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隈研吾氏設計「あんこ」にこだわった和菓子販売とレストランの融合 北関東の雄「坂東太郎」の挑戦

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
隈研吾氏が設計した「AOYA CAMPAGNE」は北関東の誇り(坂東太郎提供)

7月23日日曜日、栃木県のJR小山駅から車で約10分の国道50号線沿いに「AOYA CAMPAGNE(アオヤ カンパーニュ)」という店がオープンした。下の写真は8月9日水曜日、天候不順で時折雨脚が強くなった11時30分ごろの様子。40台強収容の駐車場は満杯になった。品格を放つ同店は隈研吾氏の設計、店頭にある古代の意匠を連想させるロゴは左合ひとみ氏のデザインと一流の人物が店づくりに関わっている。

左合ひとみ氏が作成した「アオヤ カンパーニュ」のロゴ。同店のブランディングに活かされている(筆者撮影)
左合ひとみ氏が作成した「アオヤ カンパーニュ」のロゴ。同店のブランディングに活かされている(筆者撮影)

8月9日(水)、時折雨脚が強くなる天候にあっても平日ながら駐車場は終始満車の状態(筆者撮影)
8月9日(水)、時折雨脚が強くなる天候にあっても平日ながら駐車場は終始満車の状態(筆者撮影)

店の業種は和菓子の販売とレストランの運営。エントランスから和菓子の売り場が広がり、正面には同店のポイントとなる「あんこバー」がある。これは「えりも小豆粒あん」「和栗あん」「ピスタチオあん」といった8種類のあんこをジェラートショップのように小分けにして陳列し、お客からの注文に応じて「あんソフトクリーム」各600円(税込、以下同)や「あんガレット」1個1200円で販売している。

「アオヤ カンパーニュ」が初めて導入した「あんこバー」はジェラートショップのような要領でサービス。施設利用者のほとんどが買い求める(筆者撮影)
「アオヤ カンパーニュ」が初めて導入した「あんこバー」はジェラートショップのような要領でサービス。施設利用者のほとんどが買い求める(筆者撮影)

左合氏製作のロゴをかたどった「はとむぎサブレ」も同店話題の商品。はとむぎは小山市が国内有数の生産地であることからこちらを採用、これに卵、バター、北海道産てんさい糖といったシンプルな素材を使用している。

このほかテイクアウトメニューはすこぶる独創的だ。あんガレット、はとむぎサブレに続いて看板商品としているのが「揚げ最中」1個200円、「あんキューブ」(つぶあん、こしあん、しろあん)1個200円、そして一般的なソフトドリンクに加えて「あんこスムージー」680円、「苺あんこスムージー」「抹茶あんこスムージー」各650円の甘さが絶妙なバランスで記憶に残る。「またここに来て飲みたい」と思わせる。

レストランは屋内60席、テラス32席。フードメニューは1300円前後のパスタやカレーのほかにローストビーフ等を盛り合わせにした「スペシャルプレート」1880円もある。「あんこチーズフォンデュ」1080円というものもあり、「あんこ」へのこだわりが一貫している。

北関東の雄「坂東太郎グループ」の挑戦

「アオヤ カンパーニュ」を運営しているのは株式会社蛸屋(本社/栃木県小山市、代表取締役社長/上村信夫)。同社は北関東で飲食店を84店舗(8月17日現在)、年商約100億円の株式会社坂東太郎(本社/茨城県古河市、代表取締役会長/青谷洋治)のグループ企業である。

同社の原点である「蛸屋菓子店」は元禄11年(1698年)の創業。1963年栃木県小山市に本社を置き「御菓子司 蛸屋総本店」の屋号で和菓子の製造と販売店を展開していた。北関東にFCを含めて100を超える店舗を構えて1990年に22億円を売り上げた。しかしながら、2017年に会社は破産、同年の8月に会社更生法が適用された。負債総額は関連会社を含めて35億円であった。

ここからの動向を坂東太郎会長の青谷氏に取材をしたことをまとめておきたい。

坂東太郎の経営理念は「親孝行」。この「親」とは、目上の人、上司、先輩、親などお世話になったすべての人。「孝」とは、相手の人に理解していただくまで誠心誠意を尽くすこと。「行」とは、自らの行動で実行し続けること。――このように掲げている。

