疲弊させている。一方で、単に労働環境をよくするだけでは会社の環境はぬるま湯になっていく。『楽な会社』になってしまうと、CS(顧客満足)がどんどん下がっていきます。そこで『やりがい』と『成長』を体得させる労働環境がしっかりと整っている状態を保つ必要があるのです」

「週休3日制」をスタートして丸3年が経とうとしているが、大崎氏は「この会社の中に、同じ人間性の文化が醸成されていることを実感するようになった」と語る。

その根幹となるのは「店長との面談」である。同社では店長1人に対して、社長、部長、マネージャーがそれぞれ月に1回オンラインで面談をしているのだが、その面談で店長には現状の不平不満を徹底的に吐露させるそうだ。さらに面談をする管理職はコーチングを学んでいて、その手法によって店長に解決の方法を導き出させる。面談の内容は社長、部長、マネージャーが共有して閲覧できるよう共有も行う。

また管理職はアルバイトとも面談する。これは「2:6:2の法則」(*)に基づいて、このトップランナーの上位2割を引き上げ、中位の6割の底上げを図るために行っている。

*「2:6:2の法則」とは、どのような組織・集団でも、人材の構成比率は、優秀な働きを見せる人が2割、普通の働き方をする人が6割、貢献度の低い人が2割になる、という理論。

さらに上位2割の中で「とても優秀で絶対に社員にしたい」というアルバイトに対して、大学2年生、3年生の段階から「ユース制度」と称して、社長である大崎氏が直接面談している。「現状、アルバイト200人の40人がトップランナー、うち10人程度がユース制度」(大崎氏)で面談を重ねる中で、Mostfunに愛着を醸成してもらうようにしている。アルバイトから社員となる人材は、今年16人となる。

また、アルバイトスタッフにはアルバイトが参加して主体的に運営するイベントを月1回のペースで開催している。この内容の一例が、以下の一覧表の「運動会」「ウェルカムパーティ」であり、いま仕組みとして整ってきている。

アルバイト主体で運営されている1年間のイベントスケジュールがこちら。「この会社で働きたい」という思いが喚起される大きなノウハウ(Mostfun提供)
アルバイト主体で運営されている1年間のイベントスケジュールがこちら。「この会社で働きたい」という思いが喚起される大きなノウハウ(Mostfun提供)

自社の成功体験を他社と共有する

大崎氏はこう語る。

「会社が大きくなればなるほど、従業員の大多数がアルバイトであるにもかかわらず、会社はアルバイトとのコミュニケーションを取らなくなる。そうならないよう、アルバイトが、どのような目的を持っているか、やりがいを感じているか、社員だけではなく、アルバイトとのコミュニケーションに時間とお金をかけるべきです」

「仮に求人広告費に50万円をかけるのであれば、それを社員・アルバイトとのコミュニケーションに使いましょう」ということだ。「週休3日制度」とは、その入口であり原理原則にほかならない。

このような職場環境とはどのような店舗空間をもたらしているのか、同社の各店を訪れてみればよく分かる。従業員の各人がその店で働いていることに歓びを感じている様子が伝わってくる。業績としては、例えば「さんじ」が35坪で月商1250万円、「新世代」新横浜店が43坪で月商1650万円と高い売上を示している。

大崎氏は、このように自社での取り組みと成功体験を自身のコンサルティング活動で同業他社と共有している。支援先の飲食企業ではそれぞれが実績をつくっており、こうした活動のすべてが、Mostfunのフィロソフィー「日本の従業員満足度世界一」につながっているのである。

業容の展望としては「最速で50店舗」を掲げ、社員1000人体制の組織を目指している。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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