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触れるだけで皮膚炎を起こす「やけど虫」 6~8月は増える季節、絶対に触らないで

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
写真はイメージ(写真:イメージマート)

虫の中には有毒な体液を持っていて、人が触れるだけで皮膚炎を起こしてしまう種類がいます。その中で、今回は、6~8月に多く見られる「やけど虫(アオバアリガタハネカクシ)」についてご紹介します。

本名「アオバアリガタハネカクシ」の由来は?

「やけど虫」と呼ばれている虫、本当の名前は「アオバアリガタハネカクシ」と言います。体長は約7mmで細長く、イラストのように、頭部と末端部は黒色、胸部と腹部はオレンジ色、真ん中の翅(はね)の部分は藍色というかなり特徴がある外観をしています。(※)

カブトムシと同じ甲虫(こうちゅう)の仲間で、翅は、上翅2枚と下翅2枚の計4枚あります。ただ、上翅が小さくて腹部が隠れないので、カブトムシと見た目は大きく異なります。

名前の由来は、背中の上翅が藍色であることから「青羽(アオバ)」、アリに似ているから「蟻型(アリガタ)」、上翅に隠すように下翅を畳み込むので、「翅隠し(ハネカクシ)」ということから名付けられたようです。

アオバアリガタハネカクシイラスト(いらすとや)
アオバアリガタハネカクシイラスト(いらすとや)

なぜ「やけど虫」っていうの?

人を刺したり噛んだりすることはないのですが、この虫の体液には「ペデリン」という有毒物質が含まれています。この虫の体はやわらかいので、肌に止まった虫を払いのける時につぶれてしまうことがあり、体液が肌に付着するとミミズ腫れや水ぶくれのようなやけどに似た炎症を起こします。このことから「やけど虫」という別名で呼ばれるようになりました。

肌の上で虫をつぶすと「点」状の炎症になりますが、サッと虫を払いのける手の動きで体液が肌にこすりつけられると「線」状の炎症になることから、「線状皮膚炎」と呼ばれています。

また、炎症が出るのは、虫に触れた数時間~半日後になるので、何もしていないのに、ヒリヒリするようなやけどのような症状が出てびっくりするかもしれません。やけど虫を払いのけた時には痛くもないので体液が手に付いていることに気付かず、その手で目をこすったりすると、結膜炎などの炎症を起こす場合もあります。ペデリンが目に入ると最悪の場合、失明する危険性もあるので注意が必要です。

どんな生活をしているの?

北海道から沖縄まで、日本全国に分布している雑食性の虫で、昆虫やダニ類のほか植物も食べています。成虫は5~10月頃に見られますが、いちばん多い時期は、6~8月です。田畑や河原、池や沼の周りの草地など湿ったところに生息しています。夜間、灯火に飛来する「走光性」という性質があるので、家の灯りに飛んできて小さな隙間からでも室内に入ってしまうことがあります。

では、やけど虫への対処法をお教えします。

家の中でやけど虫と遭遇しないために

まず、家の中にやけど虫を侵入させないことが重要です。夜間に玄関灯や室内の光に寄ってきて、入ってしまうことがあるので、窓は閉めるか網戸にしましょう。また、玄関灯、家の外壁、網戸に虫を忌避させるスプレーをかけておくのも効果的です。

家の中で見つけても、人を攻撃してくることはありませんが、絶対に素手では触らないでください。害虫駆除用のスプレー剤があれば直接スプレーして駆除してください。ただ、あまり近くで噴霧すると、虫が小さく軽いので、スプレーの勢いで吹き飛ぶことも考えられるため、少し離れた場所からスプレーしてください。死骸にも有毒な物質が残っているので、処分する際も素手では触らずティッシュペーパーなどでそっと包んで捨ててください。

野外で遭遇しないためには

やけど虫が活動的になる6~8月に、田畑や池、河原などのやけど虫が生息しそうな場所へ外出する際は帽子をかぶり、長袖、長ズボンを着用して肌の露出をできるだけ少なくしましょう。やけど虫が身体に止まってきたとしても被害は少なくなります。

もしも、やけど虫が素肌を這っていたとしても慌てないでください。虫が肌を這うのはとてもイヤだと感じますが、やけど虫の被害は、払いのける手で体液が肌にこすりつけられることから起こります。びっくりしても、一呼吸置いて冷静になり、息で吹き飛ばすか、タオルやハンカチなどを使ってそっと払いのけましょう。

もし体液が肌に付いてしまったら

体液が付いた肌は、流水で洗い流すことが重要です。放置しておくと、体液が他の部分にも付いてしまいます。やけど虫が止まった肌の周辺をしっかりと洗い流しておきましょう。数時間後、かゆみや痛みが生じた場合は皮膚科を受診することをお勧めします。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:イメージマート

最後に…

ハネカクシは、日本では約800種生息しています。ほとんどのハネカクシには毒はないのですが、上記のアオバアリガタハネカクシの他、コアリガタハネカクシ、クロサワアリガタハネカクシなども皮膚炎の原因となります。

灯火に寄って来る性質があるので、キャンプや家庭で花火をしている時や、自転車やバイクのライトを点けて夜間に走行している時に遭遇しやすいので注意してください。

これから野外に行くことが多くなる季節です。もしも、やけど虫に遭遇してしまった時は、この記事を思い出してください。肌に止まったとしても、焦らず、慌てず対処して、肌の炎症被害を最小限に防いでいただくことを願います。

(※)やけど虫をきちんと写真でご覧になりたい方はこちらから↓

アオバアリガタハネカクシ(アース製薬「キケンな虫の解説」)

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

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