◆データから見る「共働き世帯」と「平均給与」の現状

 昭和の頃は、夫が一家の大黒柱として外で働いて家族を養い、妻は家にいて家庭を守るという役割分担が一般的でした。内閣府の男女共同参画局がまとめた『男女共同参画白書 令和3年版(Ⅰ第3章)』によると、昭和55(1980)年は雇用者の共働き世帯数が614万世帯なのに対し、男性雇用者と無業の妻から成る世帯数はその倍近い1114万世帯でした。

 その後は共働き世帯が右肩上がりに増え続け、平成9(1997)年に逆転、令和2(2020)年では前者が1240万世帯、後者は571万世帯となっています。昭和的な性別役割分担(夫だけが外で働き、妻は家庭を守る)については、直近の調査(2019年)では女性の63.4%、男性の55.7%が反対していることからも、外で働く妻は今後も増えていくことでしょう。

 もちろん、性別役割分担せざるを得ない事情、家庭の価値観や方針などもありますので、共働きでなければならないということは決してありません。ただし家計の面からいえば、共働きであることの影響は無視できないものがあると考えます。

 そこで本記事では「世帯年収700万円の40歳の夫婦」をモデルに、3つのケースから検証してみたいと思います。

◆世帯年収700万円、3つのケースの設定と前提

 「年収700万円」という金額は、大黒柱ひとりが稼ぐ額としてはちょっと高めかもしれませんね。今年9月に国税庁が発表した「民間給与実態統計調査」(令和2年分)によると、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は433万円で、男女別では男性532万円、女性293万円となっています。正規雇用か非正規雇用かによっても差があり、正規雇用の人は496万円、非正規雇用の人は176万円。男女別にみると、正規雇用の男性は550万円、女性は384万円、非正規雇用の男性は228万円、女性は153万円です。

 いずれも平均年齢は46.8歳(男性46.8歳、女性46.7歳)、平均勤続年数は12.4年(男性13.9年、女性10.1年)と、個々の状況がかなり違いそうです。

 そこで、モデルケースの働き方はシンプルに、以下のように設定しました。いずれも、夫婦の年齢は共に40歳、子どもが2人(中学生と小学生)いる4人家族、東京都在住という前提です。

◆自由に使えるお金はどう違う?

 年収のうち自由に使える手取りのお金は、税金(所得税、住民税)と社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料など)を差し引いた残りで、これを「可処分所得」といいます。

 ご自身の可処分所得を知るには、年末までか年明けに勤め先からもらう「源泉徴収票」で「支払金額」(これが年収)を確認し、そこから「源泉徴収税額」(これが所得税額)と「社会保険料等の金額」を差し引きます。さらに、給与明細などで1年間に支払った住民税を確認して差し引けば、OKです。

 モデルケースごとの可処分所得がいくらになったかは、次の表のとおりです。税額計算にあたっては、生命保険料控除が4万円、地震保険料控除が3万円あるものとして計算しています。社会保険料については、年収を12で割った金額を協会けんぽの東京都の標準報酬月額に当てはめ、算出しています。

 また、40歳ということで子どもは中学生と小学生としていますが、早く結婚したためすでに高校生以上の子どもがいるといったケースでは「扶養控除」が使えるので、税額はもっと低くなります。

 同じ世帯年収パターンでも、各種条件によって異なることが考えられるので、あくまで目安として見てください。

 なお、児童手当など給与以外の収入は含めていません。

 結果、ケース2が最も夫婦合算の可処分所得が多くなりました。妻のパート収入が100万円なので、103万円を超えるとかかる所得税の負担がなく、東京都の場合は住民税もかかりません。公的年金・健康保険への加入義務もないため、社会保険料も支払う必要がありません。いわゆる「扶養の範囲」で収入を得ると、世帯で自由に使えるお金が増えることがわかります。

 次に多いのがケース3です。夫婦それぞれで税金・社会保険料がかかるものの、年収に応じた負担額がそれほど高くないため、同じ世帯年収700万円でもケース1に比べて可処分所得が多くなっています。逆にケース1は、年収高めの夫が負担する税金・社会保険料が多いので、可処分所得が減ってしまうわけです。

◆「130万円の壁」から「106万円の壁」、その先は?

