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所属不明のドローンがシリア南東部で「イランの民兵」をミサイル攻撃、米国は関与を否定

青山弘之東京外国語大学 教授
‘Ayn al-Furat、2021年9月15日

シリア南東部のダイル・ザウル県で9月14日深夜、所属不明の無人航空機(ドローン)複数機が、政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のブーカマール市近郊の国境通行所を通過しようとした「イランの民兵」の車輌を狙ってミサイル攻撃を行った。

狙われたのはイラク人民動員隊

反体制系サイトのオリエント・ニュースによると、ミサイル攻撃が行われたのは、シリアとイラクを結ぶ正規の通行所であるブーカマール国境通行所(イラク側はカーイム国境通行所)ではなく、ブーカマール市南東のハリー村に設置された「イランの民兵」専用の非公式の通行所。

「イランの民兵」とは、イラン・イスラーム革命防衛隊と同隊が支援する民兵の総称(蔑称)。イラン・イスラーム革命防衛隊、同隊の精鋭部隊であるゴドス軍団、イラク人民動員隊、レバノンのヒズブッラー、アフガニスタン人からなるファーティミーユーン旅団、パキスタン人からなるザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。

ドローンは、イラクからシリアに武器を移送しようとしていた貨物車輌2台を含む3台をミサイルで攻撃した。3台はいずれもイラク人民動員隊に所属するヒズブッラー大隊の車輌だったという。

一方、反体制系サイトのアイン・フラートは、ミサイル攻撃が車輌2台に対して4回にわたって行われ、うち1台がイラク人民動員隊所属のサイイド・シュハダー大隊の車輌で、イラクからシリアではなく、イラクからシリアに武器を運搬していたと伝えた。また、攻撃によって炎上したとされる車の映像を公開した。

トルコ国営のアナトリア通信は、イラク軍の匿名士官から得た情報として、この攻撃でイラク人民動員隊に甚大な被害が出たと伝えた。

また、オリエント・ニュースはヒズブッラー大隊のメンバー6人が死亡したと伝えた。同サイトによると、9人が死亡したとの情報もあるという。

米国は関与を否定

3日前の9月11日、イラク・クルディスタン地域の外国メディア関係担当官のラーウク・ガフーリー氏はツイッターを通じて、エルビル国際空港がドローンの攻撃を受けたと発表していた。

誰が攻撃を行ったか明らかではない。だが、米軍が駐留するエルビル国際空港に対しては、これまでにもたびたび攻撃が加えられ、その度に米国はイラク人民動員隊の犯行と断じ、報復としてシリア領内にある同隊の拠点などを爆撃していた。

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そのため、今回も、米国が同様の報復を行ったものと考えられていた。

だが、有志連合(CJTF-OIR、「生来の決戦作戦」統合任務部隊)のウェイン・マロット報道官(米軍大佐)はツイッターで以下の通り表明し、これを否定した。

CJTF-OIRは我々が2021年9月14日にブーカマールで爆撃を実施しなかったことを確認できる。

米国、あるいは有志連合が攻撃を行っていないことが事実であれば、イスラエルによる攻撃の可能性が高い。だが、イスラエル側はいつもの通り、シリアへの侵犯行為に対して公式の声明は発表していない。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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