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「認証不正」を行ったダイハツに今必要なのは、素人でもわかる丁寧な説明と、1日も早い生産再開だ!

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
(写真:ロイター/アフロ)

 認証試験に対する不正が発覚し、全車種の生産を停止していたダイハツ工業ですが、このほど5車種について法規適合性が国交省によって確認され、出荷停止が解除となりました。まずは再起に向けての第一歩を踏み出したということでしょう。

 この件に関して、僕が当初から感じていたのは、社会に与えた実害に対する批判の大きさがバランスを欠いている(批判が不当に大きい)ということです。

 一般のかたにとって「試験」に対して「不正」を行ったと聞けば「実力がないのに成績を誤魔化した」、スポーツで言えば「ドーピングした」というイメージを持つのは当然だと思います。実際、これまで他メーカーが行った不正のほとんどは、そういうものでした。

 しかし今回のダイハツによる不正は、そうしたものとは異なっています。詳しくは過去に書いたこちらの記事を参照いただきたいのですが、入学試験に例えて言えば「模試では合格点が取れていたが、本試験で不安になってカンニングペーパーを持ち込んだ」という類のもので、本試験に合格する実力がなかったわけではない=安全基準や環境基準を満たさないクルマを市場に出してしまったわけではないのです(※1)。

 ですから、過去に販売したクルマがユーザーを危険に晒したり、環境悪化を招いたりという実害はなかったし(※2)、現在、生産停止となっているクルマの生産を再開して販売しても、そうしたことは起こらないわけで、国交省によって法規適合が再確認されたものを生産停止している合理的な理由はないのです。(リコール検討案件もありますが、これも不正が原因というより、通常のリコール案件です)

「再発防止策を提示しろ」との声もありますが、事案の性質上、再発防止策が効果を発揮するのは開発途上にあるクルマで、すでに量産に移行しているクルマへの影響はありません。開発途上のクルマについては、開発を一旦凍結し、無理のない開発スケジュールを再構築したり、担当者に対する法規教育の徹底や、ダブルチェック体制の導入などを行うことで対策できますし、すでにそうした方向で動き出していることでしょう。

 ならばダイハツやトヨタがそうした丁寧な説明をすれば良いではないか、と思われるかもしれません。しかし、不正を行った当事者がそれを行っても、言い逃れや自己弁護と捉えられるのが関の山でしょう(実際、SNS等のコメント欄にはその傾向が見られます)。リスクコミュニケーションの点からも、謝罪や反省より自己弁護が目立ってしまうのは悪手ですから、やりにくいのは確かです。

 本来ならば、その任にある(専門的な情報を正しくわかりやすく伝える)のは僕たちジャーナリストであるはずなのですが、頭に”自動車”と付いているだけで「メーカーの禄を食んでいるから信頼できない」と捉えられがちで、いくら事実に立脚して客観的に説明しても、額面通りには捉えてもらえないもどかしさを感じています(禄は食んでおりません)。

 しかし、生産停止が長引けば、サプライヤー(下請け部品メーカー)の損失は大きくなりますし、工場従業員も仕事を失ったままになります。こうした損失はダイハツやトヨタが負担するようですが、ダイハツ全体で約8700名いる工場従業員が利用していた工場周辺の商店や飲食店の損失までカバーできるものではありません。こうした地域経済に対するマイナスと、不正が社会に与えた実害を秤にかければ、生産の再開は1日でも早いほうが良いのです(どういうペナルティを科すかは別の問題です)。

 今回の事案を担当しているトヨタの長田准執行役員は「国交省が『もういいよ』と言ったから(生産を再開して)いい、という話ではなく、(中略)ダイハツ車を買ってくださるお客様、注文してくださる販売店の皆様、部品を届けてくださるサプライヤーの皆様に『それなら作ってもいいよ』と言ってもらうのが第一」とのコメントを出しています。

 それには「素人でも理解できるような丁寧な説明」が必要である一方、ユーザーや関係者の皆さんも「不正したものが安全なはずはない」などという感情的な反発はひとまず抑え、客観的事実に耳を傾けていただきたいと思います。

※1:より正確なことを知りたいかたは、第三者委員会による調査報告書をお読みください。154ページに渡る長文であることと、専門用語が頻発するため理解するには相応の知識が必要ですが、アクセスは誰でも可能です。

※2:これによって低価格が実現していたとすれば、競争の公平さを毀損したという点で、ライバルメーカーには実害があります。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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