知らなかった!ノーベル平和賞の委員長を操作しようとする人々の存在

アウンサンスーチー氏や劉 暁波氏についても言及Photo:Asaki Abumi

ノルウェーの首都オスロで開催されるノーベル平和賞の授与式が10日と迫っている。ベリト・レイス=アンデルセン委員長は、ノルウェー在住の外国人ジャーナリスト向けのインタビューに応じた。

今回は、あまり知られていない委員会での裏事情も話してくれた。

ノーベル平和賞は、ノルウェー国会の各政党によって推薦された5人のメンバーでなる。「世界で最も権威ある賞」ともされる平和賞は、たった5人のノルウェー人によって選出される。

委員長ともなると、その権限は絶大だ。平和賞の選考を操作しようと、様々な手法でコンタクトをとってくる人々がいるという。

オスロ市庁舎での授与式。2016年受賞者のコロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領 Photo: Asaki Abumi
オスロ市庁舎での授与式。2016年受賞者のコロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領 Photo: Asaki Abumi

「私は大きな問題だとはあまり思ってはいませんが、私に影響を与えようとする人たちはたくさんいます」。

委員長の考えをなんとか変えようと、毎週10通のメール

どの人が選ばれるべきで、どの人が選ばれるべきでないか。そのような内容のメールが週に10通ほどは届くという。

「返事をすることは絶対にありません。対話を始めたくないので、『メールをありがとう』という返事さえもしません」。

受賞者のノミネート方法は委員会の公式HPに記載されている。それにも関わらず、わざわざ委員長のメールアドレスを見つけ出してまで連絡してくる人がいることには、驚きを隠せないという。

委員会メンバーらは、日常生活においても、どのようなイベントに出席するかなどは注意をしなければいけない。弁護士としても働く委員長は、これまでに人権や女性問題に関して積極的に公演などもしてきたため、今の立場ではさらに気を使うそうだ。

「委員長を潰そうとする人はいるのですか」という記者からの質問には、「それはないとは言えないのですが、あまり詳しくは話せない」とのこと。

1時間20分、自分が話せる範囲で答える委員長。今年の受賞者に関してはもうよく知られているので、委員会が普段どのような人から接触を受けるのか、記者たちは興味津々だった Photo: Asaki Abumi
1時間20分、自分が話せる範囲で答える委員長。今年の受賞者に関してはもうよく知られているので、委員会が普段どのような人から接触を受けるのか、記者たちは興味津々だった Photo: Asaki Abumi

委員会を直接訪問する人よりも、メディアを利用した計画的なキャンペーンのほうが問題

オスロにあるノーベル委員会の建物を直接訪問しようとする人もたまにいるそうだ。

「このスカイプやメールができる現代で、飛行機に乗ってまで委員長に会いに来ようとする行為は、賢いとは思いませんがね。まぁ、これに関しては私はプレッシャーを感じてはいません」。

オスロ王宮裏側にある委員会 Photo: Asaki Abumi
オスロ王宮裏側にある委員会 Photo: Asaki Abumi

それよりも、メディアを利用した「プロフェッショナルなキャンペーン」のほうが、気にかかるという。

後ろに隠れた団体らが作ったナラティヴが、そのままメディアに掲載されることに成功することがある。「その話は必ずしも真実ではないので、危険な流れだと思います。私たちは報道陣が書くことを信じていますからね」。

選考過程においては、信頼できる最高の専門家やアドバイザーの意見を聞くそうだ。「必ず違うソースの人々から考えを聞きます。有名な大学から専門家が2人いたとしても、2人は全く違う角度で物事を見ていることがありますからね」。

「もちろん、メンバー個人の考えは選考過程に影響する」

委員長は、メンバーたちの個人の生い立ちや考えが、選考過程に影響するのは当然のことだとも話した。「なぜあの時代に、あの人が選ばれたのかというのは、その時のメンバーの構成によります」。

「当たり前のことです。私たちはひとりの人間ですから。ノーベル平和賞はその考えが集合化されたものです」。

それでも、ノルウェー政党と政治の考えを反映をしたものではない、と委員長は話す。

「私たちは異なる背景、異なる政治色を持っています。私を驚かせるのは、それでも、私たちが互いを尊重しあい、合意に至ることができること。相手を言い負かせようという姿勢ではなく、相手の考えを熱心に聞き、『確かに君の解釈のほうが良いね』と対応できる。私たちは内部での話を外部には漏らさないので、その環境が、内部での話し合いをよりしやすくしているのでしょう」。

平和賞の予測やノミネート暴露の報道には興味なし

毎年、各国で話題となる「ノーベル平和賞の予測」報道が、選考に影響することは絶対にないという。予測で有名なオスロ国際平和研究所(PRIO)においても、一切のプレッシャーを感じないと委員長は話す。

「まぁ、新聞は毎日読みますけどね。誰がノミネートされたかという報道を読んで、『あらあら、それって本当?』と思うこともありますよ」と笑った。

Photo: Asaki Abumi
Photo: Asaki Abumi

アウンサンスーチーから平和賞はく奪はない

これまで平和賞を受賞した人物の中で、人気がない・物議となった人といえば、アウンサンスーチー氏とキッシンジャー元米国務長官の名前を挙げた委員長。委員会は、賞をはく奪する意思はない。

別記事「「ノーベル平和賞を撤回し、逮捕してほしい」。平和を語るキッシンジャー氏の公式招待に批判の声」

「受賞後にどうするかは、その人・団体の責任です。委員会は賞を取り上げることもしなければ、葬式に行くことも、さらなるセレモニーを開催することもありません。オスロを受賞者が再訪するとすれば、私たちはゲストとしては迎えます」。

唯一の例外は、劉 暁波氏

「劉 暁波氏だけは特別でした。委員会として声を上げたのは、中国の政治に対してではありません。私たちの受賞者が投獄され、賞を受け取りにくることができなかった、『自由』に対して声をあげたのです」。

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今年の平和賞を受賞したのは、コンゴで性暴力を受けた女性の治療を続けるデニ・ムクウェゲ医師と、性暴力根絶を訴える活動を続けるイラク人女性ナディア・ムラド氏。

「武器としての性暴力は、西洋中心の話題が独占するメディアではスポットライトを浴びてきませんでした。私はムクウェゲ医師の活動に感服しています。それなのに、彼も活動をこれまで表彰されていませんでした」。

両者がオスロを訪問する授与式は、10日にオスロ市庁舎で開催予定。

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Photo&Text: Asaki Abumi