Yahoo!ニュース

「90分宴会」が話題の居酒屋チェーン「すみれ」、キャンペーン連発の狙いと効果

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
時短のトレンドに対応した「90分ショートステイコース」(すみれ提供)

コロナ禍によって居酒屋業界ではさまざまなキャンペーンが試みられているが、中でも今注目度が高まっているのが「90分」という従来の120分よりも短い宴会コースである。時間が短縮されていることの狙いは、長時間の飲食を控えようという動きにマッチさせているからだ。

これをコロナ禍で最初に展開したのは「やきとり家すみれ」(株式会社すみれ:本社/東京都渋谷区、代表/湯澤忠則、以下すみれ)という焼き鳥店チェーンで、「90分宴会」に限らず、食品スーパーでの商品販売や、ビール定期券など、次々と新たな試みを仕掛けている。

すみれの特徴は、串焼きをはじめとした鶏料理の食材に、高品質で定評のある「大山どり」を使用していること。食事メニューやスイーツも充実させて、女性客やファミリーをターゲットとしていること。客単価は3000円で、「串カツ田中」「鳥貴族」といった客単価2000円強と、近年バルが定着して居酒屋の主流となっている3500円強の中間にあり、ディナー帯では空白マーケットと言われている。現在全国に約100店舗を展開している。

自粛ムードの中、宴会メニュー発表

居酒屋業界全体では、依然逆風が吹いている。年末となり本来は宴会シーズン真っただ中だが、社員に宴会禁止を通達する会社があるなど、宴会自粛ムードが漂っている。しかしながら同チェーンは11月に入り今冬の宴会メニューを発表した。定番の2時間飲み放題付きコース3000円、3500円、4000円、4500円、5000円(以上、税込)の他に、トレンドを捉えた新作をラインアップした。

新作の中で一番にアピールしたのは「トマトチーズ串鍋」。このポイントは従来の鍋メニューのオーダーは2人前からが通例であったが、これに対して1人前1180円(税抜)からオーダーできるようにしたこと。9品のコースにした場合4000円(税込)となる。

さらに、完全個食スタイルの「『個食のグルメ』コース」2000円、時間を短くした「90分ショートステイコース」2000円(2つとも税込)をラインアップした。「Go To イート」を使用すると1000円になるという価格訴求も行った。

これらの中で、最も注目されているのが「90分ショートステイコース」である。同社が今冬の宴会メニューをリリースしたところ、テレビ局各社がコロナ禍の飲食「時短」の流れに合わせたニュースとして取り上げ、利用客が増えて、すみれの知名度が高まった。

「冷凍唐揚げ」でアイデアが広がる

これに限らず、すみれはコロナ禍で次々とキャンペーンやプロモーションに取り組んだ。

まず、店頭でのテークアウト販売から始まり、7月にはグランドメニューを変更。9月に食品スーパーの「オオゼキ」で冷凍唐揚げを発売。店舗では半額フェアを展開。10月1日から11月30日まで生ビールのサブスクリプションを行った。

「生ビール定期券」はお客様にとってプレゼント用としても活用された(すみれ提供)
「生ビール定期券」はお客様にとってプレゼント用としても活用された(すみれ提供)

同社代表の湯澤忠則氏によると、これらの試みの中でオオゼキで行った冷凍唐揚げは大きな学びを得ることができたという。この企画はコロナ禍になってから、オオゼキの担当者からビールメーカー経由で提案があったもの。オオゼキの発想は「すみれ風の唐揚げ」ではなく、「すみれで出されている唐揚げ」を販売するということ。オオゼキの協力メーカーが調理・加工を行い「すみれ」の店舗と同じ価格(むね肉638円、もも肉778円=いずれも250g、税抜)で販売した。

湯澤氏はこう語る。

「これまでわれわれには『食材を凍らせる』という発想はありましたが、『出来上がった商品を凍らせる』という発想はなかった。また、飲食店にとって『冷凍品を使う』ということを良しとしない風潮もあった。しかしながら、この商品は実によくできていたことから、さまざまなアイデアをもたらしました」

