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太陽光100%で走るソーラーカーは実現できるか?

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
(写真:アフロ)

 CO2排出量ゼロを目標に、クルマの動力源を電動化する流れが世界的に加速しています。しかし、電気駆動車がCO2排出をゼロにできるのは、再生可能エネルギーによる電気を使用した場合のみです。ならばいっそのこと、太陽光パネルを高効率化して、クルマの屋根に搭載してしまえば、と考えたことのある人も、少なくないのではないかと思います。そこで今回は、その実現性について、考えてみたいと思います。

「太陽光だけでダイレクト駆動するクルマ」は実現できない!

 まず、太陽光のエネルギーはどれくらいあるのかを調べてみましょう。資源エネルギー庁の資料によると、地表に届く太陽光のエネルギーは、理想的な状態で1平方メートルあたり約1kW(1kW/m^2)とのことです。

 つぎに、クルマに装着できる太陽光パネルの面積を計算してみましょう。クルマのサイズを、全長4.7m×全幅1.8mとします。ボディの形状は、屋根の面積が大きく取れるワゴンタイプを想定します。クルマのボディは前後および上に向かって絞り込みが付けられていますし、フロントガラスに太陽光パネルは貼れませんから、使える面積は単純平面積の60%として計算すると、4.7×1.8×0.6≒5m^2となりました。すなわち太陽光パネルが取り付け可能な面積から得られるエネルギーは、最大で5kW(約6.8馬力)ということになります。

 しかも太陽光パネルの変換効率は、現状では約20%(結晶シリコン系の理論的限界は29%とされています)。ですから実際に得られる発電量は、1kW(約1.36馬力)にすぎません。これではクルマは走れませんね。

ソーラーカーにも二次電池の搭載は必須

 定性的に考えても、トンネルや日陰に入ったときにパワーが落ちては困りますし、夜間に使えないようでは実用にはなりません。となると、どうしても二次電池(充電して繰り返し使える電池)の搭載は必須です。実際、ソーラーカーレースに出場している車両にも、鉛電池やリチウムイオン電池が搭載されており、そこからの電力と、太陽光パネルから得られる電力、減速時に回生する電力を、いかにうまくマネージメントして走るかが、勝敗を左右する大きなポイントとなっています。

神奈川工科大学がソーラーカーレースに使用しているKAIT号。この車体の仕様なら、条件が良ければ太陽光のみでの走行が可能ですが、電流/電圧を安定化させる目的もあり、二次電池は必須です。(撮影筆者)
神奈川工科大学がソーラーカーレースに使用しているKAIT号。この車体の仕様なら、条件が良ければ太陽光のみでの走行が可能ですが、電流/電圧を安定化させる目的もあり、二次電池は必須です。(撮影筆者)

二次電池が必須なら、太陽光パネルを車載する意味は無い!?

 さて、二次電池の搭載が必須であり、太陽光から得られるエネルギーも理想状態で1kWしかないとなると、高いコストをかけて太陽光パネルを車載するより、純粋な電気自動車(EV)にして、充電した電気で走るようにしたほうが合理的に思えてきます。

 太陽光パネルは家庭の屋根を利用すれば、クルマよりはるかに広い面積で設置できます。一般家庭に設置できる太陽光パネルの平均出力は4.5kW程度とのことなので、フル出力が得られる時間を4時間とすると、18kWhの電力が得られます。電費が7km/kWhのEVなら126km走れますから、わざわざ自車の屋根に太陽光パネルを取り付けるのは不合理のように思えます。

 ところが、これは「日中は常にクルマが家にある」というのが前提です。たとえば通勤で使用する場合、業務時間中は会社の駐車場にあることになりますから、家庭に設置した太陽光パネルから充電することはできません(家庭に蓄電池を設置して溜めておくとか、グリッド内で融通し合って、クルマが家にある夜間に他所からもらってくるなどの運用方法も考えられますが、本稿ではそれは考慮しません)。

 一方で、車載した太陽光パネルから得られる電力が1kWに過ぎなかったとしても、有効な日照が4時間あれば、4kWhの電力が得られます。電費が7km/kWhのEVなら28km走れますから、通勤の片道分を賄える程度にはなる、という計算になります。

 問題は、これを多いと見るか、少ないと見るか、費用対効果が合理的なものなのかどうか、ということになりそうですが、たとえば1日あたりに得られる走行可能距離が半分の14kmだったとしても、365日なら5110kmになります。このレベルに達すれば、ユーザーによってはすべての走行を太陽光で賄うことができる可能性がありますから、「自車に搭載した太陽光パネルだけで走行可能なソーラーカー」が実現できたと言って良いのではないでしょうか。

トヨタはプリウスPHVを使用して実証実験を実施済み

 ちなみに、すでにトヨタがプリウスPHVで実用化しているソーラー充電システムでは、180Wの太陽光パネルで1日平均2.2km〜2.8km走行相当の電力が得られるとのこと(計算方法はリンク先を参照下さい)。さらにこれを進化させ、変換効率34%を達成したシャープ製の太陽光パネルをボディ上面いっぱいに配置し、発電量を約860Wにまで高めた試験車両の実証実験を、2019年7月から約半年をかけて行っています(実験結果は未公表のようです)。

 発電能力が約4.8倍ですから、1日で得られる平均走行可能距離は、約10.6〜13.4kmに達します。間を取って12.0kmだとすると、365日で4380km。ここまでくると、かなり魅力的な数字に思えてきますが、市販車として通用するコストまで下げられるかどうかがポイントとなりそうです。

プリウスPHVをベースにした実証実験車。これで860Wですから、屋根の大きなワゴンボディを使えば、1kWぐらいのソーラーパネルが載せられるのではないでしょうか。(トヨタ自動車)
プリウスPHVをベースにした実証実験車。これで860Wですから、屋根の大きなワゴンボディを使えば、1kWぐらいのソーラーパネルが載せられるのではないでしょうか。(トヨタ自動車)

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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