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トルコの支援を受ける自由シリア軍(TFSA)が略奪品の分配、密輸ルートの支配をめぐって抗争を激化

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

トルコの占領下にあるシリア北部のいわゆる「ユーフラテスの盾」地域、「オリーブの枝」地域、「平和の泉」地域で、「トルコの支援を受ける自由シリア軍」(Turkish-backed Free Syrian Army、TFSA)として知られる国民軍の内部抗争がにわかに激しさを増しているようである。

背景にあるのは、略奪品の分配や密輸ルートの支配をめぐる争いだ。

タッル・タムル町近郊での争い

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ハサカ県では5月14日、タッル・タムル町近郊のアフラーシュ村、サウダー村、ライラーン村などで、ラフマーン軍団、スルターン・ムラード師団、ムウタスィム旅団が交戦した。

略奪品の分配をめぐる戦闘がきっかけだったという。

バーブ・サラーマ国境通行所での争い

シリア人権監視団によると、トルコに面するアレッポ県北部のアアザーズ市北のバーブ・サラーマ国境通行所の近くで5月15日、シャーム戦線とファトフ旅団が交戦した。

バーブ市近郊での争い

シャーム戦線とハムザート師団はまた、5月16日にもバーブ市カッバースィーン村で交戦し、ハムザート師団の戦闘員1人が死亡したほか、女性1人と青年1人が巻き添えとなって死亡、民間人2人が負傷した。

シリア人権監視団によると、戦闘を受けて、シャーム戦線、ハムザート師団だけでなく、東部自由人連合や国民軍憲兵隊も、事態に対応するために部隊を派遣したという。

反体制系サイトのEldorarによると、戦闘は、政府支配下の大スッカリーヤ村にいたる密輸ルートの支配権をめぐるもの。

このルートはハムザート師団の管理下にあったが、シャーム戦線が街道を封鎖するなどしたために戦闘に発展したという。

アフリーン市近郊での争い

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、アフリーン市近郊のジャウラカーン村、ファキーラーン村で5月15日晩から16日未明にかけて、国民軍に所属する武装集団どうしが交戦した。

アティマ村近郊での争い

一方、北・東シリア自治局とシリア政府の共同統治下にあるアレッポ県北西のニスリーヤ村とシャーム解放機構(シリアのアル=カーイダ)の支配下にあるイドリブ県のアティマ村を結ぶ通行所一帯で5月17日、国民軍に所属する東部自由人連合と自由イドリブ軍が交戦した。

戦闘は密輸ルートとなっている通行所の管理権をめぐる対立がきっかけで、東部自由人連合はニスリーヤ村に近い街道上に検問所を設置し、自由イドリブ軍の動きを封じる一方、戦闘員複数人を拘束した。

東部自由人連合は、これまでにも街道で自由イドリブ軍の車輌を攻撃するなどして、密輸ルートの掌握を試み、麻薬を密輸するなどしてきたが、自由イドリブ軍はこれに抵抗してきたという。

東部自由人連合はまた、街道の通行を脅かすことで、通行料として1人あたり1,000ドルを要求するなどしていた。

なお、同通行所は、シャーム戦線がトルコの要請を受けて密輸の取り締まりを試みてきたが、成果をあげられなかったため、自由イドリブ軍にその管理が移管されていた。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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