デリバリープラットフォーマーのUber Eatsが日本でサービスを開始したのは2016年のこと。以来、フードサービスのデリバリーは急速に発展した。デリバリープラットフォーマーは続々と誕生し、また海外からの進出組も増えるようになった。

このように活況を呈しているフードサービスのデリバリーの環境は、客席を持たない飲食店いわゆる「ゴーストレストラン」の可能性を大きく拡大した。そして、これらはさまざまな形で進化している。

ここでは、ゴーストレストランがフードサービスにとって欠かせない存在である「不動産」「食品メーカー」などをつないで持続可能な食ビジネスを切り拓いている事例を紹介しよう。これらを展開しているのは今年3月に設立されたGRC株式会社(本社/東京都千代田区、代表/鈴木雅之)。社名の由来は「Ghost Restaurant Consulting」の頭文字をとったものだ。

造作に投資して不動産価値を上げる

GRCが初めて手掛けた業務はこの6月に稼働を開始した東京・御徒町の4階建てビルのコンサルティングである。

このビルは敷地面積10坪、昭和通りに面していてJR御徒町駅から秋葉原方向へ徒歩10分の場所にある。周辺には小さな事業所や住宅が密集している。

1階はイタリアンバルが営業、2階から4階は民泊として使用されていたが、このコロナ禍ですべてが撤退したことから、GRCは家主から新たな借り手を探すなどの依頼を受けた。

GRCが依頼を受ける前の家賃は、1階16万円、2階から4階は一括で10万円、1棟貸しでも26万円であった。それを3年間の定期借家(定借)として貸し出そうとしていた。定借3年という条件であると、1階部分をリニューアルして飲食店を営業するとしても妙味はない。おそらく飲食店としての借り手は不在であろう。

そこでGRCが家主に提案したことは、まず1階にゴーストレストランとして運営できるシェアキッチンとしての箱をつくることであった。既存のキッチンを生かすとともに、新たにもう一つキッチンを増設、設備一式に加えて防水などを施してゴーストレストランの2区画をつくった。この改修工事には家主に約700万円を投入してもらった。2階部分は2区画のゴーストレストランの倉庫としてセットで貸し出し、1区画20万円×2で40万円とした。オーナーにとっては1年半で回収できることになる。この2区画では既にゴーストレストランとして稼働している。

イタリアンバル撤退後にキッチンを増設した店内で二つのゴーストレストランが営業中(GRC提供)
イタリアンバル撤退後にキッチンを増設した店内で二つのゴーストレストランが営業中(GRC提供)

3階はITベンチャーに10万円で貸し出し、4階はGRCがパーティールーム仕様にリニューアルを行ない、緊急事態宣言があけてから1日1組のパーティールームとして貸し出す計画である。オーナーには売上の5%を支払うことになっている。

こうして、再生前の家賃が26万円であったものが、再生後はその約2倍に相当する50万円となった。

以前民泊施設として使用されていた4階部分をリニューアルとして1日一組のパーティルームとして貸し出すことにした(GRC提供)
以前民泊施設として使用されていた4階部分をリニューアルとして1日一組のパーティルームとして貸し出すことにした(GRC提供)

ノウハウを蓄積して新事業に挑戦

GRCのコンサルティング活動は、あくまでも「ゴーストレストランの営業」が基軸となっている。GRCの経営陣の一人、大山正氏はこれまで2カ所でゴーストレストランを運営していて、ここでさまざまなノウハウを蓄積してきた。

まず、2020年11月「ヒーローズキッチン恵比寿」を開業。ここは元焼鳥店の居抜きでスタート、13坪の店内にキッチンが2つあり餃子やホットサンドの専門店など14業態が展開されている。今年の6月に1200万円を売り上げた。

次に、渋谷駅前、山手線高架下で37坪の元レストランを活用した「ゴーストレストラン渋谷」。ここを空き店舗のままにしておくと周辺に悪影響を及ぼすと懸念した大手業者より相談を受けて、造作に手を加えることなくゴーストレストランを営むことにした。この場所では道路拡張の話が出ていて、先行き不透明ということで借り手がいない。これがゴーストレストランであれば投資は不要で、移転する時も容易である。

