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美しさは罪。不法な持ち込み、放蝶を誘発するエレガントな外来種ホソオチョウ

天野和利時事通信社・昆虫記者
埼玉県で発生したホソオチョウ。雌は特に、近い種類のギフチョウ似ている

 外来昆虫の第5弾、ホソオチョウは最近日本に進出してきたきれいな蝶だ。後ろ羽の長い尾(尾状突起)は実にエレガント。貨物とかに紛れ込んで密航したわけではなく、きれいであるが故に違法に持ち込まれ、違法に拡散されたとみられている。いわば密輸だ。昆虫界でも美しさは罪なのである。

 朝鮮半島の南端まで生息していて、食草は在来の蝶「ジャコウアゲハ」と同じウマノスズクサなので、これまで日本にいなかったのが不思議なくらいだ。したがって、一度日本に持ち込まれたら簡単に繁殖する。

 外国のきれいな蝶を日本で見たい。そう思う人が結構いて、そういう人が韓国あたりから卵とか幼虫とかを日本に違法に持ち込み、近所のウマノスズクサ群生地に放したというストーリーらしい。こうした行為を「放蝶」と言う。

左の白っぽいのが雄、右の黒っぽいのが雌のホソオチョウ。この雌雄それぞれの美貌も魅力だ
左の白っぽいのが雄、右の黒っぽいのが雌のホソオチョウ。この雌雄それぞれの美貌も魅力だ

 ホソオチョウは飛翔力が弱いので、分布を広げるにはかなり時間がかかるはず。それなのに、日本各地で突然発生する。これもまた、ある発生地から別の場所への放蝶によるものらしい。

 ホソオチョウは、生態系被害防止外来種(以前の要注意外来生物)に指定されているから、放蝶はご法度。繁殖力が強いので、放っておくとジャコウアゲハの生息数が減るのではないかと懸念されており、発生地の多くでは駆除が行われている。

ホソオチョウの成虫は胴体にもきれいな模様が入っている
ホソオチョウの成虫は胴体にもきれいな模様が入っている

ホソオチョウの幼虫はちょっと不気味だ。
ホソオチョウの幼虫はちょっと不気味だ。

食草のウマノスズクサとホソオチョウ幼虫
食草のウマノスズクサとホソオチョウ幼虫

少数精鋭のジャコウアゲハと違ってホソオチョウは一か所に大量に産卵し、小さな幼虫が大量発生する 
少数精鋭のジャコウアゲハと違ってホソオチョウは一か所に大量に産卵し、小さな幼虫が大量発生する 

 しかし、きれいな上に、フワフワとした飛び方が哀れみを誘うので、駆除するのはかわいそうな気がしないでもない。虫好きとしては、どこか特定の地域だけで繁殖を許してあげて、他の地域へは絶対持ち込ませないとか、恩赦措置があったらいいのに、とか身勝手なことを思ってしまう。

 駆除する場合は、成虫を網で捕まえて殺すのは忍びないので、卵の段階で処分するとか、情けをかけてあげたいなとか、考えてしまう。これもまた、美しさ故の同情なのかもしれない。こうした情けがまた放蝶につながるなら問題だ。やはり美しさは罪なのだ。

ホソオチョウの夏型の雄
ホソオチョウの夏型の雄

ホソオチョウの夏型の雌。春夏型がある蝶はたいてい春型の方がきれいだ
ホソオチョウの夏型の雌。春夏型がある蝶はたいてい春型の方がきれいだ

ホソオチョウが群れ飛ぶ近くでウマノスズクサに産卵していたジャコウアゲハ。昆虫記者はこういうしっとりした蝶も好きだが、ホソオチョウと比べるとやはり地味だ。
ホソオチョウが群れ飛ぶ近くでウマノスズクサに産卵していたジャコウアゲハ。昆虫記者はこういうしっとりした蝶も好きだが、ホソオチョウと比べるとやはり地味だ。

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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