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ノルウェーが観光PRを狙う映画『スノーマン』予告公開、第2の『アナ雪』となるか?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ハリー・ホーレ警部が映画化 Photo: thesnowmanmovie.com

ノルウェーの小説家、ジョー・ネスボ著『スノーマン』の映画トレーラーが公開された。

北欧では犯罪推理小説ブームが根付いており、ジョー・ネスボはノルウェーでは誰もが知る有名な小説家。

数々の事件を解決するハリー・ホーレ警部シリーズは現地でも特に愛されており、今回の映画化は大きな注目を浴びていた。

トーマス・アルフレッドソン監督、マイケル・ファスベンダー主演。ノルウェーと英国では10月13日、米国で20日に公開予定。

行方不明となった女性のスカーフが、雪だるまの首に巻かれて発見される。ハリー・ホーレ警部が捜査を担当することに。

ノルウェーの人々にとって特別な映画

製作国は英国となるが、ノルウェーの人々にとって、これはただの映画ではない。

ノルウェーで撮影してもらいたいが一心で、国のメディアや政治家が総動員でラブコールを送った映画だ。

北欧の中でもノルウェーは特に物価が高い。国外の映画プロダクションにとっては、絶景スポットと美しい自然にあふれたノルウェーは魅力的な撮影地。だが、数週間滞在するだけで莫大な費用がかかってしまう。そのため、ノルウェーは映画のロケ地としては避けられる傾向があった。ノルウェー側が一部負担をすることもあるが、それでも「他の国でも撮ろうと思えば撮れる」と判断されやすい。

『アナと雪の女王』のスタッフがノルウェーを訪れ、オーロラや民族デザインがインスピレーションのもととなったことはノルウェーにとっては嬉しい出来事だった。

『スノーマン』映画化の話が出てきた時、ノルウェーはすぐにロケ地候補として名乗り出た。

大人気のネスボの作品、多くの人が読んだあの本、『スノーマン』といえばノルウェーのみんなのもの!ノルウェーが舞台の作品なのだから、他の国で撮影しないでほしいという思いは強かった。

2015年、オスロ市議会は、首都オスロがロケ地として採用されるために(市民の税金で)どれだけの補助金を申し出るか話し合っていた。その時、こんな「噂」がノルウェーで報道された。隣国スウェーデンも補助金を出すので、首都ストックホルムで撮影してほしいとのこと!その噂をきっかけに、オスロ市議会は150万ノルウェークローネを出すことを決定。後に、この噂はデマだったことが判明した。

結果、オスロ、ベルゲン、リューカンがロケ地として使用されることに。

オスロ市議会だけではなく、他の複数の自治体やノルウェー政府からの補助もあり、『スノーマン』はノルウェーの人々が財布を開いた形で、ノルウェーで撮影された。

オスロでは日本の観光ガイドブックにも掲載されているスキージャンプ台があるホルメンコーレンや市庁舎などで撮影。

撮影中は、ノルウェーの取材陣がオスロからベルゲンへと始終ついて回っていた(例:国営放送局NRK)。それほどこの国の人々にとっては、特別な小説なのだ。嬉しくて、たまらないのだ。

オスロ観光局は、観光客向けにハリー・ホーレ警部のエピソードがある場所を回るツアーを開催している。

オスロ市議会の文化局ハンセン局長はNRKに対し、「お金では測ることのできないマーケティング価値がある」として公開を楽しみに。

今回の映画化で、世界中のファンたちがノルウェーを訪れ、ノルウェーの知名度が国際的に広まることを、地元の観光局や政治家は期待している。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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