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ロシアはクリミアでシリアのアル=カーイダのテロ計画を摘発、アル=カーイダはシリアで停戦に貢献

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2021年4月5日

クリミアでのテロ計画摘発

ロシア連邦安全保障会議は4月9日に声明を出し、クリミア共和国の首都シンフェロポリにある教育機関に対して爆弾を用いて攻撃を企てていた1992年と1999年生まれのロシア人2人を逮捕したと発表した。

逮捕された2人は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)の支持者で、攻撃を実行した後、ウクライナ、トルコを経由してシリアに逃走し、同機構に加わろうとしていたという。

ロシア連邦安全保障会議はまた、逮捕された2人のアジトで爆発性物質、榴散爆弾製造用の部品、逮捕された2人、さらにはテロリストらとの間で交わされた文書と音声による指示書やメッセージを押収した。

クリミア共和国は2014年のウクライナ騒乱、ロシアのクリミア侵攻を受けて、同年3月17日にウクライナ領のクリミア自治共和国とセヴァストポリ特別市が独立、翌18日にロシア連邦に編入された。

緊迫化していたロシア・ウクライナ関係、介入を画策するトルコ

ロシアとウクライナの関係は、3月末にロシアがクリミアや国境地帯に部隊を増派するなどして緊張が高まっており、トルコが反体制派を傭兵としてウクライナに派遣しているといった報道が流れていた(「ロシア・ウクライナ情勢が緊迫化するなかトルコが再びシリア反体制派の傭兵としての派遣を準備か?」を参照)。

トルコは、シャーム解放機構をテロ組織に認定してはいるが、2020年2月末から3月初めにかけてのシリア北西部(イドリブ県)でのロシア・シリア軍との戦闘では、無人航空機(ドローン)を投入するなどして、国民解放戦線(シリア国民軍、TFSA(Turkish-backed Free Syrian Army))やシャーム解放機構などからなる「決戦」作戦司令室を公然と支援している。

停戦への貢献をアピールするアル=カーイダ

一方、シャーム解放機構は、ロシアとトルコが2020年3月にシリア北西部での停戦に合意して以降、トルコに協力的な姿勢を示すことで生き残りをはかろうとしている。

トルコは、ロシア・シリア軍が攻撃を再開しないよう、「決戦」作戦司令室に停戦を遵守させようとしている。新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構やこれに同調する一部の過激派が、これに反抗し、徹底抗戦の構えを見せると、シャーム解放機構は、これを弾圧することで、シリア北西部の停戦への貢献者としての存在をアピールするようになった。

ロシア連邦安全保障会議の声明発表を受け、シャーム解放機構の広報関係局(タキーッディーン・ウマル局長)は4月9日に声明を出し、次のように述べて嫌疑を否定した。

占領国ロシアはまたしても、クリミアでテロ作戦を封じ、シャーム解放機構に所属するロシア人2人を逮捕したなどと主張してるが…、これまでにも同じ情報源から数十という噂やウソが発信されてきた。

こうした嫌疑をしばしば広めようとするロシアの狙いは、解放区の医療施設やコミュニティに対して新たな攻撃を正当化する口実を作り出すことになる。

占領国ロシアの宣伝に追随してはならない。

これと並行して、シャーム解放機構は、停戦の貢献者としての存在を、トルコ、さらにはロシアに対して誇示するかのように行動した。

4月10日、シャーム解放機構の治安部隊は、自らが軍事…治安権限を掌握するアレッポ県西部のサッハーラ村で、フッラース・ディーン機構のリビア人司令官アブー・アフマド・リービーを強襲し、拘束した。

また、イドリブ県のイドリブ市でも、フッラース・ディーン機構の司令官の1人でアレッポ市出身のアブー・ハージル・ハラビーの自宅を強襲し、妻および子供とともにこの男性を拘束した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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