坂東太郎グループの一員となった蛸屋菓子店に対して、早速行ったことは不採算の整理。そして従業員を解雇しない約束の元で、従業員の意識改革に尽くした。働いている人たちが同じ方向を向いてくれるように表彰制度をつくり、褒める環境をつくった。次に工場の改造、導線を整えて働きやすい環境をつくった。工場の壁は取り壊してお客が買い物に来ることが出来るように直売所を設けた。

工場の敷地内では施設を増設、またイベント広場を設けて2021年10月16日に「おかしパーク」としてグランドオープンした。この初日から1週間で約6400人のお客が訪れて840万円を売り上げたという。館内では、お菓子の製造工程がガラス越しに見学が可能で、コロナ禍が落ち着いてきて、小学校の社会科見学で活用されている。

青谷氏はこう語る。

「私が誓ったことは『3年間で会社を完全に更生させる』ということ。34億円の負債とは目に見えている負債であり、『人の心』という負債はもっと大きい。それは人からの信頼を失った、裏切られた、希望がないがしろにされた、とか。これらを更生することはもっと重要だと考えた」

「飲食店の売上は席数に比例するが、お菓子はヒットするとどんどん売れる。するとお客様は喜ばれて、働いている人も生き生きとなっていく。このような可能性に期待を寄せた」

地域のお客にとって誇り高い施設

「アオヤ カンパーニュ」の構想は「おかしパーク」を立ち上げた頃に描くようになった。

それは「蛸屋」のブランドをより力強く復活させるために、「ちょっとした努力をした、ということでは駄目だと考えたから」(青谷氏)。そこで、世界的な建築家である隈氏に依頼をしたいと信念を抱き、思いを募らせて行動をしているうちに、隈氏と直接面談するようになり、蛸屋にとっての新しい店づくりについての構想を熱く語った。その過程でデザイナーの左合氏をはじめとした一流のクリエイターが集まってきた。

そして隈氏にあやかって「アオヤ カンパーニュ」を象徴する和菓子として謹製栗最中「隈」を製造した。これは隈氏があんや栗を好むということを聞きつけて生まれた商品。粒あんは北海道産の小豆、これに塩味を効かせてあっさりとした甘みに仕上げた。栗は茨城の名産である「笠間の栗」を丸ごと使用。これに隈氏のサインをかたどった皮で包んでいる。

中元やお盆など祭事での贈答品や丁寧なお土産品としてお客から求められることに期待を寄せている。

隈研吾氏が制作したことを記念して「アオヤ カンパーニュ」を象徴する商品として謹呈栗最中「隈」をつくった(坂東太郎提供)
隈研吾氏が制作したことを記念して「アオヤ カンパーニュ」を象徴する商品として謹呈栗最中「隈」をつくった(坂東太郎提供)

ここで販売する商品は、既存の「蛸屋」で販売しているものを置いていない。冒頭で述べたユニークなテイクアウト商品をはじめとしてすべて「アオヤ カンパーニュ」のオリジナルである。これによって、同店を特別な店として位置付けて目的来店の動機を強くさせている。

物販コーナーとレストランを隔てる棚の仕切りの下にキャスターを付けて物販コーナーのお客が増えたときに可動できるようにしている(筆者撮影)
物販コーナーとレストランを隔てる棚の仕切りの下にキャスターを付けて物販コーナーのお客が増えたときに可動できるようにしている(筆者撮影)

店舗の敷地面積は約860坪、建築面積は約107坪。従業員は約30人。オープンしてたちまち繁盛店となり、平日客数が500人で売上80万円、土日は800人で120万円となっている。同店支配人の谷口賢三氏は「現状、物販6割、飲食4割だが、これを物販7割の状態に持っていきたい」と語る。この販売構成が整うと、これまでにない生産性がとても高い業態が出来上がることになる。

悪天候の平日でもランチタイムのレストランはこのような状況。女性客が95%を占める(筆者撮影)
悪天候の平日でもランチタイムのレストランはこのような状況。女性客が95%を占める(筆者撮影)

オープンして3週間近くが経過して、リピーターがみられるようになり「この店は、坂東太郎がやっているって……」とささやくお客も増えてきているという。商品のクオリティが高く、ユニークな売り方があって、建物は記念館のような風格のある「アオヤ カンパーニュ」は、地域のお客にとって誇り高い存在として位置付けられていくことであろう。

蛸屋代表取締役社長の上村信夫氏(右)と同社専務で「アオヤ カンパーニュ」支配人の谷口賢三氏(筆者撮影)
蛸屋代表取締役社長の上村信夫氏(右)と同社専務で「アオヤ カンパーニュ」支配人の谷口賢三氏(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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