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シリア北西部でアル=カーイダが女性を動員してロシア軍に投石、活動家に直接暴行を加え、トルコ軍が介入

青山弘之東京外国語大学 教授
Enabbaladi、2020年6月10日

ロシア・トルコ軍によるM4高速道路での合同パトロール

シリア北西部では、ロシア軍とトルコ軍が6月10日、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路で合同パトロールを実施した。

合同パトロールは、3月5日に両国が交わした停戦合意に基づくもの。合意では、M4高速道路の南北にそれぞれ6キロの「安全回廊」を設置し、同道路の安全を確保すると取り決められている。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、この日の合同パトロールは、サラーキブ市近郊のタルナバ村とアリーハー市西のムハムバル村を結ぶ区間で実施された。

女性たちがロシア軍の装甲車に投石

しかし、ロシア・トルコ両軍の合同パトロール部隊が、アリーハー市近郊に架かるアリーハー橋にさしかかると、女性たち複数人がロシア軍の装甲車に向かって投石を行い、抗議の意思を示した。

反体制系サイトのZamanalwslによると、投石を行ったのは、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が動員し、メンバー1人が運転するワゴン車でアリーハー橋に連れてこられた女性たち。

この抗議行動に対して、アリーハー橋に展開していたトルコ軍部隊が介入し、女性たちとシャーム解放機構のメンバーを強制排除した。

シャーム解放機構戦闘員がメディア活動家に暴行

ロシア・トルコ両軍の合同パトロール部隊がアリーハー橋を通過した直後、今度は、現場で取材していたメディア活動家がシャーム解放機構メンバーの暴行を受け、機材を没収された。

反体制系サイトのEnabbaladiによると、アリーハー市の入り口に設置されているシャーム解放機構の検問所から戦闘員複数人がやって来て、暴行を加えたという。

シリア人権監視団や反体制系サイトのEldorarによると、暴行を受けたのは7人。一方、Zamanalwslによると、暴行を受けたのはジャーナリストとカメラマン合わせて12人だという。

女性を撮影しようとしたこと、つまりはシャーム解放機構が市民を動員して抗議行動を行っている事実を撮影しようとしたのが暴行の理由。

これに対して、アリーハー橋に展開していたトルコ軍が再び介入し、暴行を加えた戦闘員を排除した。

イドリブ市で活動家が抗議デモ

アリーハー橋での暴行事件を受けて、活動家たちは、イドリブ市内で抗議デモを行い、シャーム解放機構の行き過ぎた行為に異議を唱えた。

参加者は、「ジャーナリストは法律、慣習、宗教のすべてに守られている」、「報道の自由の制限に反対」、「真実の声に対する暴行を許さない」、「ジャーナリストと活動家は「解放区」の各所でシリア人の苦労と痛みを伝えている」などと書かれたプラカードを掲げ、シュプレヒコールを連呼し抗議の意思を示した。

Zamanalwsl、2020年6月10日
Zamanalwsl、2020年6月10日

なお、シリア国内の政府支配地域や北・東シリア自治局の支配地では、コロナ禍での物価高騰に伴う生活難や米国のカイザー・シリア市民保護法の発動(6月17日)に抗議するデモが行われている。だが、反体制派の「解放区」では、昨年6月にシリア軍との戦闘で死亡した「革命のサヨナキドリ」ことアブドゥルバースィト・サールートの追悼デモが行われるなど、「シリア革命」に固執する動きが目立つ(「コロナ禍とカイザー・シリア市民保護法発動を前にシリア各地で抗議デモ」を参照)。

シャーム革命機構が釈明

シリア解放機構はその後、広報局を通じて報道声明を出し、アリーハー橋の現場責任者らに直ちに連絡をとり、暴行事件についての捜査を実施、活動家に暴行を加えた複数名を逮捕し、軍事法廷に起訴したことを明らかにした。

また、事件そのものを強く非難、暴行が組織的なものではなく、個人のいざこざに端を発していたと釈明した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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