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「飲食経営者にはハートがある」連載900回超え背景を追うコラム 再現ドラマ化の狙いとは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
『飲食の戦士たち』の再現ドラマ制作を進める武田あかね氏(武田氏提供)

『飲食の戦士たち』というweb上の連載コラムがある。内容は飲食業経営者が社長になるまでの生い立ちから修業時代、そして創業時の苦労話をまとめたもの。登場する経営者は上場企業から数店舗の社長まで。さまざまな人生模様が綴られている。

筆者は飲食業分野のライターをしていて、初めて取材をする経営者はどのような人物かを把握するために、まずこの『飲食の戦士たち』を検索するようにしている。するとたいてい知りたい経営者のことが掲載されていてとても重宝している。

*「飲食の戦士たち」

https://in-shoku.info/foodfighters/

この連載の第1回は2008年2月のこと。そして2022年9月に900回を迎えた。飲食の経営者のコラムが900回となると、企業化している飲食業のほとんどが網羅されていると言っていいだろう。要するに『飲食の戦士たち』はいま飲食業経営者の貴重なデータベースとなっている。

この『飲食の戦士たち』は新たなプロジェクトとしてこの度動画版となる“再現ドラマ”の作成をスタートさせた。これは10分前後のドラマ仕立て。主人公が、おいしそうな飲食店に入り、ビールを飲むと目の前の写真の人物の過去にタイムスリップして、現在の社長になるまでの道筋や料理へのこだわりを知ることになる――というストーリーである。

『飲食の戦士たち』”再現ドラマ”は10分前後のドラマ仕立てで、飲食業経営者の修業時代のエピソードがまとめられている(キイストン提供)
『飲食の戦士たち』”再現ドラマ”は10分前後のドラマ仕立てで、飲食業経営者の修業時代のエピソードがまとめられている(キイストン提供)

飲食業経営者にはハートがある

『飲食の戦士たち』を運営しているのはキイストン(本社/東京都港区、代表/細見昇市)。飲食業界に特化した人材採用を中心に事業を展開している。代表の細見氏はリクルート出身でトップセールスの常連であった。リクルート時代に知り合った武田あかね氏と共に1992年10月にキイストンを立ち上げた。

リクルート時代に営業力を鍛え、世の中の人材営業を知り尽くしている細見氏はいかにして「飲食業界」に特化するようになったのだろうか。それは独立したばかり当時の“バブル崩壊”が大きな転機となった。細見氏はこう語る。

「前職で私は飲食業の営業を苦手としていた。それは求人広告を受注することができてもなかなか採用に結びつかないという現実があったから。それが“バブル崩壊”によって、飲食業における人材採用の環境が変わった」

「不景気になるとほとんどの業界が採用を控え求人数は少なくなるが、飲食業は家賃や保証金が交渉で安くなるので出店がしやすくなる。飲食業は景気に関係なく人材採用に前向きに取り組んでいる、という感覚をつかんだ」

こうして、細見氏は飲食業の経営者に取材をする機会が増えていった

「飲食業の特に複数店舗を展開している経営者は人間力が素晴らしい。1店舗だけだったら“こだわりのおやじ”でいいが、複数店舗となると人を使わないといけない。ハートがあるから人が集まってくる。こうして何十店舗、何百店舗が成立している」

「グルメサイトなどを見ると、ほとんどのところで社長が独立した経緯、商品に対するこだわりが紹介されていた。そこで社長になるためにはどのような背景があるのかということを一つ一つまとめて行こうと考えた。子供の頃に料理をつくったら親から褒められたとか。社会人になって先輩に憧れたとか、こんなエピソードが重要だと考えた」

このように細見氏は“飲食業愛”を強めていって、キイストンの事業を「飲食業特化型」に先鋭化していきwebコラムの『飲食の戦士たち』が誕生した。

2008年2月に第1回をスタート。「早い段階で“情報の量”をつくろう」と考え、3年後の2011年1月に200回を達成した。「すると視界がガラリと変わった」という。『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』をはじめとしたテレビ番組からの問い合わせが増えていった。

