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「スシロー」都心戦略の要、新宿の大型店オープン初日に“一人勝ち”の要因を見た!

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
東京・新宿三丁目の明治通りに面する「スシロー新宿三丁目店」。(筆者撮影)

「スシロー」はコロナ禍にあっても快進撃を続けている。スシローグローバルホールディングスの2020年9月期は売上高2049億5700万円(対前期比2.9%増)と過去最高を記録した。好調な要因はテークアウトを強化したからという。当期は31店舗を出店して国内559店舗であった。出店に関しては2016年よりロードサイドから都市型店舗を中心に展開していて、その要となる「新宿三丁目店」が3月18日にオープンした。いわば都心戦略のランドマークである。筆者はその初日の朝一番に同店を訪ねてみた。

「オープンおめでとう」という顧客

同店は、新宿三丁目の明治通り沿い、伊勢丹本館のはす向かいの地下1階にある。平日は11時オープン、土日は10時30分オープンという。筆者は木曜日のこの日、10時30分に地下にある同店の入り口に着いたところ既に20人程度が並んでいたことから、従業員は店内のウエーティングコーナーに招き入れてくれた。そして10時45分、店長以下従業員が整列し、店長はオープン初日に来店してくれた顧客に感謝を伝えた。この時ウエーティングの顧客の何人かが「おめでとう!」と声をかけて皆拍手した。

朝一番に駆けつけてオープンを待つ来店客を、従業員が揃ってお出迎えした。(筆者撮影)
朝一番に駆けつけてオープンを待つ来店客を、従業員が揃ってお出迎えした。(筆者撮影)

さまざまなオープニングの様子を見てきたが、スシローという大チェーンが日ごろ顧客から心底愛されていてロイヤルカスタマー、つまり熱いファンが存在していることが伝わってきた。彼らは都心にシンボルができたことを我がことのように喜んでいる。

顧客はまさに老若男女。平日の午前中であるから子供連れのファミリーはいないが、20代前半の男女4人組、50代と20代の母娘、中高年の一人客等々さまざまだが、「スシローですしを食べる」こと、しかもオープン初日に来店することを楽しみにしている思いが伝わってくる。

筆者の受付番号は「006」ということですぐに席に通された。客席数は200席、向こう側の突き当りがよく見えないほど店内は広い。昭和に青春を過ごした筆者はボウリング場にやってきたような解放感と高揚感があった。

店内の従業員は、キッチン、フロアそれぞれに幾つかのチームで編成されているのだろう。あちらこちらから「いらっしゃいませ」と大合唱が発せられている。

顧客満足のクオリティと価格設定

すしの定番は、120円皿(税別、以下同)が27品目、170円皿が8品目、320円皿が4品目となっている。ほかサイドメニュー、スイーツもある。これらの価格は実際に商品を食べると「安い」と感じる。シャリ玉は一般的なものよりも小ぶりでいろんな種類が食べられる。320円の皿は120円の皿の2.5倍以上の価格だが、それは「高い」のではなく「お値打ちがある」から、顧客は喜んでそれを手に取る。筆者は従業員からおすすめがあった、「天然インド鮪7貫食べ比べ」980円を注文した。顧客から人気が高い天然のインドマグロの部位や調理法を1貫ずつ変えて盛り付けたもので、この価格で食べ比べを楽しめるということは満足度が高い。

「天然インド鮪7貫食べ比べ」980円はレーンではなく従業員がテーブルに運んでくれる。(筆者撮影)
「天然インド鮪7貫食べ比べ」980円はレーンではなく従業員がテーブルに運んでくれる。(筆者撮影)

同店は「都心戦略の要」をうたっているだけに、スシローがこれまで導入してきた効率化の装置が結集されている。まず、専用システムでチェックインすると自動で席を案内してくれる「自動案内」。専用レーンを使って注文した商品が直接席まで届く「Auto Waiter(オートウェイター)」は注文してから届くまでがとても速い。また、予め注文したテークアウト商品を、店舗でスムーズに受け取ることができる「自動土産ロッカー」も導入している。

