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フィンランドのサンナ・マリン元首相、警鐘鳴らす!

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ロシアと中国への依存関係を「リーダーは認識せよ」と語るマリン氏 筆者撮影

ノルウェーの首都オスロで開催されたノルウェー経営者連盟NHO主催のイベントに、元フィンランド首相のサンナ・マリン氏が招待されました。

現在、マリン氏はトニー・ブレア研究所の戦略顧問として活動しており、グローバル・リーダーシップと北欧・欧州の緊密な協力の重要性について述べました。

民主主義が機能しつつある一方で、新たな複雑な問題が浮上

現代、私たちは新たな複雑な問題に直面しており、パンデミックとロシアのウクライナ侵攻は、「自由貿易と平等な競争条件を基盤とする西側諸国」と、「民主主義と法の支配を受け入れない独裁政権国家」の価値観の違いを露わにした、とマリン氏は強調します。

パンデミックで思い知らされた現実、民主主義を重んじない国への依存

マリン氏「私たちの多くがパンデミックの日々を忘れたいと思っていても、フィンランド政府が対応を始めなければならなくなった瞬間を私は鮮明に覚えています」 筆者撮影
マリン氏「私たちの多くがパンデミックの日々を忘れたいと思っていても、フィンランド政府が対応を始めなければならなくなった瞬間を私は鮮明に覚えています」 筆者撮影

「パンデミックでの複雑な問題は、病院に重要な医療機器をどうやって入手すればよいか、ということでした。ワクチンや医薬品を作成し、大量生産し、全国民に配布するにはどうすればよいでしょうか?」

「これらの課題に対処することで、多くのリーダーは、重要素材の生産のほとんどすべてが、手の届かない国に委託されていることに気づきました。それに北欧と言う小国は、このような物資を最初に購入できる国ではありません」

そう話したマリン氏は、今後の重要な課題として以下の3点を挙げました

  1. ウクライナ侵攻がロシアの勝利で終わらないようにする
  2. 重要なインフラの再構築と戦略的自律性の確立
  3. 西側の民主主義の強化と核心的価値観の支持

ウクライナの勝利が西側諸国の安定の鍵につながる

さらにロシアのウクライナ侵攻はヨーロッパの脆弱性を露わにし、「各国のウクライナ支援は不十分で遅い」とマリン氏は心配しています。

「ロシアは欧州の安全保障体制の重要な原則と約束の一部を破り、放棄しました。これは戦争が終わっても私たちが直面するであろう現実です」

「私たちは十分な支援、軍事支援を提供しておらず、十分なスピードで支援を提供できなかったために、多くの人が亡くなり、ウクライナが勝利する機会を逃してしまいました。私たちは目を覚まさなければいけません」

世界のリーダーたちは、ロシアに対する理解を更新せよ

マリン氏「私たちが過去に犯した過ちを避けるためには、ロシアについての理解を更新する必要があります」

「共通のルールに基づく自由貿易によって、国民の経済的繁栄を実現できる」と世界のリーダーたちはこれまで考えてきた。

「リーダーがこの倫理に反する行動をすることはないだろう」「経済的に戦争を始めるには意味がない、という考えは誰にしもあるだろう」。そうナイーブに信じてきた。

「でも、違った」というのがサンナ氏の得た教訓でした。

マリン氏「プーチン政権が喪失し、ウクライナが勝利すること。これこそが欧州の安定の回復につながる鍵です」 筆者撮影
マリン氏「プーチン政権が喪失し、ウクライナが勝利すること。これこそが欧州の安定の回復につながる鍵です」 筆者撮影

ロシアや中国には独自の理論がある

マリン氏は、ロシアや中国が独自の権力論理に従っており、これに対処するには現実を直視し、食糧生産やエネルギーなどの戦略的な分野での自律性を確保する必要があると訴えました。

「ロシアが独自の権力の論理に従っており、私たちの経済成長の論理よりも尊重しているという事実を受け入れる必要があります」

「ロシアや中国は、民主主義諸国と同じ一連のルールに従って行動していません。投資して資金を投じる場合は、リスクが伴うことも想定しておく必要があり、リスクが何なのか、中国に投資する場合に何が起こるかを知る必要があります」

政府は重要な依存関係を認識すべし

そこでマリン氏は、食糧生産、エネルギー、重要な鉱物、半導体やマイクロチップなどの部品、デジタルシステム、決済や通貨のインフラ、安全なネットワーク、その他多くのものにおいて戦略的自律性を持つ必要があると考えています。

「既存の貿易ルートを遮断したりすることは現実的ではなく、望ましいことではありません。ですが、社会の基本的な必需品に関しては、民主主義的価値観を持つ国々に依存できなければなりません」

「他国からの医薬品や医療機器に依存しすぎており、自分たちにはその能力がない」。それはフィンランドのマリン政権にとってショックな現実だった。

現実から目を背けずに、考え方を更新して、学ぶ

半導体工場の建設や他国からの依存を減らすための努力が今こそ求められていると述べるマリン氏 筆者撮影
半導体工場の建設や他国からの依存を減らすための努力が今こそ求められていると述べるマリン氏 筆者撮影

最後に、マリン氏は「現実から逃れず、困難から学ぶことが重要だ」とし、自らを「楽観主義者」として位置づけました。

「緊迫した地政学的状況は現在、私たちにビジネスの安定と繁栄を促進する方法を改善する機会を与えています。私は楽観主義者です。もし私たちが目覚めて、今日の世界が醜いものであることを見つめ、見たい色だけでなく、全てを見れば、私たちも変わることができます」

「今ある現実から直面するのを避けても、何もよくはならない。直面している危機や状況から学ぶ必要があるのです」

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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