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グリーン・コロニアリズム時代に先住民ヘイトが増加する懸念

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
トナカイ放牧地と風力発電所を巡って抗議するサーミ人 筆者撮影

フェイスブックにおけるサーミ人に関する発言は、4件に1件が否定的。

アムネスティ・インターナショナル・ノルウェーは、サーミの人々の表現風土に関する調査結果を発表した。

ノルウェーのサーミ人は、もともと長い抑圧と差別の歴史を持っている。今はサーミ人は先住民族として認められ、少数民族の保護と差別への対抗を目的とした権利を与えられているが、ノルウェーではサーミ人についてほとんど知らない人が多く、無知が否定的な態度やヘイトスピーチにつながっている。

「自分が属する集団について常に否定的な発言をされると、孤立感や劣等感を抱くことになります。ネットいじめを受けた人は、恐怖を感じたり、眠りが浅くなったり、議論に参加することに神経質になったりします。したがって、ネットいじめはマイノリティの表現の自由を脅かします」とする同団体は、「マイノリティに対する差別を永続させる可能性もある」と警告を鳴らしている。

先住民の権利と対立するケースが今後増える懸念

特に、トナカイ放牧地でもあるフォーセン地域に建設した風力発電所の一件以来、サーミ人に対して否定的なコメントが増加していると指摘。

「サーミの権利がエネルギー生産、鉱物採掘、インフラストラクチャーと対立するケースが今後も増えることが予想される、憂慮すべきことだ」「議論されている対象が『脆弱な少数派』である認識も欠けている」と指摘されている。

調査内容

  • 回答者のかなりの割合が、サーミ人について「気分を害しやすい」「特別な権利を持ちすぎている」など、古典的な否定的ステレオタイプを抱いている
  • 全国で15%以上、ノルウェー北部に住む人の30%以上が、サーミ人に向けられたヘイトスピーチや扇動を目撃したことがある
  • 多くのサーミの若者は、攻撃的なコメントを経験する可能性のある議論に参加したり、SNS上で他人が攻撃的なコメントを受けているのを見たりするのをやめた
  • サーミ人に対する否定的な態度やステレオタイプをしようと考えたとき、フェイスブックは自然な投稿先となる
  • フェイスブックでのサーミのテーマに関する議論は、否定的な態度とステレオタイプな表現によって特徴づけられている
  • メディアや政治家のフェイスブックでサーミのトピックを取り上げると、コメント欄の4件に1件が否定的な態度やステレオタイプな描写を含む
  • サーミのトピックがフェイスブックで議論された場合、否定的な態度やステレオタイプな描写の割合は三分の一を占める
  • フォーセン地域に関する記事をメディアが投稿すると、否定的な意見がコメント欄に増加する。否定的な態度やステレオタイプを伝えるコメントの割合は、2023年上半期にほぼ10%増加
  • サーミに否定的な政党「進歩党」がフェイスブックにサーミに関連する投稿をした場合、他政党に比べて最も多くの否定的な意見がコメント欄に集まる

サーミ人に対する最も一般的な否定的態度

  • 「サーミの人々は進歩や近代的発展の障害である」
  • 「サーミ人は先住民とは言えない」
  • 「サーミ人には特別な権利、プログラム、恩恵が多すぎる」
  • 「サーミ人は気分を害しやすい」
  • 「サーミ人はコミュニティへの貢献が少ない」

コメント欄に投稿されるヘイトスピーチ一例

  • 「ノルウェーにはエネルギーが必要で、サーミ人は必要ではない。追い出そう」
  • 「何にも貢献していないサーミ人に社会は多額のお金を支払っている。サーミ人は消してしまったほうがいい」
  • 「ノルウェーに必要ではない3つの『S』。サーミ人(Samer)、ソマリア人(somaliere)、ロマ民族(Sigøynere)」

アムネスティが提案する解決策

  • 警察はネット上でヘイトクライムの可能性を経験した人々をフォローアップするための十分なリソースを持つ必要があり、先住民族やその他のマイノリティの状況に関する専門知識を持つ必要がある
  • ネット上で言語攻撃を受ける人々と、モデレートされる人々の両方に対して、プラットフォームはより責任を持ち、適切なモデレーションを保証しなければならない
  • サーミの生活と権利に関する知識を広める必要がある。政治指導者には、サーミの人々が差別されない権利、暴力や嫌がらせから保護される権利について明確にする責任がある

実際、日常的にサーミの人々はヘイトスピーチを浴びながらノルウェーで生活をしている。

国会前にサーミ人の若者が集まっている時のことだ。白人男性が近寄ってきて、「お前たちは頭がいかれているんだろう」と暴言を浴びせ続ける現場を目撃して、筆者もショックを受けた。支配された歴史を背負いつつ、自分の国でヘイト対象として暮らすことはどれだけ辛いだろう。若いサーミ人たちの抗議活動を連日取材したが、いかに勇気のいる行動だったのかを改めて思い知る。

ノルウェー公共局の記事は、サーミ人に対する偏見やヘイトスピーチは「かつての同化政策の遺産」とも指摘されている。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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