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シリアで女性の一言を受けてロシア軍撤退:ここから出て行ってトルコの攻撃を止めさせなさい(映像あり)

青山弘之東京外国語大学 教授
Al An TV、2020年10月11日

シリア北東部のハサカ県で10月11日、地元の住民が、国境地帯に駐留しようとしたロシア軍を退去させた。

事件が発生したのは、マーリキーヤ市(クルド語名はダイリーク)北の国境地帯に位置するアイン・ディーワール村。北にはトルコのジズレ市が位置し、東にはイラクとシリアを隔てるチグリス川が流れる要衝の村だ。

2019年10月のトルコによるシリア北部への侵攻作戦(「平和の泉」作戦)に際してロシアとトルコが交わした合意では、クルド人民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍を排除し、両国が治安維持にあたることが取り決められた。

だが、シリア民主軍の軍事的後ろ盾である米国がルマイラーン油田などに基地を違法に設置し、マーリキーヤ市一帯を勢力下に置いており、ロシア軍との小競り合いが絶えない(「シリア北東部の油田地帯でロシア軍ヘリコプターが米軍ヘリコプターをにらみ合いの末に放逐(映像あり)」などを参照のこと)。

Google MAP
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英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、10月11日、ロシア軍憲兵隊の装甲車11輌からなる部隊が、ヘリコプター1機を伴って、カーミシュリー市(カーミシュリー国際空港)の基地からマーリキーヤ市方面に向かい、トルコとの合意に基づいて国境地帯でのパトロールを実施した。

だが、アイン・ディーワール村近郊に集結、同地に拠点を設置しようとした際に、住民がこれに立ちはだかり、部隊の村への進入を阻止した。

この時の様子を伝えたアル・アーン・チャンネル(UAEのドバイに本部を置くパン・アラブ衛星テレビ局)の映像には、ロシア軍兵士に詰めよる住民、装甲車に石を投げる子供たち、上空を旋回するヘリコプターの様子などが映し出されている。

映像にはまた、ロシア軍士官と口論する女性の様子も収められている。

ロシア軍士官は女性に対して次のように述べて、拠点設置に理解を求めた。

ロシア軍部隊は市民を守るためにやって来た…。

住民のなかに金銭を受け取ってロシア軍パトロール部隊に抵抗しようとしている者がいる。

しかし、女性はこう反論した。

ここから出て行きなさい。私たちはあなた方を必要としていません。私たちは安全に暮らしています。

ここから出て行って、(トルコのレジェップ・タイイップ・)エルドアン(大統領)が我々を攻撃するのを止めさせなさい。

あなた方はアフリーンでもスィリー・カーニヤ(ラアス・アイン)でも私たちを裏切った。

ここから出て行って、エルドアンからこれらの町を奪い返してください。

あなたたちはここで何をしているのですか? 私たちはあなた方の保護など必要としていません。

住民の抵抗を受けたロシア軍部隊は撤収を余儀なくされた。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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