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東京で増え続けるド派手な飲食店仕掛け人 恵比寿横丁もプロデュースした「浜倉好宣」とは何者か?

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
店舗デザインも自身のファッションもド派手で一貫している(浜倉的商店製作所提供)

アイキャッチの人物は浜倉好宣(はまくらよしのり)氏である。職業は「浜倉的商店製作所」の代表。同社は飲食店のプロデュースをしていて、手掛ける店はずばり“派手”。赤い提灯を整然と並べ、ヘタウマな筆文字で店の看板や短冊にメニューを書き込んでいる。オープン初日にはチンドン屋が店頭から近隣を練り歩く。店内の客席が狭く、店の中を通る際にはお客同志がいやおうなしにぶつかる。しかしながら、お客はみな笑顔になり、声を大きくして会話する。

「浜倉プロデュース」の施設がオープンするときにはチンドン屋が練り歩くことが慣例(浜倉的商店製作所提供)
「浜倉プロデュース」の施設がオープンするときにはチンドン屋が練り歩くことが慣例(浜倉的商店製作所提供)

このような人間臭い“浜倉ワールド”が再び東京の中心に増殖している。2020年7月末、コロナ禍真っ盛りの中で「渋谷横丁」をオープン。19店舗、1200席という圧倒的な規模はカオスな組み合わせの中で独特の一体感を放った。コロナ禍はその後厳しいものとなりオープン当初のにぎわいは静かになったが、コロナ禍が落ち着いてきた今年の夏から出店を開始した。

まず、8月1日新宿のアルタ隣りに「新宿 屋台苑」がオープン。角地の2階づくりでこぢんまりとしているが、新宿駅前の光景をがらりと変えた。10月20日渋谷マークシティ隣に「日韓食市」がオープン。地下1階から地上5階までの1棟を店名通りのコンセプトで固めた。

8月1物、新宿アルタ隣りに「新宿 屋台苑」がオープン(筆者撮影)
8月1物、新宿アルタ隣りに「新宿 屋台苑」がオープン(筆者撮影)

10月20日渋谷マークシティ隣りにオープンした「日韓食市」(筆者撮影)
10月20日渋谷マークシティ隣りにオープンした「日韓食市」(筆者撮影)

そして東京・新宿駅の東口、長く親しまれていたアサヒビアホールがしばらく工事にかかっていたが、ここに10月24日「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」が誕生した。路面にあるメインの入口は竜宮城のイメージ。ここに地上1・2階、地下1・2階で270坪、17店舗で構成され1000人を収容する。圧倒的な規模であるが、施設の構造や色使いも印象深い。確実に街のランドマークとなって行くことだろう。

10月24日新宿東口にオープンした「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」(筆者撮影)
10月24日新宿東口にオープンした「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」(筆者撮影)

ほとんど不夜城の“異空間”を創造

「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」の中を詳しく紹介しよう。施設内は地上1、2階が5店舗で24時間営業、地下1、2階は12店舗で12時から朝8時までの20時間営業。ほとんど“不夜城”である。

■地上階、2階

・「ピザ&パスタ 赤煉瓦」:カジュアルイタリアン

・「中華食堂 羽衣楼」:ポップな中華食堂

・「Sol Bangla」:タイ屋台

■地上階、1階

・「台所 日ノ本」:日本全国食べ比べ

・「韓明洞」:カジュアル韓国流

地上1階2階の入り口は新宿駅東口から明治通り方面に続く道路に面して「龍乃木都飲食街」という看板を掲げている。名称通りに入口が竜宮城をかたどっていてよく目立つ。ここはランチ需要を取り込める場所であることから、分かりやすいポピュラーな業種を集めて食事需要にも訴求している。

地下も1階2階で構成されているが、地上階とは趣が異なる。

■地下階、1階

・「PUB TESUN」:ちょい飲みアイリッシュパブ

・「牛の肉宮(NIKUGU)」:牛づくし

・「魚街道」:魚介酒場

・「肴鮨(ATESUSHI)」:つまみと寿司

■地下階、2階

・「焼鳥・鳥づくし 炎上(CHARCOAL GRILL)」:焼鳥・鳥料理

・「金豚帝(Kintontei)」:豚料理

・「貝道(KAIDO)」:貝づくし

・「焼肉酒場 焼肉肉蔵(NIKUKURA)」:焼肉酒場

・「TEPPANDO鉄板堂(TEPPANNYAKI&MONJYA)」:鉄板焼き・もんじゃ

・「香港屋台小龍(SHORYU)」:香港ネオン屋台

・「博多 屋台屋(HAKATAYATAIYA)」:博多屋台で九州飯

・「VIP」:泡と飯と唄

 地下階の店はそれぞれ専門性が高く、フードはお酒のおつまみ的なポジションになっている。ここで圧巻なのは地下1階から吹き抜けとなっている地下2階を見下ろす眺めだ。ネオン管でつくられた派手な看板が重なり合って天井部分を構成している。

地下1階と地下2階は吹き抜け構造になっていて、大きなモニターと音響によってダイナミックに演出(筆者撮影)
地下1階と地下2階は吹き抜け構造になっていて、大きなモニターと音響によってダイナミックに演出(筆者撮影)

さらに、心臓の鼓動のようなBGMと共に大きなモニターでテンポよく変化していく画像によって気分が高揚する。地上階では“流し”が客席を回り酔客の歌のお供を務める。地下階にはDJブースがあり音響のアートが楽しめる。カオスな空間であるが食と画像と音によって独特の一体感を醸し出している。

