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シリアのイドリブ県に駐留するトルコ軍を狙った攻撃が続く一方、シリア軍とトルコ軍の砲撃もにわかに激化

青山弘之東京外国語大学 教授
Baladi News、2020年9月7日

トルコ軍兵士1人死亡

シリア北西部のイドリブ県では、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団などによると、9月6日にラタキア市とアレッポ市を結ぶM4高速道路沿線のアリーハー市近郊に位置するムウタリム村に設置されているトルコ軍拠点が正体不明の武装集団の襲撃を受け、トルコ軍兵士2人が負傷し、うち1人が死亡した。

同監視団によると、武装集団は午前2時15分頃、ヒュンダイ社のサンタフェに乗って拠点に接近し、トルコ軍に発砲したという。

負傷したトルコ軍兵士2人は、トルコ軍の装甲車が、バーブ・ハワー国境通行所を通って、トルコ本国に直ちに移送した。

トルコ国防省はその後、声明を出し、兵士1人が死亡したと発表した。

アリーハー市一帯は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍、Turkish-backed Free Syrian Army、TFSA)を主体とする「決戦」作戦司令室の支配下にある。

トルコ軍は、自らが後押しするこの「決戦」作戦司令室と、ロシアが支援するシリア軍の停戦を監視するとして、イドリブ県および周辺のアレッポ県、ラタキア県、ハマー県の各所に72の監視所や拠点を設置している。

M4高速道路は、3月5日にロシアとトルコが交わした停戦合意に基づき、両国の合同部隊がパトロールを実施、安全確保に努めている。だが、両軍を狙った攻撃が後を絶たない(「シリアで続くドローン戦争:ロシア、トルコ、米国、反体制派の乱戦」「シリアのイドリブ県で「ハッターブ・シーシャーニー大隊」を名乗るグループがロシア軍を襲撃」「シリアのイドリブ県でロシア・トルコ両軍を狙う新たな武装グループとは何者なのか?」を参照)。

事態に対処するため、両軍は9月1日と5日、M4高速道路沿線でのパトロール部隊に対する反体制武装集団の攻撃を想定した合同軍事演習を行っている。

今回の攻撃は、8月28日にジスル・シュグール市の南に位置するサッラト・ズフール村のトルコ軍拠点を襲撃したアンサール・アビー・バクル・スィッディーク中隊を名乗る武装集団によるものと思われるが、犯行声明は出ていない。

なお、トルコ軍は9月7日、アイン・ハムラー村近くのM4高速道路沿線に爆弾が仕掛けられているのを発見し、これを爆破した。

トルコ軍とシリア軍の砲撃

一方、「決戦」作戦司令室とシリア政府の支配地域が接するイドリブ県中部のザーウィヤ山地方では、双方による砲撃戦が続き、トルコ軍もこれに参戦した。

9月6日には、シリア軍が「決戦」作戦司令室の支配下にあるザーウィヤ山地方のスフーフン村、ファッティーラ村、バーラ村、カフル・ウワイド村、カンスフラ村、ルワイハ村を砲撃、同地一帯で「決戦」作戦司令室と交戦した。

これに対して、トルコ軍がシリア政府の支配下にあるカフルナブル市一帯、サラーキブ市を砲撃した。

シリア軍は9月7日になると、「決戦」作戦司令室の支配下にあるザーウィヤ山地方のクーフキーン村、ハルーバ村、バーラ村、スフーフン村、カフル・ウワイド村、フライフィル村、ファッティーラ村に加えて、M4高速道路沿線のアリーハー市を砲撃した。

この砲撃により、アリーハー市で2人が死亡、9人が負傷した。

これに対して、「決戦」作戦司令室もシリア政府の支配下にあるサラーキブ市近郊のダーディーフ村、カフルバッティーフ村一帯、カフルナブル市を砲撃した。

なお、一連の攻撃に関して、ロシア国防省は、9月6日と7日に6件の停戦違反を確認したと発表したが、トルコ側は、停戦違反は確認されなかったとしている。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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