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米国で警官に呼び止められ「絶対にしてはいけない」こと── 警察が13歳少年射殺

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
警察に撃たれる直前、手を上げた時の静止画像。(提供:COPA/ロイター/アフロ)

少年は「降参」の態度を見せるも、警察に「1秒」以内に無慈悲に撃たれた

アメリカのイリノイ州シカゴ市の路上で先月29日、13歳のヒスパニック系少年、アダム・トレード(Adam Toledo)さんが警官に射殺される事件があった。警察説明責任のシカゴ市民局(COPA)は今月15日、家族の同意の下、警官が取り付けていたボディカメラや監視カメラの映像を一般公開した。

複数のアングルから撮影された映像はVimeoを通して、またメディアが発信したYouTubeなどでも公開されている。これらを観ると、すべてが「一瞬の出来事」だったことが確認できる。

29日午前2時36分過ぎ、映像は無音の状態で、34歳の警官がパトカーを運転しているところから始まる。

午前2時38分過ぎ、警官は路上でトレード少年と仲間の21歳の男を見つけ、降車して追跡が始まる。(21歳男はすぐに別の警官により拘束)

午前2時38分34秒ごろから映像の音声が始まり、警官が「止まれ、止まれ」と怒鳴りながら、トレードさんを追いかける。

午前2時38分38-39秒、 トレードさんは逃走を止め、警官の方を振り返る。そして警官は興奮した様子で「両手を見せろ」と威嚇。

午前2時38分40秒、トレードさんが両手を上げると共に銃声が鳴り響き、トレードさんは路上に崩れ落ちる。

この最後の出来事は「わずか0.8秒の出来事だった」CNNなどは報じている。

警察に言われるがままに従ったトレードさんだったが、至近距離で胸元上部を撃たれた。映像は引き続き、撃った警官自身がトレードさんに「大丈夫か」「目を閉じるな」「どこを撃たれた?」と声がけしながら、心臓マッサージを施す様子を伝えている。そしてほかの警官から医療キットが届き、心臓マッサージを交代後、警官は周囲を少し徘徊。疲労困憊した様子が息遣いから伝わってくる。

トレードさんは午前2時46分、現場で死亡が確認された。

検察によると、この夜トレードさんは21歳のルーベン・ローマン(Ruben Roman)と行動を共にしていた。2人には1台の通行車両に向け発砲した容疑がかけられ、警官が行方を追っていた。

トレードさんは当時銃を携帯しており、逃走をやめた際、瞬時に右手で銃を塀の向こう側に投げ捨てていたようだ。トレードさん側の弁護士はトレードさんの行動について「警察の命令に従って立ち止まり、体の向きを変えて両手を見せた。両手に武器を持っていないにも拘わらず撃たれた」と主張した。一方、シカゴの警察共済組合(Fraternal Order of Police)は、容疑者が「銃を手にして振り向いた」ことから、この発砲は100%正当であると結論づけている。

トレードさんが拳銃を捨てている様子は動画では確認しづらく、おそらく当時の緊張した状況下では目視でも確認しづらかっただろうが、静止画では拳銃を捨てているのがかろうじてわかる。そしてルガー9MM半自動拳銃が、トレードさんが射殺された塀の向こう側で発見された。

この事件については、さまざまな議論が沸き起こっている。人々から聞こえてくる声は「警察はなぜ、13歳の子どもを標的に撃つのか?」「少年は警官の命令に従ったのに」というものから、「なぜ子どもが、拳銃を携帯しながら真夜中に路上を歩いていたのか」「親は何をしていたのか」など、さまざまだ。

シカゴ・サンタイム紙は、「何かと警察を非難したがる人は、武装している容疑者を追いかけることがどれほど危険を伴う可能性があるか、考えてみてほしい。そして警官は適切に採用されなければならず、徹底的に訓練され、その都度責任を負わなければならない」としている。

別映像では、仲間のローマン容疑者が拘束されている様子も確認できる。同容疑者は、拳銃所持と使用、子どもを危険にさらした容疑などで逮捕、起訴された。

米国で警官に呼び止められて「絶対にしてはいけない」こと

アメリカ自由人権協会(ACLU)のウェブサイトでは、公道や運転中、自宅敷地内など、それぞれのシーンごとに、警察に呼び止められた際の注意点、してはいけない行動、さらに我々の権利が解説されている。

公道で警官に呼び止められたら

「(自分の行動により)状況がすぐに悪化する可能性がある」ことを十分理解した上で、いかなるリスクも減らすために、「警官に敵意を示さず、落ち着くこと」がまず大切だとしている。

その上で「してはいけないこと」は以下の通り。

  • 走らない、逃走しない
  • 抵抗しない、妨害しない
  • 嘘をつかない
  • 虚偽の文書を提出しない
  • 両手を隠さない、隠れるようなところに持っていかない

公道で呼び止められた場合の我々の権利

  • 黙秘権がある(その場合は大きな声ではっきりと伝える)
  • どこに行くか、どこからやって来たのか、何をしているか、どこに住んでいるかなどの質問に答える必要はない(ただし一部の州では、身元を明かすために名前の入力を求められる場合があり、拒否をすると逮捕される可能性がある)
  • バッグやポケットなど所持品の捜索に同意する必要はないが、武器を所持している疑いがある場合、警察は衣類の上から軽く叩いて確認をするかもしれない
  • 警察に逮捕された場合、弁護士を雇う金銭的な余裕がない場合も、州政府が任命した弁護士を雇う権利がある
  • 出生地、アメリカ市民であるか否か、どのように入国したかについての質問に答える必要はない。(国境や空港などは除く)

そのほか、逮捕された場合、自分の権利が侵害されたと感じた時にとるべき行動、さらには公道などで警察が虐待や残虐行為をしているのを目撃した際にできることなども紹介している。アメリカに住んでいたり訪れる機会の多い人は、このような情報に一度目を通しておいて損はなさそうだ。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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