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シリアのイドリブ県で「ハッターブ・シーシャーニー大隊」を名乗るグループがロシア軍を襲撃

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年8月25日

シリア北西部のイドリブ県で8月25日、トルコ軍と合同パトロールを行っていたロシア軍部隊が襲撃を受けた。

イドリブ県は、ロシア、トルコ、イランを保証国とする停戦プロセス(アスタナ会議)で、緊張緩和地帯に設定されている地域。

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)とトルコが後援する国民解放戦線(国民軍、Turkish-backed Free Syrian Army)が主導する「決戦」作戦司令室、新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構、中国新疆ウィグル自治区出身者によって構成されるトルキスタン・イスラーム党、チェチェン人戦闘員からなるジュヌード・シャームやコーカサスの兵などが活動を続けている。

同地では、今年2月にシリア軍、ロシア軍と、トルコ、「決戦」作戦司令室が激しく交戦し、シリア政府がアレッポ市とハマー市を結ぶM5高速道路沿線一帯を奪還した。戦闘は3月5日にロシアとトルコが停戦に合意することで収束した。

この停戦合意においては、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路の安全を確保することが決められ、ロシア軍とトルコ軍がサラーキブ市郊外のタルナバ村からラタキア県のアイン・フール村にいたる区間で合同パトロールを繰り返してきた。

だが、合同パトロール部隊を狙った攻撃が後を絶たず、8月17日には、アリーハー市とムサイビーン村を結ぶ区間で、車列にRPG弾が撃ち込まれ、トルコ軍装甲車1輌が被害を受けていた。

8月25日の攻撃も、ロシアとトルコ軍の合同パトロール部隊を狙ったもの。車列がアウラム・ジャウズ村近郊を通過した際、RPG弾による攻撃を受けた。

ロシア国防省などの発表によると、ロシア軍装甲車1輌が大破、兵士2人が負傷した。

この攻撃に関して、「ハッターブ・シーシャーニー大隊」を名乗るグループが犯行声明を出した。

ハッターブ・シーシャーニーとは、第1次チェチェン紛争(1994~1996年)に参加したサウジアラビア人ムジャーヒディーンの別名(本名はサーミル・サーミフ・アブドゥッラー、1969~2002年)。

チェチェン人ムジャーヒディーンのアブー・ウマル・シーシャーニー(本名タルハン・タユムラゾヴィッチ・バティラシヴィリ、1986~2016年)が率いていたムジャーヒディーン・ワ・アンサール軍の傘下で活動していたシリア人グループにハッターブ大隊という名の組織があったが、ハッターブ・シーシャーニー大隊はおそらくこれとは別組織で、実態は不明。

なお、このグループは7月14日のロシア・トルコ軍合同パトロールを狙った攻撃への関与も認めている(「シリアのイドリブ県でロシア軍を狙った爆発が発生、兵士3人負傷、ロシア・シリア軍は報復爆撃・砲撃を激化」を参照)。

Twitter(@Dalatrm)、2020年7月14日
Twitter(@Dalatrm)、2020年7月14日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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