北欧のカルト教団と若者の葛藤 ノルウェー映画『ディスコ』

シーヴェシェン監督(左)と主人公演じるペターセン(右)(写真:アフロ)

北欧映画では、実在する社会問題が題材となることが多い。若者の現代ならではの悩みや葛藤、家族のすれ違いを描く作品は珍しくない。その中で、ノルウェー映画『ディスコ』(Disco)は、宗教の信仰とカルト教団という珍しい要素を取り入れた。

あらすじ

19 歳のミリアムは、連勝していたフリースタイル・ディスコダンスの大会中、パニック障害のため倒れてしまう。ある教団のカリスマ指導者である義理の父親は、心の弱さが原因だと諭してより深い信仰を彼女に強いるが……病気と教えのはざまで苦しむ少女の姿を通じて、現代ノルウェーの新興宗教の実態に迫った野心作。

出典:トーキョー ノーザンライツ フェスティバル 2020 公式HPプログラムより

この映画がノルウェー現地でまず注目される理由は、主人公ミリアムを演じるのが女優ヨセフィン・フリーダ・ペターセンだからだろう。

ドラマ『スカム』ノーラではない主人公

公共局NRKが放送した大人気ドラマ『SKAM』(スカム)のシリーズ2で、主人公のノーラを演じた。『スカム』はテレビ界の常識を打ち破るSNSを駆使した作り方に加えて、原題の若者の心情を上手に描き出しているとして、国際的な大ヒットを迎えた作品だ。

女優ペターセンの顔写真を見た瞬間、「ノーラだ!」と心が沸き立つ人も多いだろう。

私自身も『スカム』は大好きで、日本のNHKがスカム特集で取材に訪れた際にはコーディネーターとしてお手伝いさせてもらった。そんな、ノーラのイメージが強烈に残る彼女が、これからの作品で女優としてどう成長していくのかは、現地でも注目を集めている。

私が首都オスロの映画館で本作を見に行った時には、観客は若い女性の姿が多かった。ノーラ効果も少なからずあるだろう。

さて、実際の彼女の演技だが、ノーラとは対照的に、ペターセンの女優としての実力がさらに開花していた。

結婚してハッピーエンドではない、家族関係

主人公のミリアムには母親と妹がおり、妹のことをかわいがっている。義理の父親との関係はうまくいっておらず、顔も知らない実の父との関係を含めて、彼女のメンタルヘルスが悪化している原因であることは明らか。

ノルウェーでは、離婚がもはや当たり前のような国だ。統計局SSBによると、2018年には2万949組が結婚、離婚は9545組。前年度と比較して、結婚を選ぶカップル数は1150組減少している。

そもそも籍を入れずに、同棲して、子どもがうまれ、両親は別れを選び、子どもは両親の家を行き来する生活となり、両親に第二・第三の家族ができる、という流れも当たり前だ。

映画のミリアムのように、義理の父親と不協和音なんていうのも、よくある光景といえる。

新興宗教の実態に迫る、珍しい角度で作られた映画

だが、この映画を個性的にしているのは、家族揃っての宗教の信仰とカルト教団だろう。

ノルウェーには実在する有名なキリスト教団体とテレビ局がある。かつて、公共局NRKはこの団体を取材し、有名なドキュメンタリー番組で、主催者がどのような手段で金儲けをしているか、団体の怪しさを暴露した。公共局はこの団体に対し、今も批判的な報道を続けている。

映画には、この団体を連想させるシーンがいくつもある。新興宗教団体は信者を救う理想を説く一方、救われるための金銭的な「費用」を求める。実在する新興宗教団体の問題点を、本作はさまざまな手法で指摘している。

理想を求める一方、体と心は悲鳴をあげる

ディスコダンスのチャンピオンであるミリアムは、ストレスからパフォーマンス中に倒れ、パニック発作を発症し、大会の競技で踊ることが困難になる。

宗教団体を主催する両親は、信仰が足りないからだとも指摘するが、団体の看板であるミリアムはその価値観に疑いを持ち始める。そうして、彼女は異なる宗派に救いを求め始める。

完璧であることを自分も周囲も求め、壊れていく若者。本作では、家族、若者の悩み、宗教など、観る者によって気になるテーマは異なってくるだろう。

北欧社会の片隅で実在する宗派と信仰という社会の課題は、日本ではニュースとなって伝えられることはまずない。どういう部分が本当なのか、日本でも共通することはあるか、映画を通して考えながらみてみると、新たな発見があるかもしれない。

本作は2月8日から14日に渋谷で開催される北欧映画祭「トーキョー ノーザンライツ フェスティバル 2020」で上映予定。

Text: Asaki Abumi