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100年続いた日本の皆婚時代の終焉。女性の大学進学率と生涯未婚率との奇妙な一致

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

女性の大学進学率過去最高

文科省の学校基本調査によれば、2021年の女性の大学進学率(4年制大学・学部への進学率・過年度高卒者等を含む。短大除く)は51.7%で、1954年の統計開始以降過去最高となった。

時系列的に見ると、かつて女性は、4年制大学への進学より短大への進学の方が多かった。それが逆転したのが1996年である。その後の推移をみると、その差は拡大している。

今回は、女性の大学進学率と結婚との関係についてご紹介したい。

ご存じの通り、1980年代まで皆婚時代と呼ばれるのは、1990年以降に男女の生涯未婚率が上昇したためだが、生涯未婚率は45-54歳の未婚率であり、実際の結婚適齢年齢より上である。

2020年の生涯未婚率は、男25.7%、女16.4%(但し、不詳を除くベースの計算値)とこれも過去最高記録だが、この対象年齢が高校を卒業したあたりが丁度1980年代後半から1990年代前半である。今の生涯未婚過去最高記録を打ち立てた張本人は、その頃の高校卒業者たちであるといってもよい。

2020年生涯未婚率(不詳除く)はこちら

【速報】2020年国勢調査確定報より、男女の生涯未婚率は何%になったのか?

「結婚の即戦力」だった短大卒女性

1980年代までの職場には、まだ職場結婚という社会的お膳立てシステムが機能していた。「腰掛けOL」という言葉がいわれ、短大卒で入社した女性は、その会社の男性社員と結婚して「寿退社」するというルートがあった頃である。

写真:イメージマート

その良し悪しは別として、当時の企業側もそうした社員同士の結婚を推奨していた。当時の企業では、社員同士の飲み会も活発だったし、運動会や文化祭も泊りの社員旅行もあった。そうした催しは、社員全体の連帯感醸成という面もあったが、若い社員同士のマッチングの場としても機能していたことは事実である。

若くして結婚した夫婦のための社宅などの福利厚生制度も充実していた。それは、早くから男性社員に結婚をさせ、家庭を持たせることで、会社への忠誠心を発揮してもらうための術でもあった。

ちなみに、リゲインという栄養ドリンクが「24時間、戦えますか」というキャッチコピーと歌で広告を展開したのも1988年である。

そうした社会的システムの中で、短大卒の女性はある意味「結婚の即戦力」として大いに重要だったわけだ。

写真:アフロ

しかし、同じ時期に、男女雇用機会均等法が施行され、バブルが崩壊し、次いでやってくる就職氷河期もあり、企業の終身雇用制が揺らいだ時期とも重なる。

明治以降、いままでの地域コミュニティにかわって、家族的なコミュニティとして機能していた職場コミュニティの崩壊のはじまりでもある。

女性の大学進学率急上昇の裏には、女性活躍や経済的自立という面もあるが、反面「女性の経済的自立の自己責任化」の第一歩でもある。

女性の大学進学率が上がると未婚化が進む

そういう視点で、生涯未婚率の推移と女性の4年制大学進学率の推移とを見てみると、興味深い相関がうかびあがってくる。

時系列の女性生涯未婚率と、その対象年齢の大学進学年齢での進学率(約30年前)とをあわせてみたグラフが下記である。

2005年の進学率だけは外れ値になっているが、他はことごとく一致する。相関係数は実に0.8648と強い正の相関がある。つまり、女性の4年制大学進学率があがると女性の生涯未婚率があがるということだ。

これを個人の価値観の変化によるものと解釈してはいけない。あくまで社会環境の変化による。

生涯未婚率が4.3%しかなかった1985年の女性の大学進学率は2.4%であり、2020年16.4%まで上昇した対象年齢の大学進学率が15.2%とかなり近しいことは興味深い。勿論、大学進学した女性が全員生涯未婚ということではないし、大学進学率が51%を超えた現代の女性の30年後の生涯未婚率が50%になるということでもない。が、女性の進学率が急上昇するのにあわせて、女性の生涯未婚率が完全に連動しているということは注目に値する。

実際、ある程度の年収以上の女性ほど生涯未婚率も高い。「結婚できる・できない」という問題とは別に「結婚する必要性を感じない」女性が増えたのも納得できる。

1889年の明治民法によって始まったとされる日本の皆婚時代が、この1990年代4年制大学進学率が短大を逆転した時点をもって終焉したといえるかもしれない。

そして、その後に起きた環境変化も明治以前の江戸時代と酷似している。江戸の女性が晩婚化し、自由に何回でも離婚を繰り返すことができたのも、彼女たち自身の経済的自立という背景があったからでもある。

少なくとも2040年までは、女性の生涯未婚率はあがりつづけ、20%までいくと推計されている。2022年の今年の春。大学に進学する女性が50歳に到達するのは32年後。2054年の生涯未婚率はどうなっているだろうか。

いずれにせよ、未婚ではなく「選択的独身」というべき非婚化が進行するのは避けられないし、そもそも皆婚への回帰は不可能だし、それが是であるともいえない。結婚する人がいなくなるわけではない。少子化も人口減少も確実にやってくる未来なのだから、それを前提とした対応が図られるべきだろう。

※追記

この記事公開以降に国の方針として生涯未婚率は不詳補完地を採用することが決定している。

【国勢調査】不詳補完値の正式採用により、2020年の生涯未婚率は男28.3%、女17.8%へ

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※本記事のような相関関係に言及した記事に対して「相関があっても因果があるとはいえない」という反論が来ることが多いのですが、そんなことは当然の上で書いています。相関関係があるだけでは因果関係があるとは断定できない。当たり前です。相関があるからといって一方の要因が自動的にう一方を決定するものではないこれも当然の話。そもそも結果に対して原因がひとつであるわけがない。しかし、「相関関係は因果関係を含意しない」とはいえ、相関がある以上因果関係の何かしらの前提の可能性は否定できない。それだけの話であり、相関から仮説を考えることに意味がないとは思わない。「ニコラス・ケイジの映画が増えるとプールで溺死する人も増える」という有名な擬似相関の事例を出してくる人など、一部しつこい人間がいるのであえて書かせていただきました。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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