ちなみに、主として東京都下の住宅街で展開するオオゼキは「すみれ」が出店するエリアとも重なり、オオゼキで冷凍唐揚げを購入したお客の「すみれ」への来店にもつながった。この商品は、2万4000食をつくり、約2カ月間販売して売切れ終了した。

2万4000食を製造した「冷凍唐揚げ」は約2カ月間で売切れ終了(すみれ提供)
2万4000食を製造した「冷凍唐揚げ」は約2カ月間で売切れ終了(すみれ提供)

アルバイトの就労にも効果が

「半額フェア」は、来店客すべて対象のオープンフェアを1週間、さらにLINEや一部ウェブサイト利用者限定でも行った。これによって客数が25%増えて、新しい客層を獲得できた。

「当初、コロナ禍で半額にするというのはブランドイメージを損ねるのではないかとかと悩むこともありました。しかし、お客様にたくさん来ていただこうと考えると、中途半端にやるのではなく、思いっきり大きなインセンティブでやろうと振り切ったことが奏功した」(湯澤氏)

飲食業界は、コロナ禍でアルバイトがシフトに入ることができない場面が多々あったが、この企画はその問題を解決する一助にもなったようだ。

「半額フェア」によって客数が増えて、アルバイトの就労を助けることにつながった(すみれ提供)
「半額フェア」によって客数が増えて、アルバイトの就労を助けることにつながった(すみれ提供)

生ビールのサブスクリプションは、1枚500円の定期券を購入すると、通常398円の生ビールをサービス期間中に何杯飲んでも、グループで飲んでも半額になるというもの。この企画はビールメーカーがアサヒビールに切り替わったタイミングであったこともきっかけとなった。この定期券は10月だけで1万1132枚を販売。このうち約30%の人がリピーターとなった。

新年1月末までキャンペーン4連発

そして、「ここまでやるか!」を冠にしたキャンペーンを12月5日から新年の1月末まで行う。第1弾(12月5日~18日)、第2弾(12月19日~25日)、第3弾(12月26日~1月15日)、第4弾(1月16日~1月末まで予定)と小刻みに内容を分けて展開する。この企画は、これまでの焼き鳥専門店には存在しなかったメニューでのサプライズを狙って立案されている。

第1弾は「ハート型のどデカクリスピーチキン チーズ&チリマヨソース」980円、「進化系!国産牛もつのトマトチーズもっ鍋」1380円、「究極の大山どり焼き鳥丼」980円(以上、税抜)をラインアップ、ボリュームと価格の値ごろ感をアピール。

第2弾は、「クリスマス特別商品」をうたったものをイートイン、テークアウト、デリバリーで販売、また、さまざまな鶏料理をミックスした「クリスマスプレート」も販売する。第3弾、第4弾の商品は未定となっている。

「これまでやるか!」のキャンペーンは、これまでの焼き鳥専門店にはありえないメニューを投入していく。写真は「ハート型のどデカクリスピーチキン チーズ&チリマヨソース」(すみれ提供)
「これまでやるか!」のキャンペーンは、これまでの焼き鳥専門店にはありえないメニューを投入していく。写真は「ハート型のどデカクリスピーチキン チーズ&チリマヨソース」(すみれ提供)

「これら一連のプロモーションはコロナ禍だからこそ出てきたアイデアと言えます。いろいろんなチャレンジができて、思いがけない改革にもつながりました。また、コロナ前よりもコロナ禍の方がFLコスト(=食材原価と人件費)は低くなっている。ぎりぎりの状態になったことでそれだけ管理の仕方に工夫が凝らされました」

このように湯澤氏は語るが、コロナ禍での同社は挑戦する姿勢を強くして同社の経営体質を磨き上げている。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

千葉哲幸の最近の記事