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小さな居酒屋の店主がフライドチキンショップを立ち上げ王者KFCに戦いを挑む

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
フライドチキンショップに挑む東京・新小岩の居酒屋店主・大野太陽氏(筆者撮影)

10月11日、東京・秋葉原「ヨドバシAkiba」の1階に「HIKARA FRIED CHICKEN」(以下、ハイカラフライドチキン)がオープンした。フライドチキンとチキンバーガーのファストフードショップである。

主要な商品は、フライドチキンがクリスピーなタイプの「ハイカラフライドチキン」1P(150g)350円(税込、以下同)、しっとりジューシーの「骨なしフライドチキン」1P(100g)290円、「ハイカラオリジナルチキンバーガー」550円、チキンがダブルの「ダブルハイカラチキンバーガー」750円、「オリジナルチキンナゲット」390円となっている。チキンは「国産」をうたっている。

商品はクリスピーなタイプ、しっとりジューシーなタイプ、カリッ・フワッとしたタイプとさまざま(ハイカラ提供)
商品はクリスピーなタイプ、しっとりジューシーなタイプ、カリッ・フワッとしたタイプとさまざま(ハイカラ提供)

和だしがベースとなった独創的な商品

サイドメニューは「フライドポテト」250円、「やみつきチキンウイング」(2本)350円など。ドリンクに特徴があり、フライドチキンによく合う「ハードボタニカルコーラ」「ハードフラワージンジャーエール」「ハードガーデンレモネード」(各580円)をラインアップしている。

セットメニューとして「ポテドリセット(ポテト+ドリンク)」250円、「ナゲドリセット(ナゲット+ドリンク)」390円、「ポテナゲセット(ポテト+ナゲット+ドリンク)」490円などがある。

一般的にファストフードで食事をする時に、ハンバーガー+ポテト+ドリンクという組み合わせとなるが、ハイカラフライドチキンの場合は「800円から」となる。

筆者が実食して感じたことは、全般的に和だしの旨味がある。ハイカラフライドチキンと骨なしフライドチキンの食感が異なり選べる楽しさがある。国産むね肉に豆腐を加えたというオリジナルチキンナゲットは食感がとても軽く“カリッ・フワッ”となっていて既存のファストフードにはない感動的なものであった。

キッチンスペースが5坪、客席が7坪というこぢんまりとした店舗だが、この佇まいに手づくり工房の雰囲気がある。オープンは11時からだが、すぐに人だかりができる。商品の出来上がりを待つお客は大きな手提げ袋を受け取る人が多く、まとめ買いの需要が高いようだ。すでに秋葉原の新しい街の光景となっている。

オープンは11時ですぐに人だかりができる。東京・秋葉原の新しい街の光景となっている(筆者撮影)
オープンは11時ですぐに人だかりができる。東京・秋葉原の新しい街の光景となっている(筆者撮影)

「からあげグランプリ」金賞受賞の常連

ハイカラフライドチキンをオープンしたのは株式会社ハイカラ(本社/東京都葛飾区、代表/大野太陽氏)で、東京・新小岩で“からあげバル”をうたう小さな居酒屋「ハイカラ」を営んでいる。大野氏は1977年3月生まれ、学生時代にドイツ料理店でアルバイトをして以来飲食業に親しみ、飲食業で起業してさまざまな業種・業態にチャレンジした。多岐に及んだ事業を整理して、2014年8月に新小岩に店をオープン。同店は駅前商店街から住宅街への入り口に位置していて1フロア14坪の2層、30代から70代の元気な人たちという多様な顧客でにぎわっている。

からあげを扱う飲食店では日本唐揚協会主催の「からあげグランプリ」で金賞を受賞していることを誇りとしている。これはネット上の人気投票によって選出されるものだが、投票されるところはそれだけのファンが存在するということだ。

「ハイカラ」はまさにその金賞受賞の常連で、2014年に初めて受賞して以来6回金賞を受賞している。

その商品は「新潟名物 ひな鳥半身揚げ」980円。大野氏のルーツである新潟の伝統的な名物料理をヒントにしていて、肉には同店オリジナルの下処理をして、カレー味をベースに「ハイカラ」オリジナルのスパイスで仕上げている。ボリュームは350ℊで食べ応えがある。