これらの経験で培ってきたことはゴーストレストランのメニュー設計である。大山氏はこう語る。

「ゴーストレストランのお客様が求めるものは、リアル店舗に対する『絶品の料理』『素敵な接客』というものではありません。それは『普段家でつくることが難しい』『割とおいしい』『早く届く』『まだ営業している』といったことです。そこでわれわれはこの部分に特化したメニューをつくっています」

加工済み食品を使用してフードロスを解決

これまで、メニュー設計のためにリアルの専門店が開発した出汁やソース等を仕入れているほか、これらの店舗にメニュー開発を依頼したり、また食品メーカーと共同でメニュー開発を行っているパターンもある。

「コロナ禍で業務用食品の売上が減少しています。そこで業務用のスープの素など、加工済み食品を使用してゴーストレストランのブランドをつくっています。また、これらのメーカーはこれまで外食向けの仕事を行ってきたわけですが、『中食向けもいけるのではないか』という仮説の下で取り組んでいます」

「ゴーストレストランでは注文を受けてゼロから料理をつくっていては間に合いません。加工済み食品を使用すると早くメニューをつくることができるという大きなメリットがあります。換言すると、加工品を使用することはフードロスの解決にもつながります」

このような形でGRCのゴーストレストランでは17業態をつくり上げた。これらの業態が使用する食材の8~9割は冷凍品かドライ食品。また常温保存できるものである。一部フレッシュなものは、こだわりの牛肉とか、新鮮な野菜などである。調理も電子レンジやホットサンドメーカーやIHコンロで済む内容である。

ゴーストレストランのメニューはGRCのアドバイスの下で業態を選択していくが、選択した業態で売上が伸び悩んだ場合は、別の業態を当てはめるなどのコンサルティングを行う。

加工済未食品の活用などで17業態を開業した。画像は「ゴーストレストラン渋谷」の業態マップ(筆者撮影)。
加工済未食品の活用などで17業態を開業した。画像は「ゴーストレストラン渋谷」の業態マップ(筆者撮影)。

短期間で移転しても顧客は変わらない

では、どのような人々に向けてゴーストレストランを提案しようとしているのだろうか。代表の鈴木氏はこう語る。

「飲食業界未経験の方たちですかね。例えば、他業界からの参入やスポーツ選手などのセカンドキャリア支援、学生ベンチャーなどです。外国人の方もそうですね。リアル店舗の場合、外国人本国の料理店でない場合、外国人が片言で接客をするとハンディとなりがちです。さまざまな業者との交渉も難しい。しかし、ゴーストレストランは経営者の国籍や年齢は関係ありません。商品だけで勝負しているフェアな商売。そして、多額の開業資金を必要としない。ですからものすごくニーズがあるのです」

GRC代表の鈴木氏は、金融機関、飲食店接門コンサルティング、建築ITで実績を積み、幅広い人脈や知見を持つ(筆者撮影)
GRC代表の鈴木氏は、金融機関、飲食店接門コンサルティング、建築ITで実績を積み、幅広い人脈や知見を持つ(筆者撮影)

一般的にリアル店舗を開業するためには初期投資として1000万~1500万円が必要になる。一方、GRCの場合ゴーストレストランの箱として必要な造作は家主が行う。借り手(ゴーストレストラン運営者)は営業する際に必要となる機器を揃えるなど100万円程度の投資で開業が可能となる。このような情報をGRCの中国人のメンバーがWeChatで告知したところ わずか2日間で5~6件の中国人の希望者が名乗りを上げたという。

ちなみに、御徒町のゴーストレストランは定借の3年間しか商売ができないが、その物件で蓄積した半径2キロ圏内の顧客は変化することはない。だから3年目で移転することになっても、現状の店舗の近くに新しい店舗を構えればいいことだ。

GRCのビジネスモデルは、「不動産の再生」「飲食店が自社の商品を外部に販売」「業務用食品の拡販」「フードロスの解決」といったさまざまなポジティブの要素を背景にして、飲食のスモールスタートアップを支援して、成功まで並走するというものである。まさに持続可能な食ビジネスということに取り組んでいる。