コラムの連載回数が増えていくにつれてアポに対する信頼度が高くなった。飲食業経営者から「当社の従業員に、どのようにして会社ができたのかを知らせたいので記事にしてほしい」といった依頼を受けるようになった。

「いろいろな経営者の連載があるが、ほとんどが“いまの状態”を記事にしているので連載を長く継続することができない。しかし、経営者の生い立ちや修業時代の話は風化することがない。このような『飲食の戦士たち』のコンセプトによって連載900回を達成することができている」

このように細見氏は語り、連載1000回達成に向けて意欲を見せる。

飲食業のさらなる活発化を支援

細見氏は『飲食の戦士たち』連載900回が見えてきたころから「飲食業界を盛り上げるために、われわれがやってきたことを若い世代に伝えたい」と考えるようになった。それは媒体を多様化させて「人と人との出会いの場を広げる」こと。

このようなことを一緒にキイストンを立ち上げた武田氏と話し合っていたところ、武田氏から「動画にしてみては?」と意見があった。武田氏は現在キイストンのグループ会社で飲食業専門の人材紹介を事業とするミストラル(本社/東京都港区)の代表を務めている。また、武田氏は10代からモデルとして活躍していて、現在もミセスモデルを務めている。このような環境にあって俳優や動画制作の専門家との交流があり『飲食の戦士たち』“再現ドラマ”のアイデアはすぐに実践に移すことができた。

『飲食の戦士たち』“再現ドラマ”のストーリーは、冒頭で述べた通りタイムスリップという特殊能力を持つ主人公、サラリーマン廣井が、飲食していた店内で同店の社長の修業時代にタイムスリップして、当時のその社長に乗り移り、その会社の来し方を体験するというもの。

こちらがその再現ドラマの予告編。

https://youtu.be/-HWx-S4elts

こちらが第1話として作成された、REED代表、樺山重勝氏の再現ドラマ。

https://youtu.be/vQN3_7COEyo

こちらは第2話、倶楽部二十九代表、酒井敏氏の再現ドラマ。

https://www.youtube.com/watch?v=J4TzoiZNDuQ

動画は、サラリーマン廣井が飲食店に遭遇した場面からテンポよく展開し、最後に経営者本人が登場して、修業時代に経験したことをリアルに語っている。それが視聴者にしみじみと伝わってくる。

”再現ドラマ”の最後のシーンに実際の経営者が登場し(右)、サラリーマン廣井(左)と酒を酌み交わす、という趣向(キイストン提供)
”再現ドラマ”の最後のシーンに実際の経営者が登場し(右)、サラリーマン廣井(左)と酒を酌み交わす、という趣向(キイストン提供)

『飲食の戦士たち』のwebコラムは、いわばビジネス書的な立ち位置でまとめられたもの。連載900回となって貴重なデータベースとして育った。一方の“再現ドラマ”は、一人称の短編娯楽動画に仕上がっている。ビジネスのマインドで飲食業界を伝えるのではなく「おいしそう」とか「タイムスリップ」といった場面から、視聴する人と飲食業界との接点をつくり出そうとしている。

武田氏は「若い世代の人がこの動画の些細な場面から、この店で『働いてみたい』という動機が喚起されることにつながればいいなと考えている」と語る。

webコラムの『飲食の戦士たち』と同様“動画版”にも一貫しているのは「人と人との出会いの大切さ」(武田氏)である。飲食業の経営者が師匠や同志、パートナーと出会い、またヒューマンビジネスの飲食業でお客と出会うという場面の一つ一つから、若者世代に飲食業へ興味を抱いてほしいと考えている。

キイストン代表の細見氏は「これから作成していくこの一連の動画がテレビや映画の製作者の眼に止まり、テレビドラマや映画が作成されることを願っている。すると飲食業界はもっと“働きたい業界”になっていく」と語る。

細見氏、武田氏ともに飲食業のさらなる活発化を支援していこうという姿勢が熱い。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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