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摩訶不思議な移転計画の裏で「不入り記録」を打ち立てようとしているアスレチックスの迷走

阿佐智ベースボールジャーナリスト
昨年夏、ファンがスタンドで掲げていた書き込み

 メジャーリーグも開幕してはやひと月。日本では、大谷・山本コンビのいるドジャースと鈴木誠也・今永コンビのカブスの話題でもちきりの感があるが、「裏ネタ」的にオークランド・アスレチックスの話題もちらほら耳にする。先日は、ホームゲームの試合の観客が3000人を切ったということでニュースになっていた 。

 日本のメジャーリーグブームの黎明期である1980年代終わりから1990年代初頭にかけて黄金時代を迎えていたこのチームだが、その後の長い低迷(「マネーゲーム」による一時的な回復期はあったものの)から観客動員が落ち込み、その打開策として浮上した新球場建設計画も頓挫。2016年に筆頭オーナーとなったジョン・フィッシャーは、昨年ついにオークランドを離れ、ラスベガスにチームを移転させることを決定し、MLB機構もこれを承認したため、名門チームの3度目の移転が決定的となった。MLBチームの本拠地移転は、2004年にモントリオール・エクスポズがワシントンに移転し、ナショナルズとなって以来のこととなる。

盛況のカクタスリーグ

アスレチックスの春の本拠、ホホカム・スタジアム(アリゾナ州メサ)
アスレチックスの春の本拠、ホホカム・スタジアム(アリゾナ州メサ)

 この春、アリゾナのキャンプを取材した。正確には「スプリング・トレーニング」というべきか。2月から約ひと月のキャンプの後、3月から「オープン戦」に入る日本とは違い、アメリカでは2月中旬にチームが集合すると、練習主体の期間はあっと間に過ぎ、2月末には試合が始まる。日本でも近年はキャンプ中に「練習試合」が多く組まれるようになったが、アメリカではそれが3月末まで続くイメージかもしれない。ただ日本では「練習試合」は入場無料なのに対し、アメリカでは試合となればチケットが必要となる。日本の「オープン戦」にあたるキャンプ地を離れて行う非公式戦は、エキシビション・ゲームと言われることが多く、時にマイナーの球場や国外で開催することもあるが、こちらは開幕直前に主として本拠地球場で開催される。

スタンドが小さいせいか、レギュラーシーズンでは見られない「大入り」も珍しくない。
スタンドが小さいせいか、レギュラーシーズンでは見られない「大入り」も珍しくない。

 アリゾナにはMLBの半分の15球団が集結し、連日試合を行う。これは「カクタスリーグ」と呼ばれるのだが、ほとんどの試合がデーゲームで行われるにもかかわらず、各球場は連日大入りの盛況となっている。

 アスレチックスは、州都フェニックスの東郊外に位置する新興都市、メサのホホカム・スタジアムを春の本拠地にしている。10年前、メサ市はここを使用していたカクタスリーグの中でもトップクラスの動員力を誇るシカゴ・カブスのために新しい施設を建設。カブスは数キロ先のスローン・パークへと去っていった。そのカブスが去った後「空き家」になったこの球場をアスレチックスが使用するというのは、なんともこの球団らしいが、真の本拠地であるオークランドと違い、人気トップ球団には及ばないものの、1試合平均で約5000人とキャンプではそれなりの動員力を誇っている。実際に足を運んでみると、球場が小さいだけに、盛り上がり感が非常にあった。

 アスレチックスは、プロモーションも兼ねてか、今年はキャンプ中に移転先のラスベガスでも2試合を行ったが、ここでは各試合とも7000人ほどを集めた。

 一方、ここまでのオークランドでの平均観客数は6500人ほど。つまりは、現在のアスレチックスの本拠地での集客力は、キャンプ地のオープン戦のそれとさほど変わらないということになる。

 数年前までは、メジャーリーグの球団が1試合当たりの動員数で、日本のNPB球団に負けることはあっても、その他の国の球団に負けるようなことはなかったが、近年では不人気チームは、韓国の人気球団にも及ばないということが起こっている。アスレチックスも2年ほど前にはかつてマイナーリーグ扱いしていたメキシカンリーグの人気トップ球団、ティファナ・トロスの後塵を拝している。

オークランドのファンの反発?

もはや不入りが常態化したオークランドコロシアム
もはや不入りが常態化したオークランドコロシアム

 一部記事では、シーズンが始まったものの、移転に反発したファンによるボイコットにより観客動員がますます落ち込んだかの如く現在のオークランド・コロシアムについて書かれているが、この球場に閑古鳥が鳴いているのはもはや「通常運転」である。私は昨年の夏、ここに足を運んだが、野球時の収容3万5000人、のちに増設されたフットボール用の外野の上層スタンドを含めれば最大6万3000人を飲み込むこの巨大スタジアムは、その日集まった4000人ほどの観客数では、ほとんど無人ではないかと思えるほど閑散としていた。実際その場に身を置いてみると、スタンドにそれほどの人数がいるとも思えず、シーズンチケットの販売数もカウントしているのではないかと思ったほどだった。

球団経営陣に抗議の意を示すアスレチックス応援団
球団経営陣に抗議の意を示すアスレチックス応援団

 カメラマン席からスタンドを見渡していると、ライトスタンドの一角に応援団らしき一団が陣取っているのが見えた。スタンドから横断幕とも言えない手書きの布切れを垂らしている。そこにはアスレチックスの共同オーナーであるフィッシャーとデイブ・カヴァル会長を揶揄する文言があった。

