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「安い服を買いすぎ」、「洗濯でプラスチック発生」環境問題とファッション

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
北欧ノルウェーで議論されるエシカルファッション(写真:アフロ)

北欧ノルウェーの首都オスロは、国連が指定する「欧州緑の首都」2019年に選ばれました。

環境と気候の課題を、市民みんなで考える催しは、1年を通して開催されています。

若者たちは、特にエシカル・ファッションへの関心が高い傾向があります。19日、「地方青年」団体が主催となって、このテーマについて考える企画が開催されました。

つくる責任・つかう責任

「責任ある生産と消費」は、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までの国際目標SDGsのひとつです。

サステイナブルな未来を考える時、ファッション業界は特に批判されやすい傾向にあります。

  • 服で外見美を求める流れは、メディアの影響や他者との比較で自信を失いやすい若者のメンタルヘルスを悪化させている
  • 消費社会は、気候変動を悪化させる排出量を増加させる
  • 安い価格のファストファッションが、短い期間しか使えない低品質な服を増やし、市民はより多くの服を買うことになる
  • アジアなどにある工場で働く労働者に適正な価格が払われているのか?服の製造過程が環境破壊につながっていないか?情報を透明化したがらない企業

ファッションには特に課題が多く、市民にも罪悪感を抱かせているとされています。

日本と比べると、北欧のメディアはファッション業界のシステムを批判する傾向が強めです。

それでも、イベントで講演をしたノルウェーの専門家たちは、記者たちからの質問は、「服に付いたケチャップの落とし方」、「民族衣装の洗い方」など、まだまだ「つまらない」ものが多いと不満をもらします。

ノルウェーで最大級の環境と暮らし団体のひとつである「私たちの手の中にある未来」からは、テキスタイルの専門家としてカリン・レフレルさんが話をしました。

この団体は、数年前にノルウェーとスウェーデンの若者が、アパレル業界における「ブラック企業」に潜入するドキュメンタリーを、現地新聞と製作しました。

ファッションの抱える課題を浮き彫りにしたドキュメンタリーは、他国の学校で教材としても使用された Photo: Asaki Abumi
ファッションの抱える課題を浮き彫りにしたドキュメンタリーは、他国の学校で教材としても使用された Photo: Asaki Abumi

ノルウェーで輸入されてくる60%の服は、中国、バングラデシュ、トルコから。

「エチオピア首相がノーベル平和賞を今年受賞したことがきっかけで、国の印象が良くなり、多くの企業が今後エチオピアに工場を移すでしょう」

「しかし、企業は工場の情報が消費者に知られることを嫌がる傾向にあります。労働者の生活を守るためにも、消費者が声をあげなければ。圧力をかけ続けないと、何も変化は起こりません」と、レフレルさんは話します。

個人レベルでは何ができる?

「100%サステイナブル」、「リサイクル」を謳うブランドには気を付けて、と話す専門家 Photo: Asaki Abumi
「100%サステイナブル」、「リサイクル」を謳うブランドには気を付けて、と話す専門家 Photo: Asaki Abumi

ノルウェーのテキスタイル業界における議論で第一人者でもある専門家イングン・クレプさんと、ファッションメディア「ナイス・ファッション」の記者であるトーネ・トビアソンさん。

個人でできることとして、彼女たちが提案するのは

  • オーガニックのコットンを選ぶ
  • 服を買いすぎない。古着だとしても、その素材は?
  • 大きな国際ファッションブランドより、地元のブランドを選ぶ
  • 服の素材をチェックする。プラスチックでできていないか?洗濯するとマイクロプラスチックが発生する
  • 今ある服を大事に使う
  • 新しい服を次々と買うのをやめる

あたかも環境に配慮したかのように見せかけていないか?「グリーン・ウォッシュ」を疑え

彼女たちは、「リサイクルされた」ことを謳う衣服にも懐疑的でした。なにかをリサイクルしたことで作られた新作の服。しかし、そのような服は質が悪く、長く使えず、化学薬品にまみれている場合もあります。

「私たちの社会に必要ではないものは、安い服です」と話すトビアスソンさん。

「服を買うなと言っているのではありません。必要な機能の服が地元企業で生産されていないなら、別で買うしかない。バス停が近所になければ、環境に悪くても車に乗るしかないのと同じこと。移動手段の議論と同じように、ファッション業界の改革で一番必要なのは、政策」。

政治家に責任を持ってもらうためにも、市民は声をあげる必要があると、クレプさんは話しました。

環境議論で陥りがちな他者批判・自己批判

環境や気候がテーマの時、どうしても起こりがちなのが、

  • エコな行動ができていない他人を批判する(飛行機に乗る環境活動家、肉を食べる政治家など)
  • 「自分の生き方は、環境を汚染している」。自分はだめだと落ち込み、罪悪感を抱く

しかし、個人も企業も、誰でも矛盾は抱えてしまうものです。

自分や他人の行動を批判するばかりの報道やSNS投稿のシャワーを浴びていると、人々の心は暗くなりがちです。そのためにも、グリーンな取り組みを「魅力的にする」必要性は、北欧ではよく叫ばれています。

「新しい服をどんどん買って、捨てる」という習慣を減らすアプリ

環境とファッションを、マイナスな他者批判や自己批判に持っていくのではなく、どうやって楽観的で楽しい、ポジティブな空気にしていくか?

ノルウェー発のアプリ「タイセ」(Tise)は、エシカル・ファッションや服のサーキュラーエコノミーに関心がある消費者をターゲットにして、古着を売買するコミュニティを作りました。

服が大好きな人たちが、「いいことに貢献している」と感じながら、服を売り買いできるアプリ Photo: Asaki Abumi
服が大好きな人たちが、「いいことに貢献している」と感じながら、服を売り買いできるアプリ Photo: Asaki Abumi

「食品ロス」はよく話題となりますが、ファッション業界にも「ファッション・ロス」があります。なんらかの事情で、店が売りたがらなかった服を、タイセ側が販売し、服に「第二のチャンス」を与えています。

この勉強会には、20代の若者の姿が多くありました。

私たちが毎日着る服が抱える社会問題。気候変動とファッションの関係は、今後ますます注目を集めそうです。

会場にあったのは、プラスチックではない竹製のカップ、100%リサイクルされたペン Photo: Asaki Abumi
会場にあったのは、プラスチックではない竹製のカップ、100%リサイクルされたペン Photo: Asaki Abumi
イベントを企画した「地方の青年団体」のマガジンには、音楽祭でのエコな過ごし方のヒントも掲載。「車や飛行機ではなく、公共交通機関で行こう」、「長期的に使える衣服を着よう」。音楽祭の主催者には、「環境に優しいエネルギー供給を」、「使い捨ての食器を使わないで」、「すべての参加企業に環境規則を設けて」、「あなたたちのエコな取り組みの情報を隠さずに公開して」 Photo: Asaki Abumi
イベントを企画した「地方の青年団体」のマガジンには、音楽祭でのエコな過ごし方のヒントも掲載。「車や飛行機ではなく、公共交通機関で行こう」、「長期的に使える衣服を着よう」。音楽祭の主催者には、「環境に優しいエネルギー供給を」、「使い捨ての食器を使わないで」、「すべての参加企業に環境規則を設けて」、「あなたたちのエコな取り組みの情報を隠さずに公開して」 Photo: Asaki Abumi

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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