受付からして顧客との対応は自動化されている。(スシロー提供)
受付からして顧客との対応は自動化されている。(スシロー提供)

これらは「コロナ禍における非接触対策」と論じられるが、省力化し生産性を高め、さらに顧客満足度を高めるという点でとても意義があることではないか。6月には渋谷にも大型店を出店するという。

筆者の知人の話では、都心の地下鉄駅と隣接する地下1階に80坪の物件を持っている人が今日のスシローの勢いを見てスシローの担当者に出店を打診したところ、「狭い」と言われたという。店舗の大型化と生産性の最大化に関しては絶大な自信があるのだろう。

「お持ち帰りロッカー」は非接触であるだけではなく、テークアウトの仕組みを画期的に便利なものにした。(スシロー提供)
「お持ち帰りロッカー」は非接触であるだけではなく、テークアウトの仕組みを画期的に便利なものにした。(スシロー提供)

客数の落ち込みをテークアウトが補完

さて、スシローでは昨年の12月2日から今年の2月末まで全店で「Go To 超スシローPROJECT」とうたった超お値打ちキャンペーンを行った。事業会社であるあきんどスシロー代表の堀江陽氏は、この記者発表の時にこのようなことを述べていた。

「このプロジェクトのイメージは『これまでのスシローを超える』ということ。もともと月2回キャンペーンを行っているが、それをさらに磨いて行く。われわれのパートナーである全国の生産者と一緒になってこのコロナ禍を乗り切っていこうという構えで、多分二度とできないほどの思い切ったお値打ち商品になっている」

同時に今後の活動のポイントについて以下のように述べた。

「1つ目は外食の存在意義を徹底して追求していく。外食という非日常の価値を磨いていく。次に、2つ目はテークアウトの強化。アプリやメニューも進化させていくことに加えて、試験的に行ってきたサテライト店舗や自社デリバリーを推進していく。3つ目は未来に向けての設備投資。セルフレジは全店に入れている。今進めている自動土産ロッカーなどの非接触サービスを整えていく」

スシローの月次報告(2021年9月期)ではこのようになっている。

2020年10月から今年2月まで5カ月間の推移を見ると、「既存店客数」が96.8%、91.2%、88.2%、83.2%、86.2%。「既存店客単価」が107.7%、103.9%、111.8%、114.2%、115.9%。これらによって「既存店売上高」が104.3%、94.7 %、98.7%、95.1%、99.9%となっている。客数が十数%落ち込んだ分が、客単価が十数%上昇したことによってカバーされている。これは、客数が減った一方でテークアウトが増えたということだ。そして、新規出店では都心型やテークアウト専門のサテライト店舗とバリエーションが広がり、「全店売上高」は、109.7%、100.0%、104.4%、100.8%、105.9%となっている。

プラスのスパイラルを生む仕組み

スシローグローバルホールディングスの2021年9月期第1四半期(2020年10月1日~2020年12月31日)は売上収益595億2900万円、営業収益70億800万円、前年同期はそれぞれ557億3800万円、48億3700万円であるから、売上収益6.3%増、営業収益30.9%増となっている。この売上のペースが後3回続くと2021年9月期の売上高は2400億円となり、前期比15%増となるのではないか。

逆風が吹くと角度を変えた新しい需要を創造する。常にクオリティアップに努める。これらがコアなスシローファンを拡大していく――このような環境の中で働く従業員たちのプラスの息吹きがスシローにプラスのスパイラルをつくり続けているのではないか。

ちなみに同社は4月1日より社名をFOOD & LIFE COMPANIESに変更する予定だ。社名から「スシ」を外しローマ字表記にすることで、広く食と生活に関わるように事業領域を広げて、グローバルで展開する姿勢が見て取れる。いまどき勢いがあるということは社内の求心力をより一層強くしていることであろう。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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