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「ニックネーム」がユニフォームに。次々と仕掛けてくる台湾プロ野球、ラミゴ・モンキーズ

阿佐智ベースボールジャーナリスト
石垣島で先週末行われた「アジアゲートウェイシリーズ」

 先週末、恒例となった日台のプロ球団による国際交流試合、「アジアゲートウェイシリーズ」が行われたことはすでにお知らせした。「日本最南端キャンプ地」、石垣島でキャンプを張る千葉ロッテマリーンズと2連戦を行ったのは、ラミゴ・モンキーズ。日本プロ球界も注目する2年連続4割をマークした王柏融(ワン・ボーロン)擁する人気実力とも台湾ナンバーワンチームだ。若手主体の今回の遠征チームには、残念ながら王は帯同していなかったが、試合当日は、3塁側内野スタンドは、チームとともに台湾からやってきた応援ツアーの一行が陣取っており、ラミゴの人気のほどがうかがえた。ラミゴのユニフォームに身を包むファンの中には、日本人も混じっており、日本語のフェイスブックページも開設しているこの球団の営業戦略が功を奏しているようだった。このロッテとの交流戦に続いて、月末にも来日、北海道日本ハムファイターズと2連戦を行うなど、ラミゴ・モンキーズは、攻めのファン獲得策を進めている。

ユニフォームから世界が見える

名前らしからぬ文字の入ったラミゴのユニフォーム
名前らしからぬ文字の入ったラミゴのユニフォーム

 ユニフォームは今やプロ球団にとって、収益向上の重要なツールだ。ファンの「忠誠度」の証でもあるレプリカユニフォームは、世界中、場所を問わず、販売されており、その収益を目論んで、球団は、以前にも増してチームユニフォームのモデルチェンジを頻繁に行うようになり、また、シーズン中にも企画ものの特別ユニフォームを選手に着用させている。それは、台湾も例外ではない。

 石垣球場に現れたラミゴ・モンキーズ一行。普段とは違う緑地のユニフォームを着ている。プロ野球では多くの場合、背番号と同じナンバーが胸側、チーム名の右下にも刺繍、もしくは印刷されていることが多いが、このユニフォームではそのナンバーはチーム名の真下に大きく印刷され、「腹番号」となっている。

「腹番号」のあるラミゴの特別ユニフォーム
「腹番号」のあるラミゴの特別ユニフォーム

 背中側を見れば、バックナンバーの上には、漢字が並ぶ。台湾では、背番号の上のネームにはローマ字を使わないのが普通だ。おまけ同姓が多いお国柄を反映してフルネームが背番号の上に記される。こういうユニフォームの意匠の違いひとつにも「台湾野球」を感じることができる。これも野球観戦の楽しみのひとつだろう。

摩訶不思議な限定ユニフォーム

限定ユニフォーム姿で写真撮影を楽しむ「阿銀」こと梁家栄
限定ユニフォーム姿で写真撮影を楽しむ「阿銀」こと梁家栄

 ところが、ラミゴの選手たちのユニフォーム姿を見れば見るほど違和感が湧いてくる。「見義永維」、「撒依子刀」、「阿拉」、「阿銀」、「阿飛」…。台湾は中国文化圏にある。中華系の姓名は例外はあるものの、基本姓一文字、名前二文字だ。まあ、姓名とも一字というのもあるが、どうも彼らのユニフォームに記された漢字は人の名前に思えない。「小郷長」なんていうのがあるが、これも名前人名というには違和感がある。中には「刺客」なんて物騒な熟語も見受けられる。その中にローマ字のものを見つけたとき、これは人名ではないのだと確信した。ローマ字のネームを背負った選手はどうみても外国人選手に見えなかった。

 近くにいた、台湾メディアのレポーターの女性に尋ねてみた。さすが国際球団ラミゴ、美人レポーターは流ちょうな日本語を話した。

 「ああ、これですか。えーっと、日本語でなんと言うんだろう」

 彼女はすぐに単語が出てこなかったのか、これまた日本語を話す球団スタッフに話を振った。

 「ニックネームです」

 男性スタッフが謎を解いてくれた。

 名前と言えば名前ではあるのだが、この交流戦用にしつらえたユニフォームの背番号の上には自身のあだ名が記されていたのだ。ちなみに二文字の選手に多かった「阿」は、中国の文豪・魯迅の有名な小説『阿Q正伝』にもあるように、中国南部で使用される、姓の前につく接頭辞だ。日本語で言うと「○○ちゃん」のようなものらしい。「拉」は押すとか叩くという意味だから、「阿拉」は、さしずめ「叩くくん」だ。なんか日本に似たような感じのコメディアンがいたような…。「阿銀」は「銀ちゃん」。『蒲田行進曲』を思い出す。「阿飛」はショートを守る林承飛のニックネーム。「蝶のように舞う」華麗な守備のイメージか。

最終回の攻撃でツーベースを放った「阿飛」こと林承飛
最終回の攻撃でツーベースを放った「阿飛」こと林承飛

 数少ない主力の参加選手、セカンドで3番に入っていた郭厳文の「超級喜歓」に至っては、もはやニックネームでもなく、「チョー大好き」という意味らしい。4番指名打者の主砲、陳俊秀は「奴奴」。「ヌーヌー」と発音する。家族からこう呼ばれているそうで、意味はとくにないという。

ファンへのメッセージを背中に書いた郭厳文
ファンへのメッセージを背中に書いた郭厳文

 一風変わったユニフォームを着て、選手も気分上々のようで、台湾メディアの注文に、背中越しのポーズをとってカメラに収まっていた。

 ちなみに、指導者もこの企画に乗っているようで、WBC代表チームも率いた経験をもつ洪一中監督の背中の文字は「紅中」だった。「洪」、「紅」ともに「ホン」と発音することからこの字を選んだのだろう。

洪一中監督は「紅中」と背中に記した。
洪一中監督は「紅中」と背中に記した。

もう一度ある日本にいながら台湾野球を感じることのできる機会

 ラミゴ球団は、スタンド外のロッテの販売ブースを間借りして、ユニフォームをはじめとするグッズを発売していたが、この限定ユニフォームは販売をしていなかった。おそらくは、帰国後、台湾で発売すると思われるが、こういう攻めの姿勢が人気ナンバーワンの秘訣なのだろう。この特別ユニフォームを見て、「欲しい」と思う日本のファンは少なからずいると思われるが、彼らは、シーズンに入れば、喜び勇んで台湾に飛ぶかもしれない。

 このユニフォームは、オープン戦用につくられたとのこと。ラミゴは、2月28日、3月1日にも来日し、今度は札幌で日本ハムと2連戦の予定。この一風変わった台湾色たっぷりのユニフォームを見物に行くのも、この春の野球の楽しみ方のひとつかもしれない。

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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