 やはりケース2のように、「一方は扶養の範囲で働くのが一番トク」と思われたかもしれません。現状はそうでしょう。前述のように、パート収入が100万円なら税金がかからず、少し超えたとしても税額はそれほど大きくはありません。パート収入が130万円以上になると社会保険への加入義務が生じ、可処分所得に大きく影響してくるため、130万円未満に抑えて働く人が多いでしょう。

 いわゆる「130万円の壁」ですが、それが変化してきています。

 すでに制度改正により、2016年10月から、正社員が501人以上の会社でパートタイマーとして働くと、収入が月8万8000円(年収106万円)以上で、1年を超える雇用の見込みがあり、所定労働時間が週20時間以上あって、学生ではない場合、社会保険に加入することとなりました。一部の人にとっては、「106万円の壁」になっているわけです。

 さらに、2022年10月からは勤め先の規模の要件が101人以上に、2024年10月からは51人以上に改正されることが決まっています。また、雇用期間の要件も、2か月を超える雇用の見込みがあることと改正され、今後は「106万円の壁」の対象者が増えるでしょう。

 対象になれば、可処分所得が下がることになります。

 それ以降については明らかではありませんが、将来さらなる制度改正があるかもしれません。人生100年時代、40歳はまだまだ先があります。現在、壁を超えないように調整して働いている人が、急に働く時間を延ばすのは難しいかもしれませんが、壁を意識せず収入アップを図る働き方へと、キャリアプランの舵を切ってもいいのではないでしょうか。

 壁を意識せずに働くと可処分所得は減りますが、将来、厚生年金が受け取れるようになります。厚生労働省の試算によると、年収106万円の人が20年間厚生年金に加入した場合、厚生年金保険料は月額8,100円で、基礎年金に上乗せされる報酬比例部分の年金額の目安は、年額10万8300円。

 働く時間を延ばして収入を増やせば、年金額もアップします。それが終身にわたって受け取り続けられる安心感は、公的制度ならではのものです。

◆夫婦ダブルで公的年金を受け取れる

 では、世帯年収700万円の夫婦の年金はいくらくらいかですが、現時点の条件で試算した、ケース1、2、3の公的年金受取予想額を見てみましょう。加入期間は20歳から60歳まで、65歳から受け取り開始、現在の標準報酬月額を加入期間中の平均として計算しています(万円未満は四捨五入)。

 ただし、長期の間には必ず変動しますので、あくまで目安として見てください。また、ケース1、2の妻は、夫の年金制度に加入する第3号被保険者のままとしています。

 結果はケース3が、ケース1との差がわずかなものの、夫婦の年金合計額が最も多くなりました。フルタイムの共働きのメリットが、ここへきて出てきたという感じです。

 可処分所得が最も多くなったケース2ですが、年金額は一番少なくなってます。支払保険料が少ないと、可処分所得が多くなっても年金額は少なくなると言えそうです。

◆共働きは家計のリスク分散になる

 同じ世帯年収700万円でも、夫婦の収入のうちわけによって、可処分所得や年金額に違いがあることを見てきました。

 ケース1のように夫の年収が高いケースは、妻の収入で補わなくても家計が回るかもしれません。しかし、不測の事態、たとえば夫が病気や事故で今までのように働けなくなる、会社の業績が悪化して収入が激減するといった事態に見舞われたとき、収入の柱が1本というのは家計にとってのリスクと考えられます。

 現実にはケース2のように、妻が扶養の範囲で働く世帯の割合が多いと思われますが、いずれ制度改正の影響を受けるかもしれないことは、「106万円の壁」で述べたとおりです。妻の年収が少ない分、不測の事態にもまだ弱いと言えます。

 ケース3は、夫婦それぞれの年収は決して高くありませんが、不測の事態をカバーしあうことは可能です。このまま働き続ければ、それぞれの年収がアップすることも期待でき、将来受け取る年金額のアップにもつながります。

 なお、給与所得者をモデルケースにしましたが、夫婦共働きでもどちらかがフリーランスなどの事業所得者という場合、年金額は大きく違ってきます。共に収入があることは家計のリスク分散になるものの、iDeCoなどを活用した資金形成プランが別途必要になります。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】