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北欧Z世代がCEOになると社内の働き方は変わるか リーダーになって感じる課題と可能性

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
デンマークZ世代経営者、イーダさん、ハサンさん、カールさん 筆者撮影

起業したZ世代がリーダーの役割を担うようになると、社内の働き方やコミュニケーションは変わるだろうか?デンマークのイノベーションとスタートアップの祭典TechBBQでは、デンマークの当事者が「Z世代の起業リーダーシップ」について赤裸々に語った。

ハサンさん(Hasan El Youssef)はTopTutorsの共同設立者兼CEO。400人の家庭教師を抱えるスタートアップを引き入り、デジタル・ファーストのアプローチで学生の学習方法を再定義している。

イーダさん(Ida Johansson)は独学でプログラマを学んだ21歳の女性だ。Z世代の候補者を採用するための採用AIリクルート・ソフトウェアHyredの創業者兼CEOである。今年6月、彼女は会社をアメリカ企業に売却し、現在はストックホルムに拠点を置いている。彼女の雇用の特長は「自分よりも年齢層が高いシニア層を雇う」ことだ。「大切なリーダーシップ要素は『謙虚であること』だと思う。スタートアップの旅は、大きな学びのプロセスでした。若さゆえの旅では、年上の人から多くのことを学ぶこともできます」

カールさん(Carl Kronika)はCOPUSの共同設立者であり、戦略、人材、営業、運営に携わってっている。若い世代の権利と利益を代表する1000人のメンバーを擁する、急速に成長し、最も影響力のある政治ニュース組織のひとつであるサガの共同創設者でもある。

従業員との境界線を保つ必要性

Z世代の彼らは、同世代と年上の従業員を雇ううえで「友人」と「雇用関係」の「境界線」を常に意識して調整する必要があると話した。

イーダさん「みなさんが同意できるかどうかわかりませんが、Z世代の雇用主は、『とても甘やかされた子どもたち』だとも感じています。私たちは携帯電話を手にして育ちました。ありとあらゆるものが手に入り、基本的に1日でオンラインビジネスを立ち上げるためのツールがすべて揃っています。Z世代従業員はZ世代雇用主に多くのことを期待しているので、境界線を設定することが不可欠です」

ハサンさん「私たちは従業員を巻き込み、文化を創造することに長けていますが、『境界線を設定し、問題が発生したときに解決する』ことが苦手です。ですから、2つの世代のスキルをミックスすることができれば、私たちはとても良い結果を得ることができるでしょうね」

カールさん「最初は少し年上の社員を中心に雇っていましたが、今は30代前半の社員もいます。リーダーとして、『友人』『リーダー』なのかの境界線を設定し、信頼を得て、会社を正しい方向に導くことを区別する必要がありました。家族のようなものでありながら、時折厳しい会話をすることもあります」

ハサンさん「『友情』と『プロフェッショナリズム』のバランスを取るのが難しいですね。若くて才能のある人たちをたくさん雇うという経済状況では、『共通の趣味を持つ若い人たち』と小さなチームで仕事をするようなことになる。『仲間に入れてもらっている』と誰もが感じます。従業員と『少し仲良くなりすぎてしまう』という課題が起きがちです。Z世代は、境界線を踏み越えることを『心地よく感じすぎる』かもしれません。従業員が実際に境界線を踏み越え、行動を改めなければならなくなった時に注意を受けても、経営陣からの『命令や意見』というよりも、『友好的なアドバイス』と感じてしまうかもしれません。ですから、私たちは従業員に対して非常に明確な境界線を設定しました。従業員が境界線を踏み越えたときには伝え、行動を改めなかった場合の結果を伝えます」

「例えば、他の若者と一緒に仕事をしていていると、時には冗談を言ったり、からかったりすることもあるでしょう。それは全く問題ないのですが、『踏み越えてはいけない境界線』もあります。『やりすぎだ』と感じたら、そう言わなければいけません。『職場で一定のレベルを保つためには、一定のトーンが必要なんです』とも伝える必要がでてきます。もしZ世代上司がZ世代従業員とあまりに仲良くなってしまったら、従業員は本来の仕事をしなくても『逃げられる』と思ってしまうかもしれないからです」

