Yahoo!ニュース

「浅草横町」の月商計画3000万円がいま6000万円で推移している仕掛けとは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
「浅草横町」を運営するHi-STAND代表の戸田博章氏(筆者撮影)

7月1日、東京・浅草に「食と祭りの殿堂 浅草横町」(以下、浅草横町)という“横丁”がオープンした。場所は、浅草寺の近く、ドン・キホーテの向かいの東京楽天地浅草ビルという商業施設の中。ただし、ビルの4階という多くのお客を引き寄せるのが難しいといわれる“空中階”にオープンした。

1フロアの広さが約330坪(一般的なファミリーレストランの3倍強の広さ)、ここに7つの飲食店と着物レンタル1店舗が営業している。ここの月商計画は3000万円だが、営業開始して3週間を経た段階で6000万円のペースで推移している。計画の2倍である。7月16日(土)~18日(月祝)の三連休の時には日中から夜まで絶え間ない混雑ぶりであった。

7つの飲食店とは、うな串「いづも」34席、大衆食堂「ロッキーカナイ」97席、韓国料理「ハンマート」80席、豚串「神豚(シントン)」80席、すし「浅草すし」27席、焼き鳥「ユラユラ」63席、ホルモン「ホルモン ペペ」84席。現状、売上上位店舗は、1位いづも、2位ロッキーカナイ、3位ハンマートとなっている。

ここに集まる客層は老若男女ではない、ずばり20代30代で、MZ世代(ミレニアル世代とZ世代)と呼ばれている層だ。浅草にお客が戻ってきたとされているが、この“ビル4階の横丁”の活気は年齢層が若いだけに格別のものがある。どのようにしてこのような光景が誕生したのだろうか。

「浅草横町」の中央にあるエレベーターが吹き抜けの役目を果たし、フロアが混雑していても開放感がある(筆者撮影)
「浅草横町」の中央にあるエレベーターが吹き抜けの役目を果たし、フロアが混雑していても開放感がある(筆者撮影)

ビルの中と外の街が一体化する

「浅草横町」をプロデュースしたのは株式会社スパイスワークスホールディングス(本社/東京都台東区、代表/下遠野亘)。約100店舗の飲食店を運営するほか、飲食店の内装設計及び商業施設の環境デザイン、宿泊施設の運営、商業施設の企画プロデュースを事業としている。代表の下遠野氏は「飲食」に関わるトータルプロデュースが評判を呼び多方面で活躍している。

同社に東京楽天地から相談があったのは3年前のこと。同社では「東京下町の大衆に健全な娯楽を提供する」という東京楽天地のグループ理念に大いに共感して、何とか具体化したいと考えた。しかしながら、物件が“ビルの4階”ということで大いに悩んだ。

そしてその解決策として打ち出したことは「ビルの中と外の街の一体化」であった。同社代表の下遠野氏はこう語る。

「日本の商業施設は言ってみれば“おりこうちゃん”です。ビルの中の“におい”というものが外に伝わっていない。これが外に伝わることてビルの中は街と一体化するのです。4階にある“ビル中横丁”でお祭りをテーマにするのであれば、そのお祭りはビルの全体を練り歩き、ビルの外にあふれ出すような感じで打ち出していかないと。そこで7月1日のオープニングの時は、浅草サンバカーニバルが『浅草横町』から下の階にあるユニクロさんを巡って浅草の街の中を踊り巡った。その後、よさこいとか阿波踊りも巡っている。運営側の私たちも外でビラ配りをするよりにぎやかにバカ殿様や忍者をやった方がいい」

「浅草横町」の中央にイベント用のステージで踊り始めた人たちがそのままビルの中、さらに外へと向かっていく(筆者撮影)
「浅草横町」の中央にイベント用のステージで踊り始めた人たちがそのままビルの中、さらに外へと向かっていく(筆者撮影)

このビルは1,2階を占めるユニクロも浅草オリジナルの店構えで、浅草寺側から見るとビル全体で「浅草横町」をアピールする外観になっている。

TikTok、YouTubeでバズらせる

「浅草横町」を運営するのは株式会社Hi-STAND(本社/東京都品川区、代表/戸田博章)。戸田氏はバーテンダーから転じてスパイスワークスホールディングス(SWHD)の前身に入社して、店舗運営からブランドマネージャーを歴任。2012年に個人事業主として独立、2014年に現在の会社を立ち上げ、SWHDのグループ会社で24社で構成される「ファミリーのれん会」の一員として活躍している。同社では現在、飲食店19店舗、180人の従業員を率いている。

戸田氏が“ビルの4階にある横丁”の集客対策として考えたことは「TikTok、YouTubeでバズらせること」であった。戸田氏はこう語る。

「新しくできた施設がテレビで紹介されると40代50代の人がやってくる。しかし、MZ世代といわれる20代から30代半ばの世代が情報を得る手段はTikTokとYouTube。ここでバズると『この風景と同化したい』と訪問する動機が強烈に高まることになる」

壁から天井に至るまで「浅草横町」の装飾は”お祭りモード”にあふれて訪れる人を飽きさせることがない(筆者撮影)
壁から天井に至るまで「浅草横町」の装飾は”お祭りモード”にあふれて訪れる人を飽きさせることがない(筆者撮影)

戸田氏は1981年1月生まれでいま41歳だが、ライフスタイルや考え方はMZ世代そのもの。このような意識をもって若い従業員を束ねている。この度「浅草横町」を運営することになって、「是非やってみたい企画」に取り組んだ。

「それは『浅草横町公認アンバサダー募集』。オープン1カ月前の6月1日から8月31日まで『#浅草横町』『#浅草』をつけたSNS投稿で『どれくらい浅草ラブなのか』をアピールしてもらう。応募した約400人のインフルエンサーをまず100人に絞り、投稿をバズらせて最終的に5人に絞る。このように、ここと浅草をバズらせることによって“横丁”が4階にあっても集客できるのではないかと思っていた」

この試みは思いのほか強烈な集客力をもたらしているようだ。それが月商計画に対して2倍のレベルで推移するという状況に表れている。現在、食材のストックから人員配置に至るまで予想外のことが起きていることから、運営者にとってオペレーションを鍛える絶好の機会となった。

MZ世代は社会の主流となっていく

「ここは観光地です。地元の人は週に一回は来てくれるかもしれないが、ほとんどが『流動的新規客』です。店の利用の仕方は、一杯飲んで定番のメニューを食べて、ほかの店を巡るというパターン。私の肌感覚としては1.8店舗を回っているようです。こうした中で町場の店と同じレベルのホスピタリティを維持していかなければならない。ここで培ったノウハウは、地方都市などで集客する企画を持っている人たちに役に立つのではないか」

戸田氏はこのように語り、不利な立地と想定される場面での新しい集客方法に手応えを得ている。

筆者はここのにぎわいから何かしらの発想を得られるのではないかと思い、すでに5回訪問した。「浅草横町」をいつ訪ねてもここで目立つのは20代から30代半ばの人たちである。着物姿の女子が見られるが、男子も同様。海外の人がこの様子を見ると「日本人は日常的に着物を着ている」と思うだろう。

そして、このMZ世代はこれから確実に社会の主流を占めていく。いまMZ世代対策を怠っていると、マーケットから外れていくことになりはしないだろうか。

「浅草横町」を訪れるの見事に20代から30代半ばの人々。年齢層が若いだけに格別の活気が感じられる(筆者撮影)
「浅草横町」を訪れるの見事に20代から30代半ばの人々。年齢層が若いだけに格別の活気が感じられる(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

千葉哲幸の最近の記事