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シリア南部ダルアー県で元反体制派からなるシリア軍第5軍団兵士9人が爆殺…葬儀は反体制デモに発展

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年6月21日

第5軍団兵士が乗ったバスが爆破され、9人死亡

シリア南部のダルアー県では6月20日、県庁所在地であるダルアー市東のキヒール村の街道で、シリア軍第5軍団の兵士を乗せた大型バスの通過に合わせて、仕掛けられていた爆弾が爆発し、乗っていた兵士9人が死亡、19人が重軽傷を負った。

第5軍団は、2016年11月22日にシリア軍武装部隊総司令部が、既存の部隊、予備部隊(国防隊、人民諸委員会などのシリア人民兵)、同盟勢力(ロシア、イランなど)と連携して、シリア全土で治安と安定の回復を実現するために新設した部隊。

教練はシリア駐留ロシア軍が主導、シリア政府との和解に応じたダマスカス郊外県東グータ地方やダルアー県の反体制武装集団の戦闘員を中心に構成されている。

爆弾を仕掛けた実行犯は不明だが、ダルアー県では、正体不明の武装集団によるシリア軍、治安機関、住民を狙った襲撃事件が続いていた。

シリア人権監視団、2020年6月21日
シリア人権監視団、2020年6月21日

葬儀が抗議デモに発展

ダルアー県東部のブスラー・シャーム市では6月21日、バス爆破事件で死亡した兵士の葬儀が行われた。

だが、葬儀に参列した住民や第5軍団の兵士が、政府を批判するシュプレヒコールを連呼、会葬者の列はデモ行進と化した。

会葬者は数千人に及び、バッシャール・アサド政権退陣、体制打倒のほか、「イランの民兵」やレバノンのヒズブッラーの退去などを訴えた。

シリア国内で数千人規模の抗議行動が行われたのは、2018年にダルアー県がシリア政府の支配下に復帰して以降では今回が初めて。

なお、ブスラー・シャーム市では6月20日にも、住民数十人が同様のデモを行った。

シーザー・シリア市民保護法に抗議するデモ

一方、シリア東部のダイル・ザウル県では、シリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のダイル・ザウル市で、6月17日に発動された米国のシーザー・シリア市民保護法による一方的制裁に抗議するデモが行われ、多数の住民が参加した。

SANA、2020年6月21日
SANA、2020年6月21日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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