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霊媒師の女性に対する思想は「危険」黒人差別をめぐり波紋が広がる

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
2020年、ロンドンのテレビ取材を受けるデュレク・ベレット氏(写真:REX/アフロ)

ノルウェーのマッタ・ルイーセ王女と婚約を発表したばかりのシャーマン(霊媒師)が職業のデュレク・ベレット氏。

これまでも何度もノルウェーのメディアと対立してきたデュレク氏だが、早速ノルウェーで騒動が大きくなっている。

話題は「結婚に賛成か・反対か」ではない。

ノルウェーの人は王室メンバーが自由な恋愛をすることを尊重している。

問題となっているのは、婚約者の頭の中がどうなっているのか、理解不可能だからだ。

自分とプリンセスとの交際に批判が来るのは、「ノルウェーでの黒人差別が根深いから」と先日インスタグラムの動画配信で語った2人。

これに対して、ノルウェーでは「は?」という反応が広がっている。

2人が恋人同士だった頃は、国会議員らは「恋愛は自由」と見守っており、あまりコメントをしてこなかった。

だが婚約して、ロイヤルファミリーの一員となると、これからの霊媒師に対する目線は全く異なる。

すでに元首相など、複数の政治家が「黒人差別ではなく、彼の言動がおかしいからだ」「もうちょっと批判に耐えられる人になりなさい」と反論。

野党・自由党の副党首でもあるアビド・ラジャ国会議員は、かつて文化・ジェンダー平等大臣だった。

両親はパキスタン出身という背景もあり、ノルウェーでの宗教、差別、ムスリム、移民問題などで自身の体験も踏まえて現地での議論に参加してきた。

ラジャ国会議員は、デュレク氏が「人種差別カード」を引き出してきたことを好ましく思っていない。

ノルウェーではテロ被害者や差別などの体験がある人が、そのテーマの議論に参加する際に「〇〇のカードを出してきた」と言われることがある。

当事者の言葉は重いが、時と場合に配慮しなければ、「そのカードを議論のテーブルで出されると、議論がしにくい」ことも発生する。

違いますよ、デュレクさん。ノルウェーの大多数の人々は、あなたが黒人だから反論しているのではありません。

私たちはヘイト、人種ヘイト、自由な恋愛ヘイトに対しては距離を置かなければいけません。

しかし、デュレク氏が「私は黒人・だから・カード」、「人種カード」を使い始めるとしたら、私たちは声をあげなければいけません。

彼はもちろん差別は受けてきたのでしょう。しかし、もし彼が、ノルウェー市民が彼を理解するのに苦労している理由が、「肌の色が原因だから」と考えているとしたら根本的に間違っています

アビド・ラジャ国会議員(本人のFacebook投稿VG

ラジャ国会議員は、デュレク氏が「多くのパートナーとセックスした女性にはヴァギナに痕跡があり、私はそれを治療できる」と発言したことに、強い不快感を覚えている。

デュレク氏の女性に対する発言を読んだとき、激しい鳥肌がたちました。

このような発言は私だけではなく、平等の国で生きる多くの人に大きな怒りを覚えさせます。

爬虫類と星座が混合してできた人間であるという発言をする人に対して、市民が距離を置こうとするのは当たり前です。

私自身も肌の色は茶色です。差別を受けたこともあります。

差別は私たちが闘うべきものです。

でもデュレク氏の言うことは、社会的にも、医療的にも、ジェンダー平等においても危険なものです。

アビド・ラジャ国会議員(本人のFacebook投稿

ノルウェーで騒ぎが大きくなっていることは本人も承知だ。

私の見解がノルウェーの人々にとって、煩わしいものであることは理解できます。

しかし、そういう言い方をすることで、ノルウェーにある差別を無視すること事態が、本当の問題が何かを示しています。

デュレク・ベレット 本人のインスタグラム

ベレット氏はノルウェーのメディアには直接コメントしないほうだが、今回はVG紙にも返事をしていた。

ノルウェーの人々は私を厄介だと思っています。私のことが理解できないから。

私の言っていることが理解できないから。

私の肌の色が原因で、人々は私に電話し、攻撃し、批判をしてくるのです。

ノルウェーに来るまで、これほど多くの差別を経験したことはかつてありません。

人々は新しい考え方に耳を傾ける準備ができていないのです。

アルベルト・アインシュタイン、トーマス・エジソン、ライト兄弟、ヘレン・ケラーという天才たちに対しても、そうであったように。

「この国に差別はない」と考える人はノルウェーにはまずいないだろう。

だがベレット氏は、驚くほどに、問題点の分類、批判と差別の区別をすることができないようだ。

恋人から婚約者になったことで、今まで黙っていた政治家もコメントし始めたことは、これまでとの大きな違いだ。

彼の奇妙な言動を本格的に危険視する声は増え続けるだろう。

ベレット氏とプリンセスはこれからも何らかの発言を続けるだろうし、騒動が沈静化することは当分なさそうだ。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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