人権よりも利益(養殖サーモン)を優先する責任の重さ ノルウェーの葛藤

ノーベル平和賞の空席、劉暁波氏が賞を受け取りにノルウェーに来ることは叶わなかった(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「劉暁波氏の言葉は生き続けます。民主主義のための闘いは、彼とともに死んだのでしょうか?いいえ。劉氏の声は中国の現状を世界に知らしめました。彼のしたことは無駄とはなりません」。

「世界では民主主義と人権が圧力にさらされつつあります。最近は自国の優先ばかりを話し、私たちは自国の経済的事情や中国との貿易を優先させなければいけません。しかし、人権、言論の自由、民主主義のための闘いを、趣味にしてはいけません。会議での綺麗なテーマや、カクテルグラスを手にした場での美しいスピーチのためのものではあってはならないのです。私たちの経済的都合のために、特例を作り始めてはいけません」。

ノルウェーの首都オスロにある、ノーベル平和センターのディレクター、トッレス氏が14日に出した声明だ。現地の最大手アフテンポステン紙にも大きく掲載された。

劉暁波氏の死は世界に大きな衝撃を与えた。ノルウェー国会にいる政治家たちの心中も大きく揺さぶった(はずだ)。

劉暁波氏にノーベル平和賞が授与されて以来、中国はノルウェーに憤慨し、貿易や政治的対話は完全に停止。昨年、両国の関係正常化が発表されたばかりだった。「中国の内政に干渉はしない」という条件のもとに。

ノルウェー政府の大臣たちの意向は、恐らく多くの人が理解する。それでも、「でも、おかしくはないでしょうか」、「落胆している自分がどうしてもいます」と、現地の人々は声をあげる。批判的な報道や声はやまず、記者はアーナ・ソールバルグ首相にコメントを求め続けた。

首相はコメントは避け続けたが、13日に短い一言が発表された。「劉暁波氏の死の知らせに深い悲しみを覚えた。彼は人権や中国の発展のために闘った。私の思いは彼の家族や友人と共にある」。普段は、SNSや記者に自分の思いを長く伝えることを好む首相にしては、異常に短いコメントだ。

多くの国が恐らく知らないことがある。劉暁波氏をノーベル平和賞にノミネートした一人が、誰かご存じだろうか。ノルウェー政府のヤン・トーレ・サンネル地方自治大臣(保守党)だ。劉氏に関してコメントを避けていたが、「国会議員だった当時と、大臣になった今では状況が異なる」と、沈黙を続ける理由をノルウェー国営放送局NRKに5日話した。

政権が右翼でも左翼でも、恐らく反応は変わらなかっただろう。それほど中国というビジネスパートナーは魅力的な存在だ。

「我々の首相は何て哀れなんだ」、「ノルウェー政府は劉暁波氏よりもサーモンを選んだ」。「超えてはいけない境界線はないのか?中国との貿易のために、ノルウェー人は誇りとアイデンティティを代償として支払っている」、「“大金よりも人間を優先”と発言していたノルウェー首相を誇りに思う。劉氏、安らかに眠れ」、「ノルウェーのみんなが口を閉じれば、中国にもっとサーモンを売ることができる!」。SNSや現地メディアでは様々な声が交錯していた。

首相はこのような反応がくることは、もちろん予測していただろう。それでも、国のトップとして中国との関係を優先した。

利益を人権よりも優先せざるをえなかったことを、ノルウェーの人々に痛感させた劉暁波氏の存在。ノルウェーと他国との外交において、強い政治シンボルとなった養殖サーモン。劉暁波氏の名前は、ノルウェーの教科書に特別な存在として刻まれることになるのだろう。

Text: Asaki Abumi