ロシアがウクライナへの攻勢を強めようとするなか、対立するシリアとトルコの「傭兵」がロシア軍を支援か?
ロシアのウクライナ侵攻開始(2022年2月24日)から1年が経つのに合わせて、ロシア軍が再び大規模攻勢をかけようとしているとの情報が流れるなか、中東出身の「傭兵」(あるいは「義勇兵」、「志願兵」)の動きを伝える報道も目立つようになっている。
シリア軍第25特殊任務師団への訓練強化
英国に本社があるパン・アラブ日刊紙の『クドス・アラビー』は1月31日、ロシア軍が、アレッポ県東部にあるジャッラーフ航空基地で、「トラ」の愛称で知られるスハイル・ハサン准将が指揮するシリア軍第25特殊任務師団にパラシュート降下などの訓練を強化していると伝えた。
ジャッラーフ航空基地(別名カシーシュ航空基地)は、2013年にイスラーム国よって制圧され、激しい戦闘によって利用不能となっていた。だが、2017年にシリア軍によって奪還され、先月21日に復旧が完了、シリア軍戦闘機、ヘリコプターに加えて、ロシア軍の防空システムが配備していた。
『クドス・アラビー』紙によると、ロシアによる第25特殊任務師団への教練は、ウクライナでの戦闘に従事する同師団の将兵を派遣し、ロシア軍の支援に当たらせることが目的だと見られるという。
第25特殊任務師団は、将兵2,000人あまりを、ウクライナに派遣し、ロシア軍を支援する任務についているとされる。
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なお、シリア人傭兵の詳細については拙著『ロシアとシリア:ウクライナ侵攻の論理』(岩波書店、2022年)を参照されたい。
トルコからの志願兵
一方、ロシアのRIAノーヴォスチやタス通信は2月2日、ロシアによるウクライナでの特殊軍事作戦に参加するため、トルコからの志願兵3人が、スドプラトフ大隊に入隊し、教練を受け始めたと伝えた。
スドプラトフ大隊は、ソ連のパヴェル・スドプラトフ諜報員(中将)にちなんで名づけられた志願兵からなる部隊。ロシアが実効支配するウクライナのザポリージャ(ザポロージエ)州で州知事を務めるエフゲニー・バリツキー氏が2022年9月に法令に署名し、聖アンドレイ大隊、スラヴ防衛大隊とともに、設立を認めた志願兵部隊だ。
バリツキー知事は、これら部隊が、主にザポリージャ州出身のウクライナ人志願者から構成されていると述べている。だが、1月16日と25日、セルビア人とスウェーデン人がそれぞれ入隊したことを明らかにしていた。
「クゾン」を名乗る志願兵の1人は次のように述べている。
「クゾン」を名乗る志願兵は、モスクワの大学に数年間留学し、ロシアの文化に精通、ロシアに多くの友人がおり、トルコ軍に勤務した経験はあるが、戦闘に参加したことはないという。
また、「ラズ」を名乗る別の志願兵も次のように述べている。
トルコは、これまで国家情報機構(MiT)などが、シリアの反体制派や、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)と共闘していたチェチェン人戦闘員をウクライナに派遣し、ロシア軍との戦闘にあたらせる工作活動を行ってきた。
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ウクライナ軍、ロシア軍双方を支援するトルコ人、シリア人
だが、ロシア軍を支援するためにトルコ人がウクライナに赴いたことが事実であれば、シリアと同様、トルコもウクライナ、ロシアの双方に「傭兵」(あるいは「義勇兵」、「志願兵」)を派遣したことになる。
シリアとトルコは、「アラブの春」が中東を席巻した2011年以降、激しく対立し合ってきた。だが、2022年12月、ロシアの仲介により、モスクワで両国の国防大臣が会談し、和解に向けた動きが本格始動した。現在は、両国外務大臣の会談、そして最終的にはバッシャール・アサド大統領とレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の首脳会談の準備が進められているという。
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シリアとトルコの和解に向けた動きは、シャーム解放機構が支配するシリア北西部、トルコの占領下にあるシリア北部で反発を招いており、徹底抗戦を主唱する武闘派が、ロシア軍への恨みを晴らすために(そして金銭目当てに)、ウクライナに派遣されていると言われる。
その一方で、シリアとトルコの最接近とシンクロするかたちで、一部のトルコ人が、「分離主義テロリスト」(クルド民族主義勢力)を支援し続ける米国や欧州諸国への嫌悪感に突き動かされるかのように、ウクライナでロシア軍を支援しようとしていることは、不条理というしかない。