関東では梅雨も中盤を迎え、水害の起こりやすい季節になりました。近年は神出鬼没に現れる線状降水帯によって、どこでも豪雨災害が起こりうる状況になっていますが、あなたの水害対策は大丈夫でしょうか?

 避難所へ移動する際、クルマの使用を考えているかたもいるかと思いますが、すでに道路が冠水し始めている場合、クルマでの避難は逆にリスクを増す可能性があります。実際、2019年の台風19号によって発生した水害でも、亡くなったかたの約3分の1が、クルマで避難する際の事故だったということです。

乗用車なら、タイヤの3分の1が、安全に避難できるギリギリの水深!

 僕はかつて、自動車メーカーのSUV設計部門に勤務し、悪路走破性を左右するシャシー設計の仕事をしていました。悪路や冠水路走行の実験にも何度か立ち会っていますが、クルマが安全に走り続けられる水深は、それほど深くありません。

 一般ユーザーが普通のクルマで安全に走れる水深は、タイヤ直径の3分の1(乗用車で20cm、SUVで25cm程度)だと思って下さい。半分を超えると、エンジンが水を吸い込んで止まってしまうリスクが高まりますし、3分の2を越えるとドアの下のほうが水没し、クルマが浮き上がるリスクが出てきます。最初に浮くのは軽い後輪側ですが、後輪が浮いただけでも、流れがあれば風見鶏のように回転してしまい、思ったほうには進めなくなります。ほとんど流れのない内水面氾濫ならともかく、堤防決壊の場合は強い流れが襲いますから、「浮いた」と気付いてから流されるまでは、1分とかからないでしょう。

 特に、ガードレールが整備されていない道を避難する場合、冠水してしまうと、どこが道路か見分けが付かなくなり、脱輪するリスクが出てきます。脱輪した方向の水深は道路より深いですから、ドアが開かなくなって脱出が困難になります。窓を割るツールを持っていなければ、クルマと一緒に水没してしまうかも知れません。

 ですから避難所に至る経路にそういう場所がある場合、道路が冠水していたら、クルマで避難するのは避けたほうがよいでしょう(特に夜間は危険です)。

※:この動画の水深が、おおむね乗用車タイヤの直径の半分ですが、勢いよく突っ込んだクルマは自分の立てた波をエンジンに吸い込んでしまい、止まってしまっている一方、乗用車でも波が立たないように走ったクルマは徒渉できていることがわかります。

スズキ・ジムニーの取扱説明書から(傍線筆者)。国産車屈指の悪路走破性を持つジムニーでさえ、一般ユーザー向けには水深30cmを上限としています。ジムニーのタイヤ直径は約68cmですから半分弱です。
スズキ・ジムニーの取扱説明書から(傍線筆者)。国産車屈指の悪路走破性を持つジムニーでさえ、一般ユーザー向けには水深30cmを上限としています。ジムニーのタイヤ直径は約68cmですから半分弱です。

動画サイトの映像を鵜呑みにしてはいけない!

 動画サイトでは、ボンネットまで水に浸かるような場所を走行するクルマの映像を目にすることがありますが、エンジンの吸気口にシュノーケルを付けるなど、万全な徒渉対策を施したクルマを使用し、事前に水深を調べて走行できることを確認した上で走っている場合がほとんどです。同じクルマを所有していたとしても、ノーマル状態で同じことができるとは、考えるべきではありません。

 また、ボンネットまで水に浸かっているように見えても、よく観察すると、進入した勢いで水面が盛り上がっているだけで、実際の水深はタイヤの直径ぐらい、というケースがほとんどであることに気付くと思います。

フロントガラスの向かって左に、シュノーケルが付いているのが見えます。奥には道路が続いていますから、普段から徒渉に使用されている場所であることがわかります。
フロントガラスの向かって左に、シュノーケルが付いているのが見えます。奥には道路が続いていますから、普段から徒渉に使用されている場所であることがわかります。写真:アフロ

浸水が始まる前に、明るいうちに避難するのが理想的

 そうは言っても家が浸水してしまう、という場合、2階建て以上なら垂直避難(できるだけ上の階への避難)を考えましょう。というよりも、本来はそうなる前に、浸水想定域そのものから避難するべきなのですが。

 というわけで、自治体の発行しているハザードマップを参考に、お住まいの家から避難所までの経路をチェックしておき、どうなったら避難するか、どうなったらクルマでの避難は諦めるか、逃げ遅れた場合に助かる方法はあるかなど、事前にシミュレーションしておくことをお勧めします。

 ちなみに津波から避難する場合は、とにかくスピード勝負で少しでも高いところに移動する必要がありますから、クルマが有効に機能することもあります(東日本大震災でも実証済みです)。このあたりはお住まいの地域特性に合わせて、自分で考えましょう。自分で考える習慣を付けずに、マニュアル的情報ばかりを鵜呑みにしていると、本当に死にますよ。