緩すぎても締めすぎてもNG! タイヤ交換の際に、ナットを正しいトルクで締めるにはどうすれば良いか?
夏タイヤから冬タイヤに履き替える際、または冬タイヤから夏タイヤに履き替える際、自分で交換を行っているユーザーも少なくないと思います。その際に気をつけて欲しいのが、ホイールナット(※)の締め付けトルクです。弱すぎると緩みの原因になりますし、強すぎてもボルトが伸びてしまい、折れたり緩んだりする原因になります。
※:輸入車ではボルトが主流ですが、本稿では便宜上”ナット”で統一します
まず締め付けトルクの適正値を確認!
ホイールナットの適性締め付けトルクには、設計想定値があります。国産の登録車の場合、10.5kg-m(103Nm)を基準に設計される場合が多いです。以前はたいてい取扱説明書に記載されていましたが、スペアタイヤが搭載されなくなってきた現在では、記載していないメーカーもありますので、ディーラーやお客様相談室で確認して下さい。
トルクレンチを使うのが理想的
さて、数値が確認できたとしても、その数値で締めることができなければ、意味がありません。そのために使用したいのが「トルクレンチ」という道具です。トルクレンチにもいろいろ種類がありますが、「プリセット型」がもっとも手軽です。締め付けたいトルクをあらかじめ(プリ)セットしておけば、あとはただ締めれば良いだけです。
注意したいのは、トルクレンチにも容量があるということ。狙いの締め付けトルクより容量の小さいものでは役に立ちませんから、締め付けたいトルクに見合った容量のものを手に入れて下さい。
また、トルクレンチ自体は「ただの棒」なので、これだけではナットは締められません。ナットと同じサイズのソケットも購入して下さい。トルクレンチにソケットをはめ込む部分にもサイズがあります。ホイールナット相当の大きさなら、9.5sqか12.7sqのどちらかのはずなので、ソケットを購入する際には、ナットの2面幅とトルクレンチの四角のサイズの両方を確認しておきましょう。
トルクレンチの価格は4,000円ぐらいから、上は2万円以上とピンキリですが、ホイールナットの精度レベルなら、あまり高価なものでなくても大丈夫です。
トルクレンチがない場合は?
夏冬タイヤの交換用にトルクレンチを手に入れたとしても、恐らくほとんどの人は、家に置いておくのではないかと思います。となると、出先でクルマがパンクした場合、交換したタイヤをどの程度の力で締めたら良いのか、戸惑うことになるでしょう。そうした場合に備えて「だいたいの感覚」を掴んでおけば安心です。
締め付けトルクの単位は、かつては「kg-m(キログラムメートル)」が使われていましたが、最近は「Nm(ニュートンメートル)」で表記されています。これらの意味するところは、「kg×m」または「N×m」です。
では、なぜ力と長さを掛けるのかを考えてみましょう。同じトルクで締め込む場合、できるだけ長い棒を使ったほうが小さな力で済むことは、経験的にわかるのではないかと思います。つまりトルクは、力をかけるところまでの距離に比例している、ということです。
たとえば「1Nm」は、「1メートルの棒の先に1Nの力をかけた場合に発生するトルク」ということになります。ということは、棒の長さが半分の場合、かける力は2倍にする必要がある、ということです。実際、車載工具のホイールナットレンチの長さは、1mもありませんよね? そこで、補正する計算を行います。
長さ20cmのホイールナットレンチで103Nmかけるには
車載されているホイールナットレンチの多くは、たいてい20cm少々の長さしかありません。僕のクルマのものは、約22cmでしたが、実際に手で力をかけるときには、先端を押すわけではありませんから、有効な長さは20cmになるかどうか、といったところです。20cmはメートルに直すと、0.2mですね。
つぎに、103Nmをkg-mに直しましょう。工業規格的には一般的になった「N」ですが、日常生活では「kg」のほうが馴染み深いですから。
こちらも簡単。1kgfは9.8Nなので、103を9.8で割れば良いのです。すると、約10.5kg-mになりました。ホイールナットレンチの長さが1mあれば、10.5kgの力をかければ良いということです。
ところが、ホイールナットレンチの長さは0.2m。1mの5分の1しかありません。そこで、かける力を5倍にします。すなわち、10.5×5=52.5kgとなります。
日本人の場合、成人女性の平均体重が53〜54kg、成人男性が68〜70kgですから、一般論としては、女性が手で締めるなら、ほぼ全体重をかけてしまってOK、男性なら足に2割ぐらい体重が残る程度で適正、というイメージです。
(体重をかけた際にレンチがすっぽ抜けると危険ですので、レンチがナットの奥まで入っているか、都度、確認して下さい。タイヤの浮いている状態では仮締めにとどめ、ジャッキを降ろしてタイヤを接地させてから、本締めを行って下さい)
体重多めのかたの場合、体重計を使って「どの程度、足に体重が残っていると適正な値になるか」というのを試してみて、感覚を掴んでおくと良いでしょう。
ちなみに設計上は、安全率を1.4〜1.5倍程度は見込みますので、多少、締めすぎるのは大丈夫です(とはいえ、レンチを足で蹴ったり、勢いを付けて飛び乗ったりしないようにして下さい)。