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シリアのイドリブ県でロシア軍を狙った爆発が発生、兵士3人負傷、ロシア・シリア軍は報復爆撃・砲撃を激化

青山弘之東京外国語大学 教授
YouTube(RT Arabic、2020年7月14日)

ロシア軍兵士3人負傷

シリア北西部のイドリブ県で7月14日、ロシア軍部隊を狙った爆発が発生、兵士3人が負傷した。

爆発が起きたのは、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路沿線のムサイビーン村近く。

この日、ロシア軍とトルコ軍はM4高速道路で21回目となる合同パトロールを実施していた。イドリブ県アルナバ村からラタキア県北東部クルド山地方のアイン・フール村に至る全区間でのパトロールは今回が初めてだった。だが、アルナバ村を出発した部隊が、ムサイビーン村近くを通過しようとした際、大きな爆発が発生、これに巻き込まれた。

反体制系サイトのEldorarによると、爆発は道路脇に停車中の車に仕掛けられていた爆弾によるもの。

ラタキア県フマイミーム航空基地のシリア駐留ロシア軍司令部に設置されている当事者和解調整センターは声明を出し、ロシア軍部隊が「テロ集団」によって仕掛けられた爆弾の爆発に巻き込まれ、兵士3人が負傷したと発表した。

同センターによると、パトロールは中止され、被害を受けた装備の撤去が行われるとともに、負傷した兵士3人はフマイミーム航空基地に搬送されたという(Eldorarによると、3人はトルコ軍の装甲救急車によって近くの医療拠点に移送された)。

トルコ国防省も声明を出し、「「テロリスト」が合同パトロール部隊に対して爆弾を仕掛けた車で攻撃を加え、車輌2輌が被害を受けたが、死者は出なかった…。イドリブ県の合同パトロール部隊は必要な安全対策をとりつつ活動を継続する」と発表した。

イドリブ県を中心とするシリア北西部は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握っており、同組織とトルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍)を中心とする「決戦」作戦司令室が活動を続けている。また、新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構、トルキスタン・イスラーム党といった組織も活動している。

こうした反体制派は、ロシア・トルコ軍によるM4高速道路での合同パトロールをめぐって意見が分かれている。当初異議を唱えていたシャーム解放機構は最近になって、パトロールを認めるようになったが、これが一部幹部やメンバーの離反を招き、フッラース・ディーン機構の増長を招いている。

なお、今回の爆破にどの組織(に所属するメンバー)が関与していたかは不明。

ロシア・シリア軍の報復

ロシア・トルコ軍の合同パトロールが狙われたのを受けて、ロシア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山地方のスフーフン村、バイニーン村、バーラ村、ラタキア県クルド山地方のカッバーナ村一帯を23回にわたり爆撃した。

シリア軍も、ザーウィヤ山地方のカンスフラ村近郊でオートバイに乗った男女2人組を無人航空機(ドローン)で攻撃、2人を負傷させたほか、M4高速道路沿線に位置するアリーハー市を砲撃、子供1人を含む2人が死亡、少なくとも3人が負傷した。

シリア軍はこのほかにも、ザーウィヤ山地方のバーラ村、アイン・ラールーズ村、ファッティーラ村、カンスフラ村、カフル・ウワイド村、ハルーバ村、ハマー県ガーブ平原一帯に砲撃を加えた。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、爆撃・砲撃の激化を受けて、アリーハー市やザーウィヤ山の村々の一部の住民が避難を開始した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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