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ノルウェー政府、中国との国交正常化で養殖サーモンをPR/首相訪中で人権問題はタブーに

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ノルウェー首相、背景の言葉は「ノルウェー」 Photo:Asaki Abumi

中国との国交正常化に伴い、ノルウェーは産業界を中心に中国への熱いPR活動を開始した。

10年ぶりの訪中

ソールバルグ首相は3月31日に中国を公式訪問することを発表。4月7~10日、ブレンデ外務大臣とメーラン貿易・産業大臣とともに産業界のトップを連れて訪問予定。ノルウェー首相の訪中は10年ぶりとなる。

「中国はアジアの中で最も重要な貿易パートナー。国交正常化はノルウェーの産業界や労働市場にとって大きな可能性を秘めています」と首相はプレスリリースで発表。

ノルウェー経営者連盟(NHO) 代表のルンド氏は最大手経済紙DNに、首相の訪中は貿易のドアを開ける「鍵」を意味すると話す。「水産業、観光、再開発エネルギー、グリーンテクノロジー業界などにとって重要な意味をもちます」。

ノルウェー養殖サーモンをまた食べてもらいたい

特に、得意分野の養殖サーモンを売りたいという姿勢は国内メディアを通しても伝えられている。サンドバルグ漁業大臣はPR大使となり、プレスツアーで訪れた中国の報道陣をノルウェー現地で歓迎。

DN紙にはブレンデ外務大臣の寄稿記事が全面掲載され、小国ノルウェーにとって国交正常化がいかに重要なことか国民に理解を求めた。

「意見が違っても、対話を続けようとするのがノルウェーの伝統。中国との政治的対話がなかった数年間は、ノルウェーにとって非典型的な事例でした。正常化が示すのは新しい可能性。辛抱強く、このチャンスを有効活用しなければなりません」と外務大臣は述べている。

人権問題はタブーに

同時に、今回の訪中では人権問題はテーマとして取り扱われないことを、ノルウェー国営放送局NRKが31日に報道。

2010年にノーベル平和賞が劉 暁波氏に授与されたことはいまだに尾を引いている。ノルウェー政府側の低姿勢を地元の人権団体アムネスティなどは批判。

人権問題には触れない前提での訪中に関して、首相は「まずは両国の間に橋を架け、信頼を取り戻さなければいけない。すべての難しい課題を最初のステップで話そうとすることは不自然」と地元メディアに回答している。

4月3日、劉 暁波氏の友人であるHu Jia氏はNRKの取材に答える。人権問題よりも貿易を優先する政府の姿勢に対して「これがノルウェーか」と落胆した思いを述べる。「訪中するのは誰ですか。ノルウェーの首相ですか、それとも魚を売りにくる人ですか。ノルウェーの首相がこのような問題において怖がり、口を閉じるのであれば、あなた方は間違った人を首相に選んだのではないですか」と答えている。

1989年の平和賞受賞者であるダライラマ14世は、2014年にノルウェーを訪問。しかし、中国との関係悪化を懸念した首相や政府関係者は、公式な面会を断固として拒否。

中国の機嫌を損ねないようにする政府を批判する野党や人権団体、メディア。しかし、国の利益と外交を長期的に考える必要があると、政府は理解を求め続けている。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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