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W杯ブラジル「勝利のダンス」は本当に非礼か?踊りについての考えが根本的に違うとわかる友人の意外な一言

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

「今日の試合は最高に楽しかった!昔、私が子どもの頃に観たものを思い出させてくれるものだ」

筆者の友人で、ニューヨークに長年住むブラジル出身の大のサッカーファン、ジェトゥーリオ・ジェフ・サントスさんは、ネット中継で観ていた試合終了後、このように感想を話した。

カタールで行われたサッカーのFIFAワールドカップ(W杯)決勝トーナメントで、韓国を4対1で圧勝したブラジル。その喜びは相当なもので、ブラジル選手は試合中、ゴールを決めるたびに踊りまくり、チッチ監督までが踊り出す光景が全世界に伝えられた。

戯けたようにも見えるこの「歓喜のダンスパフォーマンス」について、元アイルランド代表のロイ・キーン氏は「ストリンクトリーのようだ」と眉をひそめ、疑問を呈した。

ストリンクトリーとは「Strictly Come Dancing」、ダンスコンテストのテレビ番組のことだ。「初回はまぁ良い。しかし4ゴールごとに毎回踊り、しかも監督まで。相手チームへの敬意を欠くものだ」と不快感を露わにした。

この後、踊りの是非について、サッカーファンの間で議論が分かれた。キーン氏の意見に同調する人もいれば、「ダンスは文化の一部だ」など、ブラジルを擁護する声までさまざまだ。

選手に誘われチッチ監督までダンス

FIFAによる動画

Neymar and Brazil dancing in Qatar

SNSでは「ダンスをやめろって無理だろ」「これだよこれ、彼らは純粋に楽しんでいる。愛すべきブラジル人よ」という声がブラジル擁護派から上がっている。

この試合や様子を客観的な立場として見て、筆者が思ったのは「ブラジルは試合を完璧に支配してしまった」「このダンスを見た韓国チームやファンは、からかわれた気持ちになるだろう」ということだった。そしてニュースとして取り上げられているのを見て、さらにいくつか思いが浮かんだ。

「そもそも歓喜のダンスは、ブラジルが相手国を侮辱しているからしているものだろうか?おそらくそうではない。ダンスは彼らなりの喜びの表現であり、文化の一部なのだから、いくら無礼だと言われても誰も彼らのダンスを止めることなんてできないだろう」

中南米にルーツを持つ人が多く住むニューヨークでは、彼らのダンスや音楽に対しての考え方が日本など他の地域の人々の考えとは根本的に違っていると感じる。それは昔、ドミニカ共和国にルーツを持つ友人に言われたある一言でも証明される。

筆者はある日、「日本の飲み会は2時間も3時間も踊らないでいったい何をしているの?」と驚かれたことがあった。

確かにドミニカ共和国、プエルトリコ、キューバ、コロンビアなど中南米系のパーティーでは、飲みながら踊ったり楽器を演奏したりが基本であり、じっと椅子に座って飲んでいるなんてことはほとんどない。大体が会の半ばで、誰からともなく自然にダンスし、演奏が始まるのである。

だからその友人にとって、居酒屋でじっと何時間も座って喋るだけの集まりというのが信じられないのは納得できた。筆者は「忘年会や結婚式では出し物をすることもあるよ」と説明したが、あまりピンときていないようだった。

中南米の人々にとってダンスが「文化」であるのは、歴史が物語っている。

スペインの植民地だった中南米には15世紀以降、アフリカから多くの人々が奴隷として送られ、重労働を強いられた。そんな辛い日々から彼らを救ったのが、踊りや音楽である。それが後にブラジルではサンバや格闘技のカポエイラとなり、コロンビアやキューバではサルサなどに代表されるようなラテンのリズムに昇華した。

つまり仲間と一緒に踊り、体全体で喜びを表現することは、彼らのDNAの一部と言えるだろう。生まれた時から染み付いたその文化を誰も奪い取ることなんてできやしない。

豪華絢爛なブラジルの踊りの祭典、リオのカーニバルはあまりにも有名。
豪華絢爛なブラジルの踊りの祭典、リオのカーニバルはあまりにも有名。写真:アフロ

世界中にはさまざまな価値観が存在し、立場が違えば見方も一転する。

ブラジルチームの気持ちを代弁すると「え、逆に聞きたいですが、なぜあなたたちは点が入っても踊らないのですか?」であろう。

「これはもう文化の違いだと思います」と言うのは、パーカッショニストの小川慶太さんだ。スナーキー・パピーとしてグラミー賞の受賞歴がある小川さんはバンド加入前の2007年、音楽を学びにブラジルに滞在した経験を持つ。

小川さんはブラジルでの日々をこのように思い出す。「音楽とダンスはブラジルの生活に浸透していて、滞在中は毎日が音楽とダンスの洪水でした」。だからこそ、ブラジル選手のゴール後のダンスについても「ブラジルのサッカー自体に踊りのステップの要素が染み込んでいると思うので、相手を侮辱したものではなく、自然に喜びがダンスとして出てきていて、仲間と一緒に純粋に分かち合いたいのでしょう」。

FOXスポーツは、WHY BRAZIL'S ELABORATE CELEBRATIONS ARE WHAT WORLD CUP IS ALL ABOUT(ブラジルのお祝いの仕方がワールドカップのすべてである理由)という記事を発表。マーティン・ロジャーズ記者はこのように述べている。

ブラジル人がサッカーと同じくらい好きなことがあるとすれば、それはダンスだ。そして祝う価値のある何かがあるとき彼らは通常、ダンスでお祝いをする。

サッカーは年々ビジネス寄りの傾向が強くなっており、ファンとしてそれを受け入れるしかなくなっている中、W杯は世界規模の試合のショーケースで、文化がその大切な役割を担っていることこそが、大会の魅力や醍醐味そのものである。

また記事は、ブラジルのルーカス・パケタ選手や米サッカー解説者のアレクシ・ララス氏のコメントも引用している。

ダンスはゴールを決めた喜びを表現したものであり、誰かを軽視するためのものではない。また対戦相手の目の前でそれを行なっているわけではない。これについて気に入らない人に対して言う言葉は特にない。(パケタ選手)

ゴール後の踊りに眉をひそめる不機嫌な人に対しては、生きている喜びのない人生なんだなと気の毒に思う。(ララス氏)

サッカーの世界王者を決めるW杯は、サッカーの祭典(お祭り)でもあるわけだから、結局のところ筆者はブラジル選手がそのような大舞台でも心から楽しんでいる姿を見て、彼らの大会に対する余裕と自信を感じた。リラックスして試合に臨み、サッカーのお祭りを心から楽しんでいる。それが最もわかるボディランゲージではないだろうか。

逆にそれくらいのチームでないと、世界の頂点に立つのは難しいことなのかもしれない。

さぁ、どの国が勝ち進むか、引き続き応援していきましょう!

過去のさまざまなゴール後の喜びのシーンを集めたダイジェスト

FIFAによる動画

All the BEST CELEBRATIONS at the FIFA World Cup!

「歓喜のダンス」と言えば、今回W杯の出場を逃したコロンビアなども含め、南米チームの御家芸(ちなみに、筆者はハメス・ロドリゲス選手のサルサのムーブメントが好き)。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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