NPBの応援団よろしく鳴り物を持ち込んでいる。
NPBの応援団よろしく鳴り物を持ち込んでいる。

 足を運んでみた。彼らはアメリカでは珍しく旗や太鼓を持ち込んでいる。近年、メジャーリーグの球場では荷物の持ち込みに関して制限が厳しく、バックパックさえ不可のところがあるが、前後左右10人分を占有しても誰にも迷惑をかけることのないこのスタジアムでは、「なんでもあり」の状況のようだ。ただし、「応援団」と言っても10数名が固まって応援しているだけで、彼らの声がだだっ広いスタジアムに響くことはほとんどない。彼の姿は、昭和の終わりのパ・リーグのビジター応援団を思い起こさせた。

 彼らは、ファンの声を無視して長年プレーしたオークランドを去ろうとする経営者に怒りを感じているようだった。しかし、その声が決して大きくないことは閑散としたスタンドが示していた。

旗を振り回す応援もメジャーではあまりお目にかかれない光景だ。
旗を振り回す応援もメジャーではあまりお目にかかれない光景だ。

 ベイエリアの夜は寒い。この寒さもこの球場からファンを遠ざけている一因だろう。橋向こうのサンフランシスコは新球場を建てることでジャイアンツを繋ぎとめたが、オークランドはそれをすることをためらった。

 アスレチックスは、傘下の3Aチームのあるラスベガスに引っ越す決断を下した。オークランド・コロシアムをかつて共用していたNFLのレイダースは一足早くこの町へ去っている。

移転先のサクラメント

 アスレチックスはすでに昨年時点でラスベガスで土地を確保。2028年完成を目指して新球場の建設に着手しているという。オークランドとの球場賃貸契約は今シーズンまでとあって、来シーズン以降、新球場完成までは、傘下の3Aチームの本拠地を使用するのかと思われたが、球団は、現在の本拠と同じカリフォルニア州の州都、サクラメントを暫定的な本拠地とすることを発表した。

 その移転先となったサクラメントだが、オークランドから140キロほど内陸に行ったこの町には、現在ジャイアンツの3Aチームが本拠を置いている。アスレチックスの一方的な都合によってこのマイナーチームが町を去る道理は全くなく、来シーズンから3シーズン、アスレチックスは別の球団のマイナーチームと球場を共用することになる。

レイズの本拠、セントピーターズバーグにあるアルラングスタジアム。3シーズンの間、A級のマイナーチームが親チームとホームタウンを同じくした。
レイズの本拠、セントピーターズバーグにあるアルラングスタジアム。3シーズンの間、A級のマイナーチームが親チームとホームタウンを同じくした。

 ちなみにメジャーとマイナーのチームが、同じ都市にフランチャイズを置いた例は1990年代以降、2例ある。1993年のボルチモア・オリオールズと傘下の2A球団・ボウイ・ベイソックス、それに1998年から2000年までのタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)と傘下のA球団セントピーターズバーグ・デビルレイズの2組だ。ただしこれさえも球場を同じくすることはなく、ベイソックスは本拠地に新球場が完成するまでの間、オリオールズが去った旧本拠、メモリアルスタジアムを間借りし、デビルレイズのファームチームは、親チームのスプリングトレーニングの球場を使用していた。メジャー球団が、他球団のマイナーチームと本拠地を共にするなど前代未聞と言っていい。

過去にはアスレチックスと契約した中島宏之もここでプレーした。
過去にはアスレチックスと契約した中島宏之もここでプレーした。

 ただ、このサクラメントという町は、アスレチックスにとって全くゆかりのない町というわけではない。この町のチーム、リバーキャッツは、ジャイアンツとアフィリエイト契約(マイナー選手の受け入れ契約)を結ぶ前は、15年(2000-2014年)の長きにわたってアスレチックスの3Aチームとして活動していたのだ。この時代には、岡島秀樹や中島宏之(現中日)がここサクラメントでプレーしている。その意味ではアスレチックス球団にとっては勝手知ったる場であると言っていいだろう。

 この町の球場、サターヘルスパークは正確にはサクラメントのダウンタウンからサクラメント川を渡った西サクラメント市に位置する。LRTと呼ばれる新型路面電車が走るダウンタウンからも徒歩でアクセスできる至便な場所にある。もっとも車社会のアメリカではほとんどの観客はマイカーで観戦に来るのだが。

アスレチックスマイナー時代のサターヘルスパーク。当時はラリーフィールドという名だった。
アスレチックスマイナー時代のサターヘルスパーク。当時はラリーフィールドという名だった。

 オークランドから140キロと言えば、日本人には小旅行になるが、アメリカ人にとっては「日常」の移動距離である。ハイウェイを飛ばせば1時間半ほど。十分に観戦に行ける範囲内である。ただし、オークランドのファンが、来年ここにチームを応援に来るかどうかは彼らのみぞ知ることだが。

 オークランド、サクラメント両都市のファンの感情に配慮してなのか、サクラメントに暫定本拠を置く予定の3シーズン、アスレチックスは都市名を冠することなく、「ジ・アスレチックス」の名で戦うらしい。しかし、これでオークランドのファンの怒りが収まるとも思えず、「サクラメント」を名乗らないことで、短期間ながらの地元ファンもつかないのではないだろうか。

 球場のキャパシティは現在約1万席。内外野の芝生席を入れると最大1万4000人収容とのことで、現在のアスレチックスの動員力を考えれば十分な数字である。しかし、MLBには球場にも「メジャースタンダード」が求められるようで、来シーズンまでのアスレチックスは、観客席の増設を含め改築工事をするという。

 「仮住まい」の整備を進めようとしているアスレチックだが、仮本拠のスタンド増築計画とはうらはらに、現本拠では不入り記録を更新しようとしている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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