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少子化は「20代が結婚できない問題」であることを頑固なまでに無視する異次元政府

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

本気でやる気がない

日本の少子化の原因は、既に結婚した夫婦が子どもを産まない(産めない)ことではなく、そもそも婚姻数の減少であることは何回もお伝えしている通りだが、最近SNS上の書き込みを見てもその認識が広まっているように思う。

「子育て支援はそれはそれとして大切だが、それをどれだけ充実させても出生数は増えない」という事実も以前に比べればかなり認知度は高まっていると思う。

にもかかわらず、相変わらずその事実を頑固なまでに無視し続けているのが政府とこども家庭庁なのだが、先月22日にキックオフした「こどもまんなかアクション」が的外れすぎて大いに炎上したことは記憶に新しい。

「こどもまんなかアクション」とは、政府が子育て支援に対する国民の理解を深めるために取り組む国民運動だそうだが、その中身はあえてここで記載することも憚れるほど無意味なものであり、政府とこども家庭庁は少子化対策に本気で取り組む気がないということを世間に十分にアピールした結果となった。

先延ばし体質と永田町的スピード感

担当の小倉大臣は「子どもや子育てに優しい社会に向けた機運醸成のため、取り組みを継続的に進めていきたい」と述べたらしいが、随分と悠長な話だと思う。

第三次ベビーブームが起きなかった時点で、ただでさえ今から先の婚姻対象年齢人口は減り続ける。

結婚には年齢制限はないが、結婚して出産し子育てをするということには年齢の限界がある。つまり、出生数云々をいうのであればタイムリミットがある話なのである。政治がよくやる「先延ばし」をしていては、もう取返しのつかない状況になるし、岸田首相のいう「永田町のスピード感」が一体時速何キロの話をいっているのかと問いたいものである。

提供:イメージマート

晩婚化なんて起きていない

以前にも、「日本では晩婚化など起きていない。晩婚化ではなく結婚が後ろ倒しになったがゆえの結果的非婚化なのである」という話を書いた。

晩婚化など起きていない。起きているのは若者が結婚できない状況である

再度、確認のために、最新のデータを示すと、2000年と2021年の男性の年齢別初婚数の推移をみていただきたい。

男性の初婚数は、2000年の61.5万組から、2021年は29.9万組へと激減した。実に半減以上である。初婚だけではなく全体の婚姻数の比較でいえば37%減なので、いかに初婚ができなくなっているかがわかると思う。

しかも、問題はもっとも初婚が多い25-29歳の初婚数の激減ぶりなのだ。

男性の平均初婚年齢は31.0歳だが、中央値は29.5歳である。初婚する男性の半分以上は20代のうちに初婚しているのである。裏返せば、日本の婚姻数が激減しているのは、この29歳までの初婚が減っていることに大きな要因があるのだ。

そして、この20代のうちに結婚したくてもできなかった層が、30代以上で結婚できるかといえばそうはなっていない。30代全体でもマイナスだし、その分40代以降の初婚が増えているかといえばまったく増えているとは言えない。

要するに「晩婚化など起きていない」ということだ。これは女性でも同様である。

出生減は婚姻減

そして、初婚数が減少すれば出生数はそれに完全に比例して減少するということも明らかな話である。25-29歳というもっとも初婚の多い年齢帯における、初婚数と出生数の2000年と2021年の比較をすれば一目瞭然だ。

比較のために両方とも25-29歳女性とする。

初婚数

2000年308790組→2021年131006組(▲58%)

出生数

2000年470833人→2021年210433人(▲55%)

つまるところ、この25-29歳を核とした「結婚したいのに結婚できなくなっている若者の不本意未婚問題」が出生数の減少に直結しているのであり、それにはまず今まさに何が20代代の若者に起きているのかを正確に把握しないといけない。安易に「官製婚活支援」とか「マッチングアプリ業者と組めばいい」などという話ではない。

結論からいえば、それは若者にのしかかっている経済問題なのである。

的外れ事業ばかりやる理由

こども家庭庁の的外れ事業といえば、7/16のニュースにあったように、小倉大臣が同行して、東京の中央区のタワマン住まいの子育て夫婦の子育て体験談を若者が聞きに行く事業というのがあったが、これも何をしたいのかさっぱりわからない。

若者にしてみれば、「僕らは一体何を聞かされているんだろう」という話でしかなく、「それ以前の問題なんだよ」と叫びたいのではないか。

写真:イメージマート

長くなってしまったので、20代の初婚が激減している要因の中で、2000年以降直面している経済問題のひとつについては次の記事でご紹介したい。

あえて書くとすれば、政府も官僚も出生数の改善など不可能であり、人口減少が不可避であることもわかっているはず。しかし、それを言うことの政局的デメリットばかりを気にしすぎて、本来政治がやらなければならない未来の構築がなおざりになっている。

出生数は増えない、人口は減る。少なくともあと100年は変わらない。

そうした避けようのない現実に対して目を背けずに、少子化人口減少の前提での運営をどうしていくかをいい加減議論しないといけないだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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