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シリア中部のトルコ軍監視所前で撤退を求める抗議デモ

青山弘之東京外国語大学 教授
Baladi News、2020年10月6日

シリア中部のハマー県で10月6日、トルコ軍に撤退を求める抗議デモが行われた。

デモが行われたのは、イドリブ県との県境に近いムーリク市郊外にあるトルコ軍の監視所(第9監視所)の前。

トルコは2017年5月、アスタナ4会議でのロシア、イランとの合意に基づき、シャーム解放機構が主導する反体制派が支配するイドリブ県、アレッポ県西部、ハマー県北部、ラタキア県北東部の各所に、停戦監視を口実として12カ所の監視所を設置した。また、今年2月から3月にかけてのシリア・ロシア軍と反体制派との戦闘に際して、イドリブ県内のアレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路沿線やアレッポ県西部に60カ所の拠点を設置した。

筆者作成
筆者作成

Baladi Newsなど複数の反体制系サイトによると、デモは、与党バアス党のハマー支部が、党員、学生、公務員らに動員をかけて行われた。

大型バスやトラックで現場入りした参加者の数は数十人。反体制系サイトによると、彼らはほとんどが「シャッビーハ」だったという。

「シャッビーハ」とは、地中海岸の方言(シリア方言)で「想像しがたいことを行う幽霊(シャバフ)のような人」を意味し、そもそもは大統領の親戚縁者が結成・組織した武装犯罪集団を指していたが、現在はシリア政府支持者、あるいは反体制派を支持しない人を指す蔑称として使用されることが多い。ちなみに、「シャッビーハ」という蔑称を好んで用いる活動家は「ナッビーハ」という蔑称で呼ばれる。「ナッビーハ」は「注意を喚起する、煽動する」を意味する「ナッバハ」という動詞から作られた造語である。

デモ参加者は、ムーリク町の監視所の門に掲げられているトルコ国旗を引きずり下ろし、シリア国旗を掲げた。また、トルコ軍兵士ともみ合いになり、監視所に向けて投石を行った。これに対して、トルコ軍は催涙弾で応戦し、デモを強制排除した。

反体制系のEldorarによると、同様のデモは、イドリブ県のマアッル・ハッタート村に設置されているトルコ軍の拠点の前でも行われた。

なお、9月16日にもムーリク市の監視所とイドリブ県サルマーン村にあるトルコ軍監視所(第7監視所)の前で同様の抗議デモが組織され、トルコ軍撤退が要求された(「ロシアとシリアはイドリブ県の反体制派支配地の奪還に乗り出そうとしているのか?」を参照)。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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