カールさん「リーダーとして、やる気を起こさせたり、成長し続けたり、何でもできるようにするだけでなく、境界線を設定し、何を優先すべきかをもう少し明確にする必要がでてきます。厳しい決断をしなければならない時期が時にはあり、リーダーとして『従業員とのコミュニケーション・スタイルを変えなければならない旅』では多くのことを学んでいます」

Z世代リーダーだから変えられる企業文化

カールさん「企業文化は超重要で、チーム全員が幸せであることを大切にしています」

カールさん「最初のチームを編成するときに学んだことで、それがどのように発展してきたかというと、『個々の多様性』を見ることでした。『自分のクローンのようなチームを作らない』『同じような行動をとらない』というスキル抽出の練習が必要となります。従業員の顔触れは、『より批判的な人たち』『何かを始めるよりも終わらせるのが得意な人たち』というようなミックスされた環境にします」

イーダさん「私たちの世代は、最新のテクノロジーを駆使して、より効果的に仕事をすることに長けていると思います。『最高のリーダー』とは言えないかもしれないけれど、テクノロジーが使えるようになっただけで、前の時代よりも効率的に仕事をすることはできます」

従業員に任せて「自由」を与え過ぎた反省

ハサンさん「私は従業員に自由を与えすぎていました。考えてみれば、自由を与えるということは、とてもいいことだと思う。いい響きですね。私が最初の従業員を雇ったときもそう思っていました。でも、後になってわかったのは、ほとんどの人は実はもっと構造的なものが好きで、『あまりに自由すぎると少し迷ってしまう』ということでした。そのため、私たちは従業員にプロジェクトを任せる際には、より多くの構造と目標を定義するようになりました。また私はリーダーとして、最初の頃の受け身な姿勢よりもずっと積極的になったと感じています。そのほうが何か問題があったときにすぐに把握し、解決することができます」

Z世代がリーダーになって驚いたこと

イーダさん「私は一人で会社を立ち上げた創業者なので、人を雇い始めた当初は、もっと多くの時間を得られると思っていました。それは大きな誤解でした。人を雇い始めると、人の管理にも時間がかかるため、1週間の労働時間が減ってしまったのです。だから私にとっては、『自分自身を管理する方法を知っていて、自分で率先できる人』を雇うことが不可欠でした。つまり私よりも年上の人です。なぜなら、私は現場の製品開発に積極的に関わりたいので、従業員を管理する時間がなかったからです」

リーダーシップを発揮する上で、もっと早い段階で得ておきたかったアドバイス

カールさん「たくさんの人にアドバイスを求めることはとてもいいことだと思うし、多くの人が手を差し伸べてくれるでしょう。でも時には『自分の意見に同意する』ことも学ぶべきだと思います」

ハサンさん「待っていたり、いい人になろうとしたりするのではなく、従業員ともっと率直にすぐに厳しい話をすることですね。問題を見つけたら即座に解決すること」

イーダさん「『何もしないよりは、何かしたほうがいい』です。もしあなたがビジネスを始めようと思っているなら、とにかくどこかから始めればいい。テック業界やスタートアップ企業は、かつてないほどのスピードで進んでおり、私たちも超高速で実行しなければならないからです」

北欧ではリーダーになったZ世代が今感じていることは、まだまだ共有されていない。だからこそ、「従業員と境界線をひくことが苦手」ということに多くの時間が割かれ意見交換が起きていたことは筆者には驚きでもあった。北欧諸国の中でもデンマークの人は「驚くほどストレートに考えを口にする国民性」があるが、デンマークのZ世代でもこれほど意識するとなると、スウェーデンなどではさらに境界線の悩みは深いのかもしれない。いずれにせよ、Z世代のリーダーが増えた時の社会の変化は楽しみではある。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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