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唇の治療薬ドーピングから感動復帰、ノルウェーのクロカン女王ヨーハウグ

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
薬物検査で「自分に罪はない」と号泣した選手が笑顔で優勝 Photo:Abumi

10日、ノルウェーの首都オスロのホルメンコーレンで開催されたノルディックスキーのワールドカップ(W杯)距離。

女子30キロクラシカルで、ノルウェーのテレーセ・ヨーハウグ選手が優勝した。

石田正子選手(JR北海道)は10位。

スタート直後、どんどんと他の選手を引き離すヨーハウグ選手(1列目 左から2番目) Photo: Asaki Abumi
スタート直後、どんどんと他の選手を引き離すヨーハウグ選手(1列目 左から2番目) Photo: Asaki Abumi

選手は、使用したリップクリームが原因で、2016年にドーピング検査で陽性反応を示し、2018年平昌オリンピックに出場することができなくなった。

リップクリームを渡したのはチームドクターであり、「私に罪はない」と記者会見で号泣。

しかし、パッケージには注意事項が記載されていたとされる。「確認しなかった選手にも責任はある」など、ライバル国であるスウェーデン、ロシア、フィンランドなどからは批判が続いた。

「ノルウェーはドーピング」、今でも他国では忘れられない話題

ノルウェー王室御一家が見守る中、独走して優勝 Photo: Asaki Abumi
ノルウェー王室御一家が見守る中、独走して優勝 Photo: Asaki Abumi

昨年9月、スウェーデン選挙の取材で、首都ストックホルムを訪問した際のことだ。

取材で知り合った政治家や住民が、筆者がノルウェー在住だと知ると、「ノルウェーのスキー選手はドーピングしているんだよ」と、冗談で言う人が何人もいた。「こんな感じで、笑いのネタになっているのか」と、この件に関する温度差を改めて感じた。

ヨーハウグ選手に責任があるかどうかは、ノルウェー国内でも意見が分かれた。しかし、クロスカントリースキーが一般市民に浸透した「愛されるスポーツ」だけあり、同情する声も多かった。

ノルウェーのスキー聖地で感動のカムバック

資格停止処分後、ヨーハウグ選手(中央)は、「ホルメンコーレンで感動のカムバックをするだろう」とノルウェーではすぐにコメントが相次いだ。結果、その通りに Photo: Asaki Abumi
資格停止処分後、ヨーハウグ選手(中央)は、「ホルメンコーレンで感動のカムバックをするだろう」とノルウェーではすぐにコメントが相次いだ。結果、その通りに Photo: Asaki Abumi

スキージャンプ台などがあるオスロのホルメンコーレンは、ノルウェー人にとって「スキーの聖地」ともいえる場所だ。

ドーピング騒動後、カムバックしたばかりのヨーハウグ選手が、ホルメンコーレンで久しぶりに滑るということもあり、「もちろん優勝するだろう」という「当然の期待」が現地では溢れていた。

期待通り、ヨーハウグ選手は2位のナタリア・ネプリャエワ選手(ロシア)を大きく引き離して、優勝。

喜びのジャンプをするトップスリー Photo: Asaki Abumi
喜びのジャンプをするトップスリー Photo: Asaki Abumi

地元の観客は「おめでとう!」と選手のカムバックを祝った。

笑顔の記者会見に

「ノルウェー人にとっては、ホルメンコーレンは特別な場所。練習をしていた時は、ひとりで森の中を滑っていたけれど、今日はそのコースに多くの人々がいて、応援してくれて、たくさんのエネルギーをもらえました」と、記者会見では笑顔で語る。

記者会見にすっきりした笑顔で登場したヨーハウグ選手。号泣した記者会見は過去のものとなった Photo: Asaki Abumi
記者会見にすっきりした笑顔で登場したヨーハウグ選手。号泣した記者会見は過去のものとなった Photo: Asaki Abumi

ノルウェー国営放送局NRKには、「資格停止中は、平地や坂道での弱点の克服に集中。私の弱点は、いつのまにか長所となっていました」と優勝につながった理由を語る。

ノルウェーのクロスカントリースキーでは、これまではマリット・ビョルゲン選手が「女王」、ヨーハウグ選手がその後を追う「天使」のような存在だった。

ビョルゲン選手が昨年引退したことから、ヨーハウグ選手は、今後は新たな女王として、スキーの国を盛り上げていくことになりそうだ。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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