大野氏によると、肉に味付けをしているのが「からあげ」であり、衣に味付けをしているのが「フライドチキン」なのだという。その定義に基づくと、ハイカラの半身揚げはハイブリッドである。KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)に象徴されるフライドチキンはワールドワイドの商品で、ハイカラの半身揚げも海外展開を見据えてフライドチキンの要素を取り入れた。この「ワールドワイドの商品」というキーワードが「ハイカラフライドチキン」が誕生する伏線となっている。

アイコンの作成、撮影など、一線で活躍する仲間たちが協力して作り上げた(筆者撮影)
アイコンの作成、撮影など、一線で活躍する仲間たちが協力して作り上げた(筆者撮影)

日本から世界に発信するフライドチキン

「ハイカラフライドチキン」はコロナ禍の休業期間中にひらめいた。大野氏はこう語る。

「なぜ日本でフライドチキンはKFCが王者となっているのだろうか。KFCの源流はアメリカの南部にあり、そもそも日本人にとって何らのノスタルジーは存在しないのではないか。であれば日本の調理方法や技術によって世界に発信するフライドチキンができるはずだ。これに挑戦しよう、と思いが膨らんでいきました」

「ハイカラフライドチキン」の物件は以前別の事業者がからあげの店舗を営んでいて、大野氏は同店にコンサルタントとして関わっていた。大野氏はこの事業者から店のブラッシュアップについて相談を受けたところ、「ここから世界に発信するフライドチキンの店に挑戦したい」という自らのビジョンを申し出た。この大野氏の熱意に賛同した事業者がこの物件を委託したという次第である。

「ハイカラフライドチキン」の味付けは、金賞受賞の商品とは異なるゼロベースで考えた。ポイントは「和だし」に漬け込むことである。このようにフライドチキンを「日本から世界に発信する商品」として作り込んでいった。ドリンクはフライドチキンによく合うクラフトコーラのラインアップを考え出した。

このセントラルキッチン(以下、CK)として、新小岩の店の2階をその施設にあてた。そのために大手厨房メーカーのテストキッチンを見学して、理想とするCKをつくり上げた。換言すると、ファストフードショップを手掛けるために母体である居酒屋のスペースを縮小したことになる。大野氏はこう語る。

「新小岩の2階はこれまで宴会の需要がありましたが、これから団体で飲むというシーンは考えにくい。団体飲みはどんどん低価格化していって、自分がこれから戦っていく世界ではないと考えるようになりました。このままでは夢が描けないということで2階をCKに切り替えました。現状ではファストフードショップの4店舗まで対応できます」

1階は従来通りの“からあげバル”「ハイカラ」として営業を続ける。

秋葉原の店舗のリニューアルとCKをつくるために約2500万円を投資した。原資として今獲得しようとしている「事業再構築補助金」をあてる計画だ。

小さな居酒屋の店主が王者に戦いを挑む

従業員も新規に採用した。募集広告に掲げた文言はこのような内容である。「完全週休二日制」「1日8時間労働」「残業一切なし」「世界で戦う」「小さな居酒屋の店主が王者に戦いを挑みます」――ホワイト企業でかつ挑戦的な姿勢を文言に託した。

当初、従業員は正社員3人、アルバイト10人が採用できればいいと考えていたが、この3倍以上の応募があった。面接に来た人たちには、コロナ禍で疲れ切っている雰囲気が漂っていた。そこで大野氏は「これから一緒に楽しいことをやろうよ!」と檄を飛ばした。

ショップもセントラルキッチンも新しい従業員でスタートを切っている(筆者撮影)
ショップもセントラルキッチンも新しい従業員でスタートを切っている(筆者撮影)

CKの従業員を募集したところ、ベテランの料理人が集まるようになった。自分が働く店が時短営業によって手が空いていて、「こちらのCKの仕事が面白そうだと感じたから」という。彼らはすぐにチームワークをとるようになり、調理の仕方について改善提案を行い作業の効率は高まってきている。

小さな居酒屋「ハイカラ」の「ハイカラフライドチキン」への挑戦はコロナ禍が大きなきっかけとなっている。それは「居酒屋営業から非アルコール業態へ」という考え方に収れんされるかもしれないが、大野氏は「ハイカラフライドチキンは『ファイン・ファスト・フード』です。お客様に良質な食事を提供する存在です。新小岩の居酒屋の店主が、これによって王者KFCに挑みます」と語り、新しい事業をつくり上げるパワーが感じられる。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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