雪と落ち葉をかき分けて探す国蝶オオムラサキの幼虫
国蝶オオムラサキは幼虫で越冬する。越冬場所は、エノキの根本の落ち葉の中だ。なので、幼虫を探すには、冬の森でエノキの落ち葉をかき分けなければならない。
初春の温かい日差しの中で探すのがお勧めなのだが、それでは「虫探しに命を懸ける昆虫記者」として絵にならない。そこであえて、雪が降るのを待った。
積もった雪を払いのけ、かじかんで赤くなった指でエノキの落ち葉をかき分ける昆虫記者。絵になるではないか。
「本当は手袋をした手で作業していたのではないか。暖かい日に採集した幼虫を、雪の上に置いて写真を撮ったのではないか」。そういった疑いが生じるのは覚悟の上である(実際手袋はしていたが、指先は手袋から出ていたので、すべてが嘘ではない)。
関東地方が大雪に見舞われた今年1月上旬。昆虫記者は白銀に輝く関東平野の人里離れた森(本当はバス停からすぐの人里近くの森)を突き進んだ。目指すは幼虫の食樹であるエノキの大木。エノキの大木の根本は、地上に張り出した太い根の間にくぼみができやすく、そこにたまった大落ち葉の中に、幼虫がもぐり込んでいる。
上に雪が積もっても、落ち葉の中は腐葉土の発酵熱とかで結構暖かいのかもしれない。そんな、ぬくぬく気分の幼虫たちを、落ち葉の中から探し出し、雪の上に並べて写真を撮った。
落ち葉に張り付いた状態で並べられた幼虫は、直接雪に触れはしないが、やはり寒いはずだ。「絵になる写真を撮りたい」という昆虫記者の勝手な事情は、オオムラサキの幼虫たちにとっては大迷惑だろうが、これも仕事なので仕方ないのである。
ここでふと思ったのは、日本の国蝶がオオムラサキだと知らない人がいたり、そもそもオオムラサキという蝶を知らない人がいたりするのではないかということだ。そんな、虫好きなら「ありえへん」ことが、善良な一般市民にとっては普通ということはよくある。そんな万が一の事態を考えて、一応オオムラサキ成虫の写真もアップしておこう。タテハチョウ科では最大級、胴体の太さではたぶん日本で最大の、美麗な蝶だ。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)