「航空券1050円値上げ」環境政策でノルウェー格安空港が廃業に? 失業者増で苦情殺到
1050円の環境税で、リュッゲ格安空港が永久閉鎖に?
「環境先進国」といわれているノルウェー。環境政策のための資金集めのために、航空券の値上げが国会で議論されてきた。5月、政府は飛行機の乗客に対して、6月1日より80ノルウェークローネ(約1054円)の環境税の適用を決定した。
その結果、24日、オスロ郊外の格安空港として知られているリュッゲ空港が、10月末をもっての廃業を発表した。
「ビール1杯分の環境募金」が広げる波紋
80ノルウェークローネといえば、オスロの飲食店で注文するビール1杯分の値段だ。環境問題を心配しているはずの国民が大勢いる国ならば、「環境募金」だと思えば、大したことはないのではないか。しかし、値上げは、多くの国民の反感を当初から買っていた。
SNSでは国民からの反対の声が目立ち、賛成の声を挙げていたのは、主に野党である左派勢力の政治家や環境団体だった。
「飛行機→環境汚染=格安料金であってはいけない」という考え方
「環境のことを考えるのならば、飛行機はできる限り乗るべきではない」という発言をする政党が存在するノルウェー(緑の環境党)。そこまでは言わずとも、「大量の排出ガスを出す飛行機では、利用料金は格安であるべきではない」という考え方に同意する政党は、他にもいる。
環境税は、格安航空会社ライアンエアーへの絶縁状
「値上げで、一部の利用者が減少するかもしれない」ということは?「それでは儲からない」と判断するライアンエアーとの「別れ」を意味する。同社は、リュッゲ空港を利用していた。航空券値上げが議論されていた時から、ライアンエアー社は責任者をノルウェーにまで飛ばし、財務大臣に面会にきていたほどだ(「国外の財界が、ノルウェー政府に圧力をかけにきた」とも捉えられた)。
約1000人の失業者
結果、「ライアンエアー社なしではビジネスにならない」として、空港は年内の閉鎖を公式に発表することとなった。それは、約1000人の失業者を意味する。
首相はこの日、フェイスブックで「ライアンエアーには我々に圧力をかけさせない」と投稿。国会が決議した緑の政策転換の一環であり、空港が一企業に振り回されている状況を疑問視した。
失業者の増加に対しては、国会議員や、空港のある地元の地方議員からも非難の声があがっている。来年度の予算案の変更や、環境税の廃止を求める声もまだあるが、空港はすでに閉鎖を発表した。
日本からの旅行者は、もうひとつのガーデモーエン空港を利用する場合がほとんどなので、大きな影響はないとみられる。
政党同志の駆け引きの駒に
ノルウェー政権は保守党と進歩党の少数保守連立政権だが、過半数を占めるために、少数派政党である自由党とキリスト教民主党と政治合意に達している。自由党は、環境政策を得意とする政党。大多数を維持するために、与党は自由党の政策を受け入れることも必要とされる。
そのため、今回の環境税は、「自由党の政策」であることは国内で広く知られていた。反対派の怒りは、自由党へと集中する。
左派陣営についている緑の環境党と、右派陣営についている自由党。両党は急進的な環境政策で知られるが、緑の党は首都オスロでの強制政策で人気急降下中。
今回の件で、環境政策に疲れを感じ始める国民がさらに増える可能性がある。環境政策が必ずしも労働市場の活発化につながらないことが、ノルウェー政治の課題ともいえるだろう。
Photo&Text: Asaki Abumi