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シリア北西部イドリブ県の反体制派拠点に「イランの民兵」のドローンが「自爆攻撃」を実行

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年5月22日

「イランの民兵」によるドローン攻撃

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア・トルコ首脳会談で合意された停戦が発効(3月5日深夜)してから105日目となる6月18日、シリア・ロシア軍、トルコ軍の爆撃は確認されなかった。

だが、同監視団によると、「イランの民兵」の無人航空機(ドローン)がイドリブ県ザーウィヤ山地方のバーラ村近郊にある反体制武装集団の拠点複数カ所に対して、「自爆攻撃」を行った。

またこの「自爆攻撃」と合わせて、シリア軍もザーウィヤ山地方各所(フライフィル村、バーラ村、ルワイハ村、バイニーン村、ファッティーラ村、ハルーバ村)を砲撃した。

攻撃により死傷者はなかった。

「イランの民兵」とは、シリア政府側が「同盟部隊」(あるいは「同盟者部隊」)と呼ぶ勢力で、イラン・イスラーム革命防衛隊(そしてその精鋭部隊であるゴドス軍団)、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人の民兵組織ファーティミーユーン旅団、パキスタン人の民兵組織ザイナビーユーン旅団などを指す。「シーア派民兵」と称されることもある(詳細については拙稿「シリアの親政権民兵」『中東研究』第530号、2017年、pp. 22-44を参照)。

このなかのどの組織が今回のドローン攻撃を行ったのは不明。

また、ザーウィヤ山地方には、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構、トルコの後援を受ける国民解放戦線(国民軍)、新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構、アンサール・イスラーム集団、アンサール・ディーン戦線が活動している。

このうち、シャーム解放機構と国民解放戦線は「決戦」作戦司令室、フッラース・ディーン機構、アンサール・イスラーム集団、アンサール・ディーン戦線は「堅固に持せよ」作戦司令室をそれぞれ設置し共闘している。

今回のドローン攻撃で標的になった拠点がどの組織のものなのかは不明。

ロシア・トルコ軍の合同パトロール続く

一方、ロシア軍とトルコ軍は、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路で18回目となる合同パトロールを実施した。

合同パトロールはタルナバ村とジスル・シュグール市近郊までの全長約40キロの区間で実施された。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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