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サプリで知られる「マカ」が国産生野菜として登場 外食産業の救世主となるか

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
飲食店の店頭に置かれた国産の「マカ」をアピールするチラシ(筆者撮影)

南米ペルー原産の野菜「マカ」。その栄養価の高さを生かしたサプリメントなどが知られているが、国産の生野菜「ベジマカ」として飲食店で提供する動きが出ている。10月5日から、外食企業のダイナックの一部の店舗、カレーうどんチェーン「千吉」、「ステーキハウスB&M」が同時にベジマカを使ったメニューをキャンペーンで提供中だ。筆者は各店舗に足を運び、この食材が業界にもたらす“活力”について考えてみた。

マカは本来、赤道直下の標高4000mの高原でなければ良質なものが採れないとされている。つまり、マカが生育する環境は、強い紫外線、激しい寒暖差、やせた土地という具合に過酷である。そこでマカは強靭な生命力を持ち、豊かな栄養素を密に持つのだという。

マカはアブラナ科に属し、ダイコン、カブ、ワサビなどの仲間で形状も似ている。キャベツ、ケール、ハクサイ、ブロッコリー、カリフラワーも仲間だ。味はローストビーフについてくるホースラディッシュに似ていて、強い辛さが感じられる。食べるというよりも、ショウガやワサビのような薬味が向いている。

過酷な環境で育つ「マカ」を日本国内で15年間をかけて栽培することに成功した(ベジマカ協会提供)
過酷な環境で育つ「マカ」を日本国内で15年間をかけて栽培することに成功した(ベジマカ協会提供)

そのマカが日本に紹介されたのは1990年のこと。「国際花と緑の博覧会」(大阪・鶴見緑地)の会場でペルー政府が披露した。この種を購入した福島の農家が15年の歳月をかけて栽培に成功。その人物が亡くなった後、ノウハウを引き継いだのが、現・一般社団法人ベジマカ協会代表理事の萩原章史氏だ。協会には栽培に成功した人物の右腕だった生産者が参加しているほか、日本抗加齢医学会の理事長でもある順天堂大学大学院教授の堀江重郎氏が医科学担当理事を務める。

既存メニューに活用することで未曽有の可能性が

萩原氏によると、日本のマカ市場は約200億円と想定される。ペルーから輸入された乾燥品がサプリメントに加工され流通しているという。同協会が「日本産」にこだわる理由は、海外の生産地では種の流出を防ぐために生のマカを輸出しないからだ。日本産だからこそ、生の状態で流通できるということだ。

また今日、マカの世界最大の生産地であり消費国は中国で、マカ製品の対中国輸出の需要増が見込まれている。同協会のビジョンには、日本市場での普及に加えて輸出を増やすことによって、休耕地を活性化させることが掲げられている。

10月5日からのキャンペーンは同協会のバックアップがあってのことだが、日本における生産体制や方向性などが整ったことの決意表明と言える。

キャンペーンに先立つ9月14日、筆者はダイナックの試食会に招かれた。

萩野氏がベジマカのレクチャーをしてくれた時に同席した、高級レストランのPR代行をしている人が、「食材の掛け合わせによって新しい味わいを求めているシェフたちにアプローチしてはいかがか」と提案していた。味覚としては日本人にとって未体験の要素が多いので、可能性は無限大と言える。

「希少食材」「フーパーフード」という付加価値

さて、筆者はキャンペーン展開中の「千吉」田町店と、ダイナックの「魚盛」有楽町電気ビル店を訪ねた。

「千吉」で食べたのは「ベジマカ入り牛肉カレーうどん」1000円(税別)である。同店の定番メニューは680円、770円であるから200~300円高くなっている。スープは和風だしにミルクが加えられ、クリーミーでありかつ出汁の風味・スパイス感がある。トッピングに牛丼の具材のように調理されたショートプレートがのっていて、上にベジマカのチップスがちりばめられている。うどんに辛味を加える場合、七味や一味を使ってきたが、ベジマカの辛味は新鮮で、これまで食べてきたカレーうどんにはない味わいがあった。

「マカ」の辛味が七味とは異なる新鮮な風味をもたらす(筆者撮影)
「マカ」の辛味が七味とは異なる新鮮な風味をもたらす(筆者撮影)

 

従業員に「一日何食ぐらい売れているのか」と尋ねたところ「10食程度」とのこと。同店の場所はJR田町駅の海手側、周辺はオフィス街でこれらの常連客がほとんど。ベジマカのカレーうどんはこれらのお客がオーダーするパターンが多いそうだ。

「魚盛」で食べたのは「くじら赤身刺しベジマカ添え」980円(税込)。鯨肉の刺身の上に、生のベジマカのスライス、すりおろし、青菜がのせてあり、醤油系のソースをかけて、刺身でベジマカをくるんで食べる。鯨肉の刺身といえばショウガ醤油につけて食べるが、これもこれまでに体験したことのない根菜を感じさせる辛味があった。日本酒を飲みながら食べていたが、「グラッパ(イタリアの蒸留酒)が合うのでは」と一瞬ひらめいた。ベジマカによって洋風のイメージが広がった。

お馴染みの「鯨の刺身」が生の「マカ」によって洋風の味わいになる(筆者撮影)
お馴染みの「鯨の刺身」が生の「マカ」によって洋風の味わいになる(筆者撮影)

このベジマカのキャンペーンのタイミングは、コロナ禍で落とした業績を回復するために新しい策を求める飲食事業者にとって大きな参考となることであろう。また、お客にとっても「ベジマカ」という注視効果の高いネーミングが利用動機を喚起させるのではないか。このメニューには「希少食材」「スーパーフード」という付加価値があるからだ。

コロナ禍で飲食事業者はテイクアウト、デリバリー、EC、そしてゴーストレストランと新しい売り方を探ってきたが、一方で「付加価値の創造」という発想も存在するのではないだろうか。ベジマカのキャンペーンにそのきっかけとなるものを感じた。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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