「飲食バブル」を知り尽くした男

このような“異空間”をつくり続ける「浜倉好宣」氏とは何者か。

浜倉氏は1967年神奈川・横須賀生まれで京都出身。今日の斬新な飲食店プロデュースの原点は浜倉氏のユニークな来し方にあると筆者は認識している。

浜倉氏は高校時代からアルバイトで飲食業に親しみ、卒業後は京都駅の商業施設内の飲食店で働いた。この店のメニューに統一性が全くなかったことから、ここに浜倉氏が改革を施したところ売上が商業施設内のトップとなった。ここで「飲食店プロデュース」に目覚める。

24歳でFC展開をする弁当チェーンのスーパーバイザー(SV)を経験。その後、旅館の運営の手伝いをする。ここに出入りする庭師と知り合い、この庭師が経営する和歌山・南紀白浜の民宿で「残酷焼き」と出合った。これはイセエビやアワビなどを生きたまま焼くもので、焼き上がる過程で魚介類はもがいて残酷な感じだが、だんだんと香ばしい匂いが漂ってきて、食べるほうとしては食欲が増してくるというもの。この体験が後に“浜倉ワールド”の飲食店の看板メニュー「浜焼き」となる。

29歳で当時飛ぶ鳥を落とす勢いがあった大阪本部の飲食企業「ちゃんとフードサービス」に入社。ここで成長する飲食業のパワーを体得した。同社が東京圏に進出するに伴い東京に出向くことになり、これまで想像したこともない「月商1億円の飲食店」が数多く存在することを知る。ここで「飲食のマーケットは東京だ」と確信し、飲食プロデュースの分野で独立する。

フリーの飲食プロデューサーを1年ほど経験してから、当時高級焼鳥店を展開している「フードスコープ」に2000年入社、このとき34歳。ここでは高度な食材や調理法にこだわっていて、浜倉氏は人材採用も担当することになり「人材力」の重要性を知る。

フードスコープでは米国ニューヨークに進出し高級レストランの「MEGU」をオープン。食通のニューヨーカーから注目されることになる。浜倉氏はここの運営も担当する。

この当時「飲食バブル」の雰囲気が漂っていた。大衆的な料理や「おふくろの味」的な雰囲気が遠ざかっていく感覚があった。そこで浜倉氏は飲食バブルから離れることにして、大衆的な店づくりを志すようになった。

「街の魚屋さんの再生」で注目浴びる

浜倉氏がフードスコープを辞めて初めてプロデュースした飲食店は東京・門前仲町の店。ここを手掛けることになったのは「街の魚屋さんの再生」がきっかけだった。街の魚屋さんはスーパーマーケットチェーンに押され閉店を余儀なくされている。そこで街の魚屋さんを「鮮魚の居酒屋」で再生させるというプロジェクトであった。これが2005年6月のこと。

「浜倉プロデュース」の第一弾は「街の魚屋さんの再生」(浜倉的商店製作所提供)
「浜倉プロデュース」の第一弾は「街の魚屋さんの再生」(浜倉的商店製作所提供)

その後、浜倉氏は2008年に恵比寿駅近くに「恵比寿横丁」をプロデュースしたことで脚光を浴びた。

東京の「恵比寿」は1990年代の後半から隣の若者の街「渋谷」に対して大人の街と呼ばれるようになりおしゃれなレストランが増えていったが、その中で築40年以上、落書き付きのシャッターで閉ざされた一角があった。4階建ての共同アパートの1階で昔は栄えていたという。

 浜倉氏はここを初めて訪れた2006年以来、だんだんと自分の頭の中に店主もスタッフも世代をまたいで楽しく働き、専門店の集合体がそろった酒場街になっている映像がピタリと降りてきたという。そこで3度の工期を経て21店舗の横丁ができた。通路にも客席が構成され、人間臭い光景が展開されるようになった。

その後「有楽町産直横丁」「新橋ガード下横丁」「日比谷産直飲食街」等をプロデュースしていく。そして2020年7月の「渋谷横丁」に至る。

2020年7月にオープンした巨大な「渋谷横丁」の一角。ここに来れば”カオス”の意味が分かる(筆者撮影)
2020年7月にオープンした巨大な「渋谷横丁」の一角。ここに来れば”カオス”の意味が分かる(筆者撮影)

浜倉氏は最新店「龍乃都飲食街~新宿東口横丁」のコンセプトを「日本の良き大衆文化をアップデートして次世代につなぐ」と紹介してくれた。一見してカオスであるが「食と画像と音によって独特の一体感を醸し出している」というのは、このコンセプトが全体の軸足をしっかりとしたものにさせているからだろう。

来年4月東京歌舞伎町タワーの2階にオープンする「歌舞伎町横丁(仮題)」のイメージ(PRtimesより)
来年4月東京歌舞伎町タワーの2階にオープンする「歌舞伎町横丁(仮題)」のイメージ(PRtimesより)

そして来年4月、歌舞伎町にそびえる東急歌舞伎町タワーの2階にエンターテインメントフードホールをオープンする。浜倉氏が取り組んできた「横丁」のコンセプトは一貫して“再生”である。それは人も街もすべて再生するということ。確かに、浜倉プロデュースの「横丁」はそれまで沈んでいた街に活気をもたらし、人々が生き生きと楽しく働き飲んでいる。果たして来年の4月歌舞伎町がどのように変貌するか、“浜倉ワールド”が注目される。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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