千葉県船橋市内で「将泰庵」という暖簾を掲げた焼肉店が5店舗ある。店名を挙げると「肉の匠 将泰庵 船橋本店」「肉の匠 将泰庵 船橋総本店」「肉の匠 将泰庵 船橋駅前 はなれ店」「将泰庵DINNER シャポー船橋店」「MY YAKINIKU STYLE 将泰庵商店 船橋夏見店」となる。これらの店舗を展開するのは株式会社将泰庵(本社/千葉県船橋市、代表/木原徹)である。

筆者がfacebookに「将泰庵」の店頭で自撮りした画像を投稿したところ、船橋在住の知人から早速「いいね!」がやってきた。そして「肉の匠 将泰庵 船橋総本店」の魅力を書き込んでいた。船橋在住の人にとって「将泰庵」のブランドにはアイデンティティを感じさせるものなのだろう。

「将泰庵」のブランドには多くの根強いファンが存在している(筆者撮影)
「将泰庵」のブランドには多くの根強いファンが存在している(筆者撮影)

「和牛A5」のコースメニューが定着

この「将泰庵」ではすべての店舗で「A5和牛」を使用している。これは創業当時から一貫していることだという。

将泰庵の代表である木原氏は1983年10月生まれ、千葉県津田沼市の出身。起業したのは2011年6月。現在の「肉の匠 船橋本店」である。この1号店から「和牛、未経産雌、A5」にこだわった。居抜き物件に出店し、駅から徒歩で7~8分と離れていて苦戦したがテレビのバラエティ番組に紹介されてからブレークするようになり、一度訪れた顧客がことごとくリピーターとなっていった。

同店で想定していた客単価は5500円だったが、たちまち7000円となった。客単価が高くなった理由はコース(当時6000円~9000円)で食事をするお客様が増えたからという。同時に原価率も下がった。このコースは定番となっていき、現在は8000円~1万3000円となっている。

2店目が翌年で東京・渋谷。最初は「肉割烹 将泰庵」と高級路線をとっていたが1年後にカジュアル路線である現在の「肉バル 将泰庵」に変えた。その途端に同店は軌道に乗るようになった。この後、船橋でドミナント出店を行うようになり現在の陣容となった。

船橋以外では、海浜幕張、千葉、新日本橋、恵比寿、渋谷、池袋に出店。この他、タイのバンコクに2店舗展開している。

高級業態の「肉の匠」で提供されるコースは8000円~1万3000円で、地元のファンにとっては記念日などで利用されている(将泰庵提供)
高級業態の「肉の匠」で提供されるコースは8000円~1万3000円で、地元のファンにとっては記念日などで利用されている(将泰庵提供)

DXと人的サービスの比重を変える

業態は「肉の匠」「DINNER」の他に、一人焼肉で「MY YAKINIKU STYLE」(客単価1300円~1400円)と今年になって「しゃぶしゃぶ」(客単価5000円程度)が2店舗加わった。一つは6月西武池袋本店内、もう一つは9月そごう千葉店内である。

これらの物件は両方とも以前鍋料理店が営業していたもので、各テーブルに一人鍋用のIH(電磁誘導加熱)機能が付いていたことから、その機能をそのまま生かそうと焼肉ではなく「しゃぶしゃぶ」を考え出した。

しかしながら、しゃぶしゃぶは同社にとって初めての試みで、池袋店の開業当初は苦戦したという。木原氏はこのように振り返る。

「当社が得意としている焼肉の肉の厚さとしゃぶしゃぶの肉の厚さは違っていたのです。焼肉は1.6ミリですが、しゃぶしゃぶは1.4ミリがあるべき厚さです。まさに0.1ミリ単位の違いですが、このようなことを百貨店のお客様が教えてくださったのです。『これは、しゃぶしゃぶとは言いません』という具合に」

伝統のある百貨店の上顧客の商売人に対する優しい心遣いを感じたという。これらの指摘通りに肉の厚さを修正したところ、店の営業は安定するようになった。

このように顧客の指摘に素直に耳を傾けて俊敏に行動する習いが創業10年間で着実に成長している秘訣と言えるだろう。

同社の業態を客単価が低いものから高いものへ整理するとこのようになる。

「MY YAKINIKU STYLE」(1300円~1400円)、「肉バル」「DINNER」「しゃぶしゃぶ」(5000円あたり)、「肉の匠」(1万円)。これらの業態で「和牛A5」が一貫して提供されているのだが、この業態違いはDXによって表現されている。それは、客単価が1300円~1400円と5000円の業態では注文をタッチパネルで行なう。しかし、提供方法は1300円~1400円の場合お盆にのせて1回で済ませるが、5000円の方は一品ずつ行う。一方の1万円は和服姿の女性従業員がご注文を伺い、肉を焼くのも従業員が行う。このようにDXと人的サービスが業態によって比重が異なっている。これによって顧客は「和牛A5」の食味を楽しみながら、客単価の違いに納得しているようだ。

「一人焼肉」業態の客単価は1300円~1400円あたりだが、ここでも「和牛A5]ga使用されている。ここでの人気が客単価の高い店につながっていく(将泰庵提供)
「一人焼肉」業態の客単価は1300円~1400円あたりだが、ここでも「和牛A5]ga使用されている。ここでの人気が客単価の高い店につながっていく(将泰庵提供)

ECで強さを発揮した「飲めるハンバーグ」

同社には焼肉・しゃぶしゃぶといった牛肉の食べ方以外に、「飲めるハンバーグ」というメニューもある。焼肉店にとってハンバーグは牛肉の端材を使用できることから利益をもたらす商品であり、この研究を重ねてきた。一般的にハンバーグは粗挽きが多く噛み応えをアピールするものだが、同社の場合は逆張りで、肉を二度引きして柔らかいハンバーグをつくった。ネーミングを現在のものにしてから大層売れるようになった。このハンバーグは箸で切れる柔らかさで、肉汁が出て口の中に和牛の旨味が広がる。各店では定番となっていて、客層が年々高齢化していく中で有効な商品となっている。

「飲めるハンバーグ」はコロナ禍にあって大いに役立った。これまでECで月商300万円を売り上げていたが、2.5倍に拡大した。それまでは原料とレシピを渡してOEM(他社の工場で製品をつくること)でつくっていたが、今年4月にセントラルキッチンを増築し、ハンバーグの包餡機を導入したところハンバーグ製造のスピードがアップしハンバーグ自体のクオリティも高くなった。ちなみにECでは精肉も取り扱っている。

このセントラルキッチンは船橋市内のファミリーレストランが連なるロードサイドに確保した400坪の敷地に構えてあり(船橋市夏見3丁目)、隣に一人焼肉の「MY YAKINIKU STYLE 将泰庵商店」を出店した。この業態は2019年10月にJR海浜幕張駅前の商業施設に1号店を出店していて、周辺のオフィスワーカーの需要や幕張メッセなどのイベントによって大いに繁盛している。今回の2号店は40坪50席の規模で初月に1350万円を売り上げた。現在は800万円となっていて、ロードサイドにおいて一人焼肉の需要が高いことをつかみ取っている。

「飲めるハンバーグ」は全業態で人気定番メニューとなっている。OEMから自社工場に切り替えたことによって生産性が大きく高まった(将泰庵提供)
「飲めるハンバーグ」は全業態で人気定番メニューとなっている。OEMから自社工場に切り替えたことによって生産性が大きく高まった(将泰庵提供)

タイに拠点をつくりアジア市場を見据える

ちなみに同社では和牛を扱う飲食業の他に同業他社への卸業を行っている。これらの事業は海外にも広げていて、現状は、タイ、香港、マカオで行っている。タイでは焼肉店を2店舗展開していてそれぞれ「和牛A5」を提供しているプレミアムな焼肉店として人気を博している。また、これらでは人材の送出し機関となっていて、能力が認められた従業員は日本の将泰庵で働くことが出来る。この制度によって現地でのモチベーションが高く、憧れの職場となっている。

このようにタイではビジネスの基盤が整っていて、さらに広げるために木原氏は来年3月にタイのバンコクに家族で移住する。日本の経営は4人の役員が役割分担をして管理・運営を行い、木原氏は3カ月に1度のペースで渡日する予定である。

来年3月タイに移住し、世界戦略の陣頭に立つ将泰庵代表取締役の木原徹氏(筆者撮影)
来年3月タイに移住し、世界戦略の陣頭に立つ将泰庵代表取締役の木原徹氏(筆者撮影)

今後バンコクでは店舗展開や卸業を進めるほか、アジア地区の拠点として育てていく意向だ。現地では平均人口が若く経済成長が見込めるほか、「和牛」の料理は憧れの食事でありこれらでの展望は大きく開かれることであろう。

このように将泰庵の業容は国内11店舗、海外2店舗とコンパクトであるが、取り扱う商品が「和牛A5」で一貫していることによって、根強いファンが培われていき、ワールドワイドの展望を描くことが出来るのであろう。