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イスラエルがシリアを再びミサイル攻撃:ウクライナの戦況が膠着するなか、2度目となる侵犯行為

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

ウクライナで起きていることではなく、また日本の友好国が行っていることなので、注目されることも非難されることもないだろう…。

イスラエル軍が再びミサイル攻撃

だが、シリア国営通信(SANA)は、シリア軍筋の話として、イスラエル軍戦闘機が4月14日午後11時2分、占領下のゴラン高原北方向から、ダマスカス郊外県西部の複数カ所に対してミサイル攻撃を行ったと伝えた。

同軍筋によると、これに対して、シリア軍防空部隊が迎撃、一部ミサイルを撃破したが、若干の物的被害が生じたという。

力による現状変更を受けたゴラン高原

ゴラン高原はシリア領だが、1967年の第三次中東戦争でイスラエルが占領、1981年に一方的に併合している。西側諸国を含む国際社会はこの力による現状変更に反対している。だが、イスラエルを撤退させるような実効的な対応はとっておらず、占領・併合は既成事実化している。2019年には米国(ドナルド・トランプ政権)がゴラン高原におけるイスラエルの主権を認めている。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ミサイル攻撃は、シリア最高峰のシャイフ山(ヘルモン山)麓のラフラ村一帯、アムビヤー村とラバノンのカフルクーク村(ベカーア県)間の養畜所などに対して行われた。

狙われたのは「イランの民兵」、パレスチナ解放軍

同地には「イランの民兵」、パレスチナ解放軍の拠点が設置されていたという。

「イランの民兵」は、イスラーム教シーア派(12イマーム派)宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘した外国人(非シリア人)民兵の総称。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。

一方、パレスチナ解放軍は、1964年9月に正式に発足したPLO(パレスチナ解放機構)の軍事部門。結成当初は、ガザ地区、シリア、イラク、エジプトに部隊を配置していたが、現在は、ムハンマド・ターリク・ハドラー参謀長の指揮のもと、シリアとレバノンで活動を継続している。シリア内戦においては、シリア・ロシア軍、「イランの民兵」とともに、反体制派との戦闘に参加してきた。

イスラエルによるシリアへの侵犯行為は、4月に入って2度目。

イスラエルは、ロシアがウクライナに対する攻撃を開始した2月24日以降、シリアに対する爆撃やミサイル攻撃を控えていたが、欧米諸国からの武器供与を受けるウクライナでの戦況が膠着を始めるなか、シリアへの攻勢を再開させる動きを